八、夏休み……じゃないよ?

 あれから、私は魔女っ子の道具として数々の実験を強いられた。

 大量の液体を無理矢理飲まされ、放置されたかと思うと無理矢理吐き出させる。

 それを何度も、何度も、何度も……。

 日々行われる、人とは思えぬ所業の数々に、私の目のハイライトはどんどん光を失っていった。


 なーんてね。

 ポーション瓶の私にそんなもんないっての。

 つまりは、色んなポーションを入れられて、経過を見られたってことね。

 色々スキルも覚えたんだけど、ちょっと長いから日記形式で思い出してみよっかなー。



 ━━二日目。


 今日も、昨日と同じ三色混合ポーションを入れられる。

 ここぞとばかりに『フラッシュ』を連発してみるも、光魔法のレベルは上がらず。

 ぬん! で魔法を発動させるくらいなら、『フラッシュ』と魔法名を言えばいいんじゃないのと気づく。



 ━━四日目。


 魔女っ子が青ポーションだけを投入してきた。

 その際、私のMPマジックポイントが60/60までいったところを見ると、私のポーション最大容量は60らしい。

 これは、ポーションの質に左右されるものなのだろうか?

 等と考えていたら、『ポーション品質向上Lv1』とかいうスキルを覚えた。

 やっほぃ。



 ━━五日目。


 青ポーションのMPマジックポイントを尽きるまで使ってやった。

 瓶の中の液体は、みるみる透明になり水となった。

 魔女っ子がそれを見て唸っていた。



 ━━七日目。


 赤と黄のポーションを交互に入れられた。青ポーションを吸い付くしたのが不味かったか……。

 私のステータスに変化はない。

 赤と黄のポーションにも何かしらの効果があるんだろうけど、私の状態空き瓶には作用しないようだ。

 これは推測だけど、赤がHPヒットポイントで黄がSPスタミナポイント回復ポーションなんじゃないかな。好きだったゲーム参照。



 ━━十日目。


 魔女っ子(未だに名前分からず)がポーションの質が向上している事に気づいた。

 いやだって、少女とタロウしかいないもんだから名前を呼ばないのよねー。って、そうじゃなくて。


 『ポーション品質向上Lv1』のスキルは、ポーション瓶である私の中のに入れておくだけで、効果が向上するというものだ。

 同じ青ポーションを何日か入れておいた時があったんだけど、最大容量と思われたMPマジックポイントが60から66に増加していた事で発覚した。

 一割効果増しってとこかしら?

 その変化に、見ただけで気づいた魔女っ子は、相当高い薬学Lvレベルを持っているんじゃないかと推測。

 やっぱ、錬金術師かな?



 ━━十四日目。


 タロウが床の上に寝転がっている。よく見るとレトリーバーっぽくて、かわいい。

 魔女っ子が部屋を移動する度に、忙しなく後を付いていく。甘えん坊なのか、忠犬なのか。

 私の事も運んでくれたらいいのになぁ。



 ━━二十日目。


 新たな光魔法を覚えた。その名も『ミラー』。

 輝く魔力を展開して景色を反射させる魔法だ。

 MPマジックポイント消費は4。効果は鏡と一緒だ。

 ……魔法を反射したりとかしないよ?

 この魔法は凄いんだぞぉ! 私の姿を初めて外から見させてくれた特別な魔法だ!


 まじでポーション瓶だった。

 丸型の、割と定番の姿。

 唯一の救いは、精細な意匠が施されたデザインが入っている事か。

 そこだけ彫ったのかしらねぇ? 素材がガラスだってのに、器用なこと。

 あ、女神が生み出したものだから、人の手で作られた訳じゃないのか。まさに神業ってやつね。

 嬉しいような悔しいような……女神め、許すまじ。


 ついでに、硬化スキルのLvレベルも上がった。

 魔女っ子のやつ、ちょいちょい私の事を落っことすのよね。ドジっ子属性も持ってやがんの。

 お陰で『硬化Lv2』に上昇している。

 耐久値の値も18/18まで伸びた。



 ━━三十日目。


 最近では魔女っ子は私を研究するよりも、ポーションの品質向上に使ってるような気がしてきた。

 それも青ポーション以外ばかり入れてきよる。

 完全に私の特性に気づいたな。青ポーションは使い潰されるって。

 でも、たまに青ポーションも入れてくれる。

 もしかしたら、青ポーションを吸い取ることによって、他のポーションの質を向上させるマジックアイテムとでも思われてるのかもしれん。

 お陰で『ポーション品質向上Lv3』だ。


 しかし、もう一ヶ月経ったのかー。全く実感がない。

 そもそも私に寿命とかあるんだろうか?

 普通にガラス瓶放置してても、結構な年月持つよね。

 だから気が長いのかしら。全身をこんにゃくに埋めてはや一ヶ月。まだまだいけそうな気がするー。



 ━━九十日後。


 飽きた。

 私は明日、この実験生活から解放される。

 ついに習得したのだ。私の現状を打開できる魔法を。

 その名は『プロジェクション』。

 せこせこ青ポーションを吸い取り育てた『光魔法Lv3』。それによって実現した私だけの魔法だ。


 ちなみに他にも色々創造したけど、攻撃的な魔法は一切覚えてない。

 光魔法ってあんまり攻撃に向いてないような気がするんだけど。

 私が知らないだけかなー、魔法創造は発想と個人の感性が全て。私がこの世界での攻撃魔法を見てないので、思い付くことができないのだ。

 ぶっとんだイメージのやつはあるわよ?

 目からビーム出る系のやつが。でも、現状の『光魔法Lv3』では実現できてない。

 まだまだ無理そうな感覚がバシバシしてる。謎。

 勇者って、どうやってこれで戦ってんだろ? 確か、いたわよねー、光属性は勇者。

 女神が言っていた言葉。

 いずれ会うこともあるだろう……ぐふふ。敵役みたいだな私。



 というわけで、今日という日に私は巣立ちます。


 苦節三ヶ月。

 まだ短い気もするけど、私の努力が実を結んだ。

 ちょうど、今は魔女っ子も部屋の中にいる。

 ふっふっふっ、見せてやるぜー? いや、魅せてやるわ、私の真の力を。姿を!


 ━━無から有、紡ぎしは、光。


 詠唱は、口から声に出さなくてもできた。

 魔女っ子に、床に落とされまくって習得したスキル『反響Lv5』。勝手にLvレベル上がったわー。

 お陰で何度か耐久値がレッドゾーンに突入したけど。

 『修繕リペア』がなかったらスクラップだったぜ。


 ━━思い描くは、在りし日の自分。


 音を響かせるスキルは、私に言葉をくれた。

 これには相当苦労させられたけど、自身に付いていたポーション瓶の蓋を【万物操作】で打ち鳴らした。

 そこで発生した音を、身体の内側で反響させ、スキルで調律していった。

 その結果が、魔法の口頭詠唱。


 私は、真の私の姿を手に入れた。


 ……投影せよ、『プロジェクション』。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る