第13話 土下座

「ターニア殿!今までの非礼は謝る!どうか力を貸して頂きたい!」


それは寝耳に水の行動だった。

自分の目に映る物が信じられない。


何故なら――あのタラハシが私の前で土下座しているのだから。


「え!?あ、いや……あの」


急な事で私は慌てふためいた。

突然研究室へとやって来て、いきなり土下座をされてしまう。

そんな状況に冷静に対処できる程、私の胆力は優れてはいない。


「と、取り敢えず。頭を上げてください!」


部下達の眼もある。

これでは私へのお願い所か、もはや嫌がらせに近かった。


「どうか力を貸して頂きたい!」


人の言葉を無視してタラハシは土下座を続ける。


聞けよ。

人の話。

後、主語がないと返事のしようがない事にも気づけ。


「兎に角、起き上って事情を話してください!話を聞かない事には答えようがないですから!」


「すまない。私とした事が取り乱してしまって……」


やっとタラハシが起き上り口を開く。

話を聞けば、何という事は無い。

要は、自分を振った令嬢を助けてやって欲しいとの懇願だった。


どうやら彼は、まだその女性の事が忘れられない様だ。


「力にはなってはあげたいけど、正直難しいわ」


理由は二つ程ある。


一つは病気の回復などは、私の専門外である事だ。

私は元聖女ではあるが、その訓練の大半は魔王討伐に主眼を置かれた物だった。

それでも回復系は一通り習得してはいるが、病気の治療方法などは門外漢に等しい。


もう一つは、その風土病が人にうつるタイプの病気である事だった。

初期の段階では問題ないが、ある程度進行するとその体に触れただけで病気が移る危険があった。

そして件の令嬢は最早末期である為、下手に近づく事さえ危険と言われている。


この病気が長年風土病として帝国に根付き、それでも尚治療法が見つかっていないのはその部分が大きかった。


因みに感染を避ける為、彼女は巨大な3連結の馬車の最後尾に乗って帰ってきている。

屋敷に帰ってからの世話は彼女の祖父母がしているようで、その世話を終えたら彼らは病気を広めない為、自害する積もりの様だった。


「そうか……無茶を言ってすまなかった」


そう言うと、彼は肩を落として研究室を出て行く。

その背中は凄く物悲し気だ。

彼にとって、裏切られた今でもその令嬢は最愛の女性に変わりがないのだろう。


「そう言えば……錬金術は生物を操る以外は何でも出来るって言ってたわよね」


多くの病気は、目に見えない小さな生物によって引き起こされると言う。

それを遮断する事が出来れば、容体を見て上げる事は可能なのかもしれない。


気密性の高い衣類。

それに私の結界を纏わせれば……そんな考えが過る。


「取り敢えず、相談だけでもしてみようかしら」


そう考えた私は席を立ち、ロザリア様を探す。

王宮か屋敷。

彼女はそのどちらかに居るはずだ。


「ちょっと出かけて来るわ。皆はそのまま続けて頂戴」


そう言い残して私は研究室を後にした。

長官にバレるとさぼるなと怒られそうだったが、タラハシの様子ではもう一刻の猶予も無いのだろう。

動くのならば急がなければならない。

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