2ー奴のポリシリー

 しかしながら、感心な(?)ことにこいつの尻好きには、ちゃんとしたポリシーがあった。


 ポリシーその① 尻を卑猥な目で見ない。


 僕は最初、こいつは尻に性的な興味が偏っているのだと思っていた。

 だが、いつだったかクラスメイトに「どっちの尻がエロいと思う? お前、尻マニアだろ?」とグラビアか何かの画像を見せられて


「うーん、俺、尻をエロいって感じたことねぇからわかんねぇな」と即答していた。


「まぁ強いて俺の好みで言えばこっちの尻だな。左右のバランスがいいし、肌つやもいい。ただもう少し大殿筋が引き締まってる方がいいな。適度に引き締まった尻はいいぞ、芸術的だ。ルーペンスの絵なんて俺の好みだ」


 それを聞いたクラスメイトは「お……おう、さんきゅ、参考になったわ」と苦笑いを残して去って行った。


 奴は、男の体操選手やサラブレッド(馬)の尻は素晴らしいと褒めることも多かった。

 どこまでも尻の魅力そのものを追い求めているようだった。


 ポリシーその② ”シリ”とつくものを愛でる


 奴はそもそも「シリ」ということばの響きも好きらしい。

例えば、『Siri』がいるからって理由でiPhoneに変更したってアホなことを自慢げに言っていた。


 1日必ず10回は「Hey Siri!」と話しかけている。よく見ると絶対その時左手は必ず尻に当てている。もしかすると奴にとってiPhoneは自分の尻と会話するための物なのかもしれない。


 あと、"シリ"カゲルとか、オ”シリ”スの天空竜とか、もの”シリ”博士とか、なんかそういうのをよく好んでるようだ。


 さらに言えば一時期、”シ”と”リ”だけで会話ができないかと本気で考えて「シリーシシシ リーリーシリーシ リーリーシ リーリーリーシリー リーシリーシシ」とモールス信号ならぬで会話を成立させようと頑張っていた猛烈なバカでもある。


 ポリシーその③ 無理に触ったりはしない


「Yes尻! Noタッチ! ったりめーだろ! てめぇ俺の尻を舐めてんのか!」

「いや……舐めたくねぇよ、やだよ」

「むやみに他人の尻を触るやつに尻を語る資格などない。尻は神聖なものだ。どうしても相手の尻を触りたくなったら必ず許可を取る。それがマナーだ」

「うんまぁ、そんなマナーはこの国にはないけど、正しいことだと思うよ、法律的にも、倫理的にも」

 そう同意すると奴は満足そうな笑顔をした。


 このように、どうしようもないやつなのだが。


 信じられないことに顔立ちは整っていて身体も筋肉質(本人いわく尻を鍛えた結果)なので、喋らなければモテた。

 実際、尻に目覚めるまではかなりモテていた。


 だが哀れ、今はまさに尻の権化、尻教の教祖、尻の呪いに取り憑かれたようなやつなので、学校中から変人扱いされているこいつに寄ってくる女の子はもういなくなったようだ。

 つまり天はニ物を与えなかったってことだな。よかったよかった。


 しかしなぜそんなに尻が好きになったのかのきっかけは、恐ろしくて今まで聞いたことがなかった。聞いたところで到底理解できるとは思えないけれど。


 それに少し似たことだけれど、一度だけ気になって「今まで見た中で一番の尻って何なの?」と訊いたことがある。


 奴は訝し気な顔でこちらを見て言った。

「なんでそんなこと聞くんだ? まさかお前もお尻の分析家アナリストを目指してるのか?」

「目指してねーよ、なんだよそれ、絶妙に嫌な言い回しだよ」

「ハァ!? かっこいいだろーが! フルメタル・アルケミストと同じくらい! オシリノ・アナリスト!」

「やめろ、苦情が来るぞ!」

 

 と、結局はぐらかされてしまった。

 やつの尻好きは遊びなのか真剣なのか、僕自身も測り知れないでいた。

 というか測り知りたくもなかったというのが正確だろうか。


 そんな奴の異変は唐突に起こった。

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