第49話 セリーヌ・ラギ・レイズ。

 それは凄惨な事故だった。


 自動人形オート・マタの操作する魔力動力荷車マギアオートカートが突如として暴走し、セリーヌ・ラギ・レイズの乗った馬車の横腹に衝突。


 まるで狙いすましたかのようにセリーヌの馬車のみなぎ倒しかなりの距離を引き摺ったあげくに止まった動力荷車。


 その衝撃は凄まじく、馬車の扉はへこみ馬も息絶え、やはりオート・マタの御者もバラバラに弾け飛んで。


 防弾仕様、アンチ魔法仕様を誇る王室御用達のその馬車ではあったけれど、一見乗っているものも無事では済まないだろうと思われた。




 あたしはすかさずその馬車の周囲にマナの膜を張り巡らせて、セリーヌのレイスが消失するのを防ぐ。



 肉体が死んでしまうと大抵の場合、レイスはそのまま円環に還る。


 セリーヌの場合は円環では無くアリシアのナカに還るのだけど、どちらにしても還ってしまったらこの世界のセリーヌの存在はそのまま消失してしまう事になる。



 マザーの行動を最終的に食い止めることができるかどうか。それはセリーヌ一人だけで成し遂げる事ができるものでは無いけれど、それでもセリーヌが存在するかしないかで未来は随分変わったものになるだろう。



 だから。





「セリーヌ。貴女は今死にました」


 ちょっと茶色がかった癖毛。ふわふわのそんな髪がふんわりと肩までかかる。


 まだ幼さが残るけれど、その顔立ちはあたしによく似たそんな容姿の少女。


 あたしは背中の天使のエンジェルウイングをふわふわと羽ばたかせ、彼女の目の前をふわんと浮いている。


「ふふ。そっか、あたし、死んじゃったのか」


 そう、あっけらかんと言う彼女。


「あらら。あんまり動じないんですね?」


「まあ、別に死んじゃうんならしょうがないかなって」


 ほんとしょうがないな、諦めが早すぎるよこの子。まだ十歳でしょう? 


「諦めが早すぎません? ここはほら、女神様助けてとかなんとかそういう場面じゃないですか」


「助けてって言ったら良い事あるんです?」


「うきゅう。ひねてませんか? こんな子でしたっけあなた」


 にゃ! って感じでびっくり目になるセリーヌ。


「あたしの事、しってるんです?」


 って、ちょっとだけつかみおっけい?


「そりゃあもう。知ってるなんてもんじゃないですよ? あなたの事なら過去から未来まで!」


 だってね、本人だもんね。


「未来って。あたしここで死んじゃったんじゃなかった?」


 あうあう。死んじゃったのに未来がって言われてもピンとこない?


「そこですよそこ。貴女は本来だったらこんなとこで死んじゃう子じゃないんです!」


 そう。本来だったら。


「たぶん、ですけど、とうとうマザーが貴女のことを邪魔だって、そう思考したって事なんでしょうけど?」


「マザー?」


「貴女が未来に戦う事になる宿敵、ですよ」


「えーーーーー? どういう、ことですか!?」


「この世界線ではとうとうマザーがこの時代の貴女だったらこうして消してしまえるっていうそんなブロックを見つけたって事です」


「マザーの思考はチェーンのように複雑に絡まってますからね。常に最適解最適解と辿ってはいるんですけど、この先の未来に破滅があることをシミュレートしてしまったんでしょう。貴女というキーを取り除くことが最適解だと判断されたって言うこと、ナノデスよ」


「うーん。要するに未来のあたしが邪魔になるから今のうちに殺しちゃえ、みたいなはなし?」


「そうそう。そういうことです。で……」


 あたしは一瞬どうしようかなって考えて。でも。ままよ!


「このまま貴女が死んでしまうと色々と不具合が発生するので、それを阻止するために未来からやってきたのです。あたしは貴女の未来の姿なんですよ!」


「えーー!!」


 流石に驚いてくれてる。なんだか感情の起伏があんまりなくなってた感じのセリーヌ。もうちょっと人間らしい心取り戻してくれるといいんだけどな。

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