第39話 小説の世界。

「大丈夫ですか姫さま」


「何かございましたか姫さま」


 フロスティとタビィがあたしの顔を覗き込んでるのに気がつき、我にかえったあたし。


 目の前のラギレスは? もう居ない。


 紅茶は冷め切っている感じだけどあたしまだ図書館にいる、よね。




 ラギレスにもっと聞きたいことがあるけど彼女はあたしがセリーヌだった当時の記憶とどうしてこうなったのかのイメージだけは残していってくれたみたい。



 そのイメージによると。



 あたしという存在はここに在るのと同時に別の世界のアリシア・ローレンという女性であるらしい。


 アリシアであったという記憶が無いのは、彼女はコールドスリープ中に心だけ転生しているみたいな状態だからなのだという事で。


 そしてまた、その転生先、すなわちここの世界は彼女が書いた小説の世界なのだという事で。




 世界は無数に生まれては消え消えては生まれてくる。


 そして、人の心からも世界は生まれるのだ、と。



 ラギレスはそうした世界のイメージを残していってくれた。



 この世界も、佐藤悠希のいた世界も、全て本当の世界であると同時に、アリシア・ローレンがVRで訪れている世界でもあるのだということ、なのだと。




 なんだかわかったようなわからないようなそんな感じでふにゃぁだけど。まあしょうがないか。


 佐藤悠希はVRでゲームの世界に来たと思ってたけど、でもそれをきっかけにやって来たのはこのセリーヌの世界だったって事なんだもんね。




 悠希だった事は覚えてるし今のあたしは自分が悠希だという自覚とセリーヌだという自覚を同時に持っている状態。


 少し今はセリーヌ寄りになってるけどこれ直近の記憶のせいかな。


 大好きな兄さま。会いたいよ。


 好きだった拓真。ほんと大好きだしボクは今女の子なのだから、もし彼もこの世界に来てしまっているのなら会いたいよ。そして、堂々と好きだって言いたい。



 そんな二つの感情がせめぎあっている。



 どうすればいいのかなこれから……。




 《そんなに難しく考え無くてもいいんじゃない?》


 シルヴァ?


 《追いかけてる勇者タクマの情報を探す。俺、ギルドでちょっと小耳に挟んだ話もあるんだけど、聞きたい?》


 うん。聞きたい!


 《奴はどうやらこの街で冒険者してるっぽいよ? だからさ、まずそいつ探してセリーヌの探してるタクマかどうか確認してみたら? 城に帰るのはそれからでも遅くないんじゃないかな》


 あう。ありがとうシルヴァ……。



 うん、そうだよね。


 まずそのタクマが拓真かどうかを確かめて。それからでも遅くないよね。

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