第28話
次の日の昼休み。
昼休み前の三限の授業から、私は迷っていた。
――昼ご飯をどうしようか。
いつものように四人で食べるのか、それとも前のように一人で食べるのか。以前の私ならこんな馬鹿げたことをいつまでも考えることはなかったのだが、今の私は違った。このことは、私とこだまのこれからに決定的な結果をもたらす、一つの要因のような気がしていた。
もし、一人で食べるのなら、日常的にこだまと話す機会は皆無となるだろう。ただでさえ学校でこだまと一緒にいれる時間は短い。一緒に帰ることをやめたのなら尚更のことだ。だから、これは最後の砦でもある。
ただ、なんというか、辛いのである。こだまが、私の知らないこだまが、私の知らないところで何をしているのか、そして何を考えて私に笑顔を向けるのか。こだまから決定的な言葉を聞くのが、とても怖いのだ。私はいつまでも、小さな「希望」を捨てることができなかった。
昼休みになってもなお、私は躊躇していた。こんなことで優柔不断になっているようでは、これから何も決められない気がする。大切なことは、こだまとのこれからを考える上で重要なことは、まだたくさん残っているのに。私は決めかねていた。
弁当箱を机に乗せたままぼーっとしている時、声をかけられた。私は、彼女が来ることを待っていたのかもしれない。彼女に背中を押されるのを、待っていたのかもしれない。私は本当に、甘えている。
「みゆきちゃん、一緒に食べようよ」
彼女の声は昨日より元気が戻っていた。無理して元気に振舞っているのかもしれないが、そのことは私を安心させた。
まったく。なんてことだ。彼女の幸せを願っておきながら、気を使わせて。私にできることは、まだあったのに。
「ええ。今行こうと思っていたところよ」
わざわざ彼女がここに来てくれたのにも理由があるのだろう。私は彼女を安心させなければならない。
私がそう言うと、こだまはほっとした顔をした。
「お、みゆきりん。ちょっと顔色良くなった」
「最近元気なさそうだったもんね」
お昼を食べながら、二人はそんなことを言った。そんなに萎れていたのだろうか。
「ええ、まあね」
あまり突っ込まれたくない話題なので、曖昧な返事を残した。
――何か、話題をそらせるものは。
そうだ。
「由美さん、彼氏とかはできたのかしら」
二人はむせかえった。こだまが隣にいる由美さんに「大丈夫?」と言っている。
「みゆきが唐突にそんなこと聞くとは思わなかったよ」
「直球だったね」
由美さんたちが驚いたように言う。
私は顔こそ由美さんのほうを向いているが、こだまの反応を窺っていた。そんな自傷行為のような真似をしていた。こだまは、動揺する素振りすら見せずにお弁当を口に運んでいる。
「まあ由美は本日も平常通り運行してるから安心して」
「そうそう。二週間かそこらで彼氏ができるなら苦労しねーっての」
……彼女はもう開き直っているらしい。
「てかみゆきもそういうの興味あるんだね」
「はーい。うち、みゆきりんの好きなタイプを聞きたいです」
佳菜子さんが冗談めかして言った。笑いながら、由美さんの視線もこちらに向けられた。
私は、無意識のうちにこだまの方を見てしまった。彼女の大きな瞳は、まっすぐに私を見据えていて、目が合ってしまい、すぐに目をそらした。頬が熱くなる。
――今ので、気付かれたかな。
不安と高揚で身体が熱い。こだまはどう思っただろう。慣れない話題を出すものではない。ミイラ取りがミイラになってしまう。
「……別に、特にないわよ。ただ聞いてみたかっただけ」
そっぽを向きながら言うと、二人は息を吐いた。
「なあんだ。まあ新鮮な反応だから面白かったけど」
「こだまちん。今の反応をどうご覧になりますか」
突然話題がこだまに飛んだ。
「……え、私?」
「はい」
佳菜子さんが答える。
「ええ……そうだなあ……。わかんない、かも」
こちらも曖昧な返事だった。わかった上でわからないと言ったというよりは本当にわからない、という感じだった。さっきのは私の考えすぎだったらしい。最近は臆病になりすぎている。
話題はそれからたわいもないものに移り、私への追及は免れた。とりあえず、私はいつも通りの「私」を演じることに成功していた。
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