第22話 Unexpected encounter

私たちが小田急線おだきゅうせんの梅ヶ丘駅に到着したのは、午後3時前の事だった。


地下のホームからエスカレーターを使って地上に出たところで、彼が私に告げる。


「買い物に行ってくるから、ここで少し待っててくれる?」


「私もお手伝いしましょうか?」


「いや、飲み物を買うだけだし、一人で行ってくるよ。」


「分かりました。」


私にとって梅ヶ丘は初めての町である。

彼を見送って一人になった私は新鮮な気分で駅前の様子を観察した。


『ここが御門さんの地元なんだ・・・』


それにしても、まさか最初のデートで彼の家をたずねる事が出来るなんて本当にラッキーだ。


これを大義名分たいぎめいぶんにすれば、今度は彼を自分の家に招待する事が出来る。


このままおたがいの家を行き来する関係になれれば、彼との距離きょりは一気にちぢまるはずだ。


私は今後の計画を着々とり始める。


全てがあり得ない程に順調であり、私は得意の絶頂ぜっちょうにあった。


そんな私に冷水れいすいを浴びせかけるような事件が突然襲いかかる。


私が立っている梅ヶ丘駅の出入口に向かって早足で近付いてくる女の顔を見た瞬間、私の全身から血の気が引いた。


鷹飼美野里たかがいみのり!』


私は彼女の顔を凝視ぎょうししたまま、驚愕きょうがくのあまり動く事が出来なかった。


私と3メートル程の距離まで近付いたところで、ようやく彼女も私の存在に気付いた。

彼女もまた目を見開みひらいて私の顔を見ながら絶句ぜっくしている。


事前に予想がついていれば、ける事が出来たかもしれない。

しかしあまりに想定外な出来事であったため、お互いに逃げる事もける事も出来ずに、私たちは心ならずも対峙たいじする羽目になった。


何で記念すべき初デートの日に、よりにもよって鷹飼美野里たかがいみのりと顔を合わせなければならないのか?


どうしてこの女は一々私の気にさわる事ばかりするのだろう。


不愉快ふゆかいな気分になった私は、鷹飼美野里たかがいみのりの胸が不自然に盛り上がっている事に気が付く。


「その胸何なの?パッドでも入れて見栄みえを張ったつもり?けなげね。身体からだに自信が無い人は苦労するでしょう?同情するわ。」


「別に同情してもらう必要なんてありません。私の胸がどうだろうが、あなたには関係ないでしょう?」


「ああそうか、分かった。またあなたの兄貴の仕業しわざね。本当に信じられないような変態男!御門みかどさんとは大違い」


「なんでそこで私の兄さんの名前が出てくるの?」


「え・・・兄さん?・・・名前?」


不意打ふいうちをくらった私は思考しこうが停止してしまい、彼女の言っている事が理解できない。


いや、本当は理解したくないだけなのかもしれなかった。


その時、私の後ろから男性の声がする。


美野里みのり、何でここにいるんだ?」


私は、その声に確かに聞き覚えがあった。


「兄さん」


「あれ、蘭堂らんどうさん、もしかして妹と知り合いなのかい?」


恐る恐る振り返った私の目の前には、彼が立っていた。


「み、御門みかど・・・さん」


それは私にとって、あまりにも残酷ざんこくな事実だった。

彼と鷹飼美野里たかがいみのりの関係を頭では理解出来ても、私の感情はそれを受け入れる事が出来ない。


『そんな・・・そんな・・・』


つい数分前まであんなに成功の確信にちていた私の希望はくだかれ、目の前が真っ暗になる。


得意の絶頂ぜっちょうから突き落とされた私は、まるで現実からのがれるように、意識が遠のいていった。

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