チェルカトローヴァ

駄文職人

序章

 背後で、身も凍る雄叫びが聞こえた。

 大地を引き裂かんばかりの怒りの咆哮だ。

 獣は自分の縄張りを踏み荒らされた事を知ったのだ。



 ラスラは戦慄に身を跳ねさせた。



 横にいた親友と顔を見合わせると、彼の顔も青ざめていた。


 見つかった。





 二人の間に言葉はなかった。

 ただ一斉に前へ向かって全力で駆け出した。突き出た枝や木の根でデコボコになった地面も関係ない。


 逃げろ!


 逃げろ!







 怒りの主が二人を、あの長い爪でズタズタにする前に。








 鬱蒼とした森を駆け抜けながら、ラスラは思う。

 なぜ。

 どうして。




 どうしてアイツはあんなにも必死でここを守っているんだ?


 この森の先には、一体何がある?




 背後に迫るのが分かる。


 木々をもなぎ倒さんばかりに、怒りの化身が追いすがってくる。



「ラスラ、火だ!」


 親友の怒鳴り声が聞こえる。


 ひ。火…?


「そんな暇ないって!」

「このままじゃ二人ともやられる!早く!」



 ラスラはこっそり舌打ちし、ポケットに忍ばせていた火打ち石を投げようと振り返り…。




 凍りついた。




 親友のさらに奥に。


 木と木の間に。


 見えた獰猛な笑み。








 ……ミツケタ。

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