第7話 ゆきの決断


ゆきが外に出ると、ジェイスと龍が立っていた。


「ゆき!」

春香も一緒に外に飛び出してくる。


「うぅ…」

ゆきは、ジェイスと顔を合わせられず思わず鳥笛を吹いた。


ジェイスは、ゆきの様子を見てゆきの心境を理解する。


「おわ!デッケエ鳥が来ましたぜ!ジェイスの旦那!」

龍が上空を見上げる。


「黒曜鳥だ。」


「真っ黒っスね!」


黒曜鳥は、ゆきの目の前に舞い降りてくる。

ゆきは、黒曜鳥の背中に飛び乗る。 


「ヤマト、行って下さい。」



飛び立とうとする黒曜鳥ヤマトに春香も飛び乗ってくる。


ヤマトは羽を大きく羽ばたかせて飛び立つ。

羽ばたきで周りの木々がバサバサ音をたてる。



「ジェイスの旦那!ゆき嬢と春香嬢行っちゃいますよ!追いますかい?」


「野暮なことすんな。」

ジェイスは煙草に火をつけた。


───────────────────


上空(かなり高い)



ヤマトは二人を乗せてぐんぐん気流に乗る。

二人は隣り合ってヤマトに座っていた。


無言の時間が過ぎていく。


…………

………


「ねぇ、春香は何で何も言わないのですか?」

沈黙を破ったのはゆきだった。


「…」


「私の事怒ってますよね。」


「怒ってないよ。だってゆきの気持ち分かるから。」


「私、逃げちゃいました。」


「良いじゃん?私も宿題やれー!て言われるとすぐ逃げちゃうもん!」


「…私、お母さんと離れたくないです。」


「うん。」


「あんな怖い餓者達と戦うなんて出来ないです。」


「うん。」


春香はゆきを抱きしめる。

ゆきは泣いていた。


「危ないですよ…ヒック…」


「大丈夫だよ!」




───────────────────



二人がヤマトに乗って飛び立ち、二時間が過ぎた。


ゆきママが、ジェイスと龍に家の中に入るよう言ったが、ジェイスは外で待つと笑って答えた。


「ジェイスの旦那、ここでずっとお二人を待ってるんですかい?」


「ん?待つよ。」


「俺、ちょっと鍛錬してきたいんです!何てゆーかちと興奮しちまってて!へへ。」


「ぷ!お前、シルバーと戦って興奮してんの?ふはは!子供かよ!」

ジェイスは大ウケする。


「子供じゃないっスよ!」

不貞腐れる龍だったが更に子供に見えるのであった。


「あー、体動かしたいならツーベリア国まで、お前先に行ってろよ。」


「え!?ツーベリア国ですか?」


「あぁ、ノワン国の次はツーベリア国にも行くんだ。餓者が出るかも知れんしな。」


「うおおおお!!行きます!行きます!行かせて下さいっス!」


「泳いで行けよ。」


「当たり前っス!では行ってきまっス!」


「お、おい!」


「うおおおおおおおおおおおお!!!」

龍は、叫びながら山道を走って行ってしまう。


(ツーベリア国の何処だか聞きもしねえで…)

ジェイスは、ため息をついた。

直後、上空を見てニコっと微笑んだ。

龍と入れ替わるように、上空に黒曜鳥ヤマトが戻ってきたのである。


───────────────────


ヤマトが、舞い降り。ゆきと春香が、背中から降りてくる。


「ヤマト、気をつけて戻って下さい。」



ヤマトは、一声鳴くと飛び立つ。


「お帰り。腹決まったか?」

ジェイスの言葉を聞いて、春香がゆきの手をギュッと握っていた。


「はい、宜しくお願いします!」

ゆきは頭を下げた。


「あぁ、こちらこそ、宜しくな!」

ジェイスが握手を求めた。


「はい!」

ゆきは、しっかりと握手を返す。


「やったー!ゆき入隊おめでとう!」

春香が、ぴょんぴょんと跳ねて喜んだ。


ジェイスは嬉しそうにゆきに微笑むと、

ゆきは思わず照れて目を逸した。


「ゆき…」

家からゆきママが、出てくる。


「お母さん、私、行きます。」

娘の真剣な目を見て、ゆきママは娘を抱きしめる。


「うん、頑張って。」

ゆきママは、泣くのをこらえながら優しくゆきに言う。


「お母さん、娘さんは責任を持ってお預かりします。」

ジェイスは頭を下げた。


「はい、娘を宜しくお願いします。」

ゆきママも頭を下げた。何故か春香も一緒に頭を下げた。


「つきましては、ムーンブルクへのスカウト代…と言うのも変ですがこれを受け取って下さい。」

ジェイスは、平べったい金色の物をゆきママに手渡した。


「これは?」


「ゴールドドラゴンの鱗です。質屋に持っていってくれれば、五千万ボスコにはなると思います。」


「五千万ボスコ!?」

ゆきママは目をまん丸くして完全停止する。


「ジェイス様太っ腹!」


「王都に家が建てれますよ!」


ゆきも春香もいきなりの報酬に騒がしくなる。


「娘さんを預かるんです、これくらいは当然の事。あとは、密猟者問題ですが、私の配下をこの山に配置しますので、ご安心を。」


「は、配下ですか?」

ゆきママは、鱗を持ったまま声を震わせて言った。


「今呼びます。」

ジェイスは、何やら詠唱を始める。


「ゆき!イケメン配下来るよ!」


「え!でも魔法を唱えてますよ?」


ドスン!と物凄い音が家の外から聞こえた。

ゆきママ、ゆき、春香は目を合わせた。


「外に待機してますので、あ!あまり驚かない様にお願いします。シャイな奴なので。」


───────────────────


この世界の通貨


一円いちえん = いちボスコ


です。


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