第19話 コヂカの決意

 次の日は透明になることなく、何事もなかったかのように学校に向かった。いつまでも休んでいてはいけないし、カンナたちや生徒会のメンバーにも悪いと思ったからだ。ホームルーム、退屈な授業、カンナたちとの休み時間、そして生徒会。コヂカにとって、久しぶりの日常が戻ってきた。ただし傍らにはヲネがいる。




「コヂカちゃんが透明じゃなくなっても、ヲネの姿は誰にも見えないから安心してね」




 コヂカにとってヲネが見えることは、都合がいいのか悪いのか。授業中の教室で、ヲネは見えないことをいいことに好き放題している。子供らしい無邪気な笑顔で教卓に登って、日本史の教師の禿げた頭を興味津々に眺めた。まるで未知の生物でも見つけたかのように神妙な面持ちで禿げた頭を見つめ、これはなに? と言わんばかりの顔でコヂカに訴えかける。




(クリヲネちゃん、ちょっと、笑わせないでよ)




 コヂカは笑いをこらえるのに必死だった。こんなシュールな光景、なかなかない。チャイムが鳴ってトイレまでついてきたヲネにコヂカは小声で言った。




「クリヲネちゃん。頼むから授業中は大人しくしてて」


「えー、だってヲネ、じゅぎょう? 分かんないし、つまらないもん」




 ヲネは残念がって見た目通りに拗ねた。そんな姿にコヂカが頭を抱えているとヲネは




「じゃあ探検してきていい?」




と続けた。




「いいけど誰にも迷惑かけないでよ」


「もちろん。わかってるわ」




ヲネはそう言って元気にトイレから飛び出していき、次の授業には教室に現れなかった。




☆☆☆




「うちのピアスだけ全然売れない」




 お昼休みにコヂカとカンナ、シオンとお弁当を食べながら、マリはスマホを片手にぼやいた。




「あんたのセンスがないからでしょ。うち、もう3つ売れた」




 カンナはスマホリングに指をかけながら、片手で画面をみんなに見せて揺らした。メルカリの出品画面に『SOLD』の文字が並ぶ。




「値下げしたら?」




 シオンの提案にマリは渋い顔をする。




「でもこれ以上下げたら、利益が……」




 がくん、と擬音が出そうなくらいマリは肩を落として机に顔を伏せた。いつもの昼休みの光景だ。コヂカが生徒会の部室掃除や神隠しの力で透明になっている間に、3人はビーチコーミングで集めたシーグラスや貝殻でハンドメイドアクセサリーを作って出品していたらしい。朝、登校してきたコヂカに対しての「心配したんだよ」のラッシュ後、4人はいつもの関係に戻った。話に入れていないコヂカを気遣うようにカンナが




「コヂカが出したら売れそうだよね」




と語りかける。




「え? そうかな」


「うん、マリよりも先に売れそう」




 シオンも同意し、マリも




「悔しいけど否定はしないわ」




と続ける。




「材料はまだあるの?」


「ううん、カンナたちにあげたので全部」




 コヂカは弁当をつつきながら答える。ヲネが出てきたシーグラスのことはカンナたちに伝えるつもりはない。




「じゃあまた拾いにいく?」




 マリが嬉しそうにそう言うがコヂカは




「うん、そうしたいけど。ごめん、これから忙しくなるから」




と遮った。




「ん? なんで?」




 一息おいて、コヂカが打ち明ける。




「生徒会長に、立候補しようと思う」


「おおぉ」




 するとコヂカの決意に3人が歓声を上げ、それぞれ思い思いの言葉をかけた。




「絶対応援する!」「頑張って」「何かあったら、力になるからね」




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