話し合いと問題点

「わかった、なら俺がリーダーをやろう」


 俺がそう言って挙手をすると、蒼井が不思議そうな顔をして尋ねてくる。


「え?いいのぉー?柊さんがやったほうがいいんじゃなくて?」


 まったく、柊のあの顔を見ていなかったのか…。何か止むに止まれぬ理由があるのだろう。だとすれば俺がやるしかない。

 理由は後で聞くとするか。


「まぁリーダーを隠すのに越したことはないだろうしな。色々なことを想定しての判断じゃないか?」


「へぇ〜。そうなの?柊さん」


「…ええ。そうよ」


 なんとなく歯切れの悪い柊。それでも悟られないようにとなんとか返事は返している様子だ。


「なら良いんじゃないの?桜井くんがやれば他クラスとか教師にも悟られないだろうし」


「ま、そうだよねぇ」


 南の気の利いた一言で、なんとかこの話は終了を迎えた。


 その後も話し合いは続いていく。俺と南がフォローしている間になんとか気を立て直したのか、やっと柊が加わり話し合いが進み出した。


「私が…というより村田くんが主に考えたのだけれど、今回の作戦を説明するわ」


 そう言った柊は俺たちに1枚のプリントを見せる。俺たちはそれを中心にして、囲うように席を立った。


 それにはこう書かれている。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


あ1

か2

さ3

た4

な5

は6

ま7

や8

ら9

わ0


小文字 〜

濁点 /

半濁点 \

超音符 ー


数字 

1 a

2 b

3 c

4 d

5 e

6 f

7 g

8 h

9 i

0 j


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「これって…何?」


 そう言ったのは南だ。その質問に答えるのは当然柊である。


「今回の試験はメールでのやりとりになるわ。それも直接的な答えの提示はできないの。だから、私たちの中で予め暗号を作っておくのよ」


「そうすればより正確にコミュニケーションが取れるってことか?」


 俺がそう質問をする。よりスムーズに話を進めるには必要なことだろう。


「ええ、そういうことよ。だからあなた達にはこの暗号を覚えて欲しいの。そこまで複雑なものではないから、比較的覚え易いはずよ」


「んー、これってア行が1でカ行が2ってことだよね?ってことはウって文字を打つ時は1を3回打つの?」


「そうなるわね。他にも、小文字にしたい場合はその言葉の後に波ダッシュをつけたり、数字はアルファベットで表すことになるわ」


 つまるところ「桜井学」と打ちたければ、「3222911756/」となる訳だ。読むのに時間がかかるかもしれないが、より正確に向こうの状況やこちらの状況を共有できる。


「へー凄いじゃん」


 南はそう言って俺の方を見る。いや、考えたのは俺だけど、なぜ俺だとわかったんだ?

 まぁこういうことには大体関わってきたしな…。こいつならわかる可能性もあるか。


「ま、とりあえず明日までにこれを各自で覚えてくるってことで良いのか?」


「ええ、それで構わないわ。それじゃあ、今日の話し合いはこれくらいにしておきましょうか。今のところ、私たちが他にできることもないでしょうし」


 柊のその一言で今日の話し合いはお開きとなった。教室で行われている話し合いの詳細は村田に訊くとして、問題は…あと3つも残っているな。


 とりあえず、早めに取り掛からなければならないことを先にやるか。


 そう判断した俺は、帰ろうとする柊に声をかける。


「この後、時間あるか?」


「え?ええ…まぁ別にないことはないのだけれど…」


 俺に話しかけられるとは思っていなかったのだろう。若干戸惑いつつもそう答えている。


「けれど?何か不都合があるなら出直すんだが…大丈夫そうか?」


 そう訊くと何やら複雑そうな顔をする柊。やがて意を決したのか、それでもやや不安そうな顔で答えを出す。


「…大丈夫よ。ここでは変に思われるでしょうし、どこか場所を移しましょうか」


「なら、近くのファミレスでどうだ?」


「それで構わないわ」


 そう言うと柊は俺と共に音楽室から退出する。


「私は音楽室の鍵を返してくるから、先に行って待っていてもらえるかしら」


「そうか、なら俺も少しだけ用事があるんだ。少し時間を開けて、18時にファミレスでいいか?」


「そう、わかったわ」


 俺はその返事を聞くと、柊に背を向け職員室とは逆方向へと歩き出す。そして、柊が職員室へと向かい、姿を消したタイミングで音楽室の前に戻ってきた。


 俺はその部屋の隣にある第二音楽室の扉へ手をかける。


 もし俺の予想が当たっていれば、この部屋の中にはあの男がいるはずだ。

 もしいなければ問題が3つから2つに減るだけである。


 俺はそう考えつつ扉にかけた手に力を込める。そうして開いた扉の向こうには、案の定俺の予想していた人物が寝そべっていた。


「これはこれは、誰かと思えば桜井か」


 そう言って笑っていたのは、顔に胡散臭い笑みを貼り付けている…








              …矢島叶助だった。


 

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