第5話訪れるコロナの陰

 四月十八日、この日寛太郎はコンビニでバイトをしていた。

「コロナウイルスのせいで、客が全然来ないなあ・・・。」

 時刻は正午を回ったころ、非常事態宣言前は昼食を買う客が多く忙しかったが、非常事態宣言が出てからは客足が大幅に減り、寛太郎はレジ前で棒立ちしていることが多かった。

「本当に何もかも変わったなあ・・・レジ前にこんなのまで付けて。」

 寛太郎はビニールの大きな幕を見た、コロナ対策で付けられたというが、本当に効果があるのかと疑問を持っていた。すると自動ドアが開いたので、寛太郎はいらっしゃいませと言った。入ってきたのは六十代に突入したての女性、何故が日用品売り場を一通り見ている。そして女性は、寛太郎に声をかけてきた。

「あの、マスクが無いんですけど?」

「ああ、申し訳ありません。ただいま在庫が無くて、入荷待ちです。」

「はあ、使えないわね。二十四時間何でもそろっているのが、コンビニエンスストアというもんでしょ!!マスクの入荷ぐらい、ろくに出来ないのかねえ。」

 女性は嫌味を込めた捨て台詞を吐くと、何も買わずにコンビニから出ていった。

「はあ・・・確かにマスクが今は貴重品になっているからなあ・・。」

 最近、政府が国民のためにマスクをいくつか配布したそうだが、いろいろ賛否両論があるようだし、今日に限ってはそのマスクに髪の毛や虫が混入したり変色していたりと、問題になっている。とにかく今の日本にはマスクが足りないのだと、ニュースで報じている。

「僕もマスクが欲しいのになあ・・。」

 寛太郎自身は今の仕事柄あまり外出しないが、やはりそれでも外出しなければならない時があり、その時のためのマスクが欲しいのだ。

「最近、洗える布マスクというのがあるんだけど、あれはどうもなじめないなあ。」

 寛太郎の頭の中で布マスクといえば、小学生の頃に給食の配膳係でしたぐらいしかなく、すっかり使い捨てマスクに馴染んでしまった。なお、寛太郎がそんなことを考えている時も、自動ドアは開かない。

「おい、寛太郎。来てくれ。」

「あっ、はい。」

 店長に呼び出されて、寛太郎は奥に入っていった。

「店長、僕なにかしましたか・・・。」

「そうじゃないんだ、本社からの命令で人員削減をしなければならないんだ。君はユウーチューバーをしているからあまり金銭的に困ってないようなんだし、今まで働いてきたのに申し訳ないけど、来月からのシフトを無しにしてもいいかな?」

 解雇通告だった、確かにバイトを始めた時から同僚が多かった。それはここが住宅やマンションから一番近く、他にライバル店が少ないからだ。でも去年から出来たライバル店に客の足が移っているのと新型コロナウイルスの影響で、このコンビニの売上が落ちているのは明らかだった。そしてその日は寛太郎を入れた三人のバイトが解雇通告を受けた。

「わかりました、今月末で辞めます。」

「すまない、本当に申し訳ない。」

 店長は悲しげにつぶやいたが、寛太郎にしてみれば元々小遣い稼ぎで始めたのでさほど別れ惜しいという訳ではない。その日帰宅した寛太郎は、これからの生活について考えた。

「とにかくここの家賃を確保できるようにするには・・・。」

 寛太郎はその日、これからのやりくりについて考えた。




 四月十九日、この日は「オセロシアム同好戦士」でこれからのオセロシアムのイベントについてトークする日だ。

『おーい、繋がっているか。』

「繋がっています。」

【接続OK】

〈大丈夫です。〉

『よし、今日は明日から始まる「爆・強駒パレード」について話そうぜ。」

「それは楽しみですね。」

【はあ・・・あの駒、手に入るかなあ・・。】

『どうしたんだ、ビクトリア―ズ。元気ないなあ・・・・、もしかして自分のスマホを落としたのか!?』

【そうじゃないよ、実は課金する金が無いんだ。】

「えっ、そうなんですか!」

【今まで言っていなかったけど、俺は派遣社員として働いているんだ。でもコロナウイルスのせいで、どの派遣先も働けないんだ。】

 やはり密閉・密集・密接といわゆる「三密」を避けるために、どの企業もあまり人を入れたくないようだ。さらにはマクドナルドで店内飲食が中止になったり、くら寿司では感染したバイトを公表したりと、チェーン店でもコロナウイルスの影響が出ている。

〈ビクトリア―ズさん、酷い金欠みたいですけど大丈夫ですか?〉

【ああ、でも今月の課金はもう無理だ・・・。】

『何言っているんだよ、無課金でもオセロシアムを楽しんでいる人たちがいるじゃないか。』

「ジェンイーラニーさんの言う通りです、実は僕も今日バイトを辞めるようにと通告を受けました。」

【本当かい!?生活は大丈夫?】

「はい、でもやはり課金は難しいです。」

『デネブ軍も大変だなあ・・。』

〈そういうジェンイーラニーさんは、生活は大丈夫ですか?〉

『俺は大丈夫、親父からたっぷり仕送りが来ているからな。』

〈仕送りはいくらですか?〉

『毎月二十万円。』

「そんなに出してもらっているという事は・・・、ジェンイーラニーさんは働いていないのですか?」

『そんなことないよ、一応イラストレーターの仕事はしているよ。ただ親父は過保護で、一人暮らしを始めた頃から毎朝八時に俺に電話をしているんだ。まあ、二十万仕送りしてくれるなら安いものだよ。』

「そういえば、毎月二十万って凄い金額だけど、今も続いているの?」

『ああ、親父は有名な玩具会社の社長だからね。でも、親父から『仕送りが停まるかもしれない。』と言われているんだ。』

〈どこも、コロナウイルスの影響で不景気のようですね〉

『何か辛気臭い話になったな、もうこの事は忘れよう。それよりカップ戦の前哨戦、もうできたか?』

 カップ戦とは最強オセロシアを目指す大会の事で、大会のルールの元でデッキを組んで通信対戦をして、勝つごとに豪華報酬が手に入るのだ。

「出来ました。」

【俺も出来た。】

〈僕もできました。〉

『ようし、皆出来たようだな?じゃあ恒例の、早抜きトゥェンティーイwinを行う!』

 ジェンイーラニーは堂々と宣言した。

「来たか・・・。」

〈何ですか、それは?〉

【カップ戦の報酬は二十勝までだから、先に二十勝して全ての報酬を誰が先に獲得するかという勝負だよ。ちなみに二十勝できなかった場合は、失格になるから。】

〈なるほど、面白いですね。やりましょう。〉

『よし、じゃあカップ戦の本線が始まる四月二十五日の午前八時にスタートだ。いいな?』

 三人が納得すると、リモートを止めた。




 四月二十日、寛太郎は池上とリモートで話していた。

「例の動画だけど、あまり効果はないようだ・・。」

〈そうですか、それではいよいよ僕の本領発揮ですね。〉

「えっ、どういうこと?」

 池上は画面の向こうで、得意げに笑みを浮かべていた。







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