第2話不満も嫌悪も好きの内

 四月九日、新型コロナウイルスによる非常事態宣言が出されていた。しかし寛太郎の住んでいる名古屋市は、何故か対象外である。午前八時ニ十分、日課の筋トレを終えた寛太郎は暇を弄んでいた。

「この後、どうしよう・・・。動画を投稿する曜日でもないし、今日はバイトも休みだし、マンガ喫茶もこのご時世じゃ行きにくいし・・・・、ゲームするか。」

 実は本来であれば寛太郎はコンビニでバイトをしているはずだった、しかし先週店長から『新型コロナウイルスの感染を避けるために、密を無くすように言われてな、シフトを減らしてもいいか?』と言われた。よって週三だったバイトが、週一になった。

「テレビを見ても、コロナの事ばかりだしな・・・。」

 朝のニュースに映るのは、小池百合子都知事や菅官房長官や安倍晋三首相と、お馴染みの顔ばかり。この時点で世界で感染者が百五十万人を越え、日本のありとあらゆるところで感染者が出たと報じられている。そして寛太郎は逆転オセロシアムをプレイした、一時間半ほどしてスタミナ回復のため止めた。しかしこの時の勝率はあまりいい結果ではなかった。

「くそっ!!俺ってブランクなのか・・・、それとも俺の戦い方が古いのか、もう辞め時なのかなあ・・・。」

 そう考えると寛太郎は嫌な気分になった、そもそも好きになったゲームに嫌悪感や何かしらの恐怖感を感じるのが嫌なのだ。

「思えばこのゲームでランクが下がるとプレイヤー失格ていうのを思い込んでいたなあ・・・、あのゲームのPRに『負けている時が、面白い!!』と書いてあったけどなあ・・・、それってプレイヤーの気持ち次第ということだし、皆が悔しさとか連勝しなきゃと心のどこかで感じているのかも・・?」

 暇な寛太郎は自問自答していた、そんな時彼のスマホが鳴った。

「もしもし。」

『寛太郎、元気かい?』

「お袋・・・、元気だよ。」

 声の主は、寛太郎の母・美麗であった。

『コロナウイルスが流行っているけど、熱はないかい?』

「大丈夫だよ、心配ないさ。」

『浩二は相変わらず仕事してるけど、このままだと休業要請がでてしまうかもしれないって言ってたの。』

「まあ、会社勤めなら仕方ないさ。ユーチューバーはそんなの関係ないけどね。」

 寛太郎の兄・浩二は大手スーパーの名古屋支社で、営業課に勤めている。

『そっちが大丈夫なら心配無いわね、じゃあ失礼するわね。』

「ああ・・・じゃあな。」

 美麗は通話を切った、寛太郎は心なしかもう少し話したかったという、気分になった。そして布団に入り、昼まで寝た。



四月十日、この日は動画を投稿した後にリモート集会があった。寛太郎には『ジェンイーラニー』と【ビクトリア―ズ】というネット上の親友がいる。彼らは『オセロシアム同好戦士』というグループで、大逆転オセロシアムについて語る会を定期的に開いている。

「ジェンイーラニー、繋がってる?」

『ああ、大丈夫だよ。そういえば大事な話があるんだ。』

【何ですか?】

『実は、新メンバーが加わることになった!!』

「ええ!!マジで、誰!?」

【これで四人目・・・すごく気になる。】

『それでは紹介しよう、アズリエールさんだ!!』

〈初めまして、アズリエールです。〉

 寛太郎はアズリエールの顔と声に驚いた、どうも大人とは思えないからだ。

「ところでアズリエールさん、年齢はいくつですか?」

〈十歳です。〉

「ええ!!てことは、小四か小五・・・。」

〈小五です、好きな駒はアズリエルです。〉

【ああ、確かにいろんなデッキに入れられるし、最近新しい強化も来たもんね。】

『という訳で、これからよろしくね。ところで新型コロナウイルスが流行っているけど、皆は大丈夫?』

「大丈夫です。」

【問題なし。】

〈はい、大丈夫です。〉

『それは良かった、ところでデネブ軍の動画見たけど、あんなに引きが悪い結果は見た事が無いよ。』

 デネブ軍は寛太郎のネット上の名前である。

「おい、それを言うな!!」

【僕は新キャラのAランク駒全て手に入れたよ。】

「マジか・・・・・羨ましい・・・そして妬ましい・・・。」

『まあ、次のガチャに期待することだね。ところでアズリエール、シーズンマッチのクラスは今どこ?』

〈もう、ダイヤマスターへ行きました。〉

「すげえ!!ところで、オセロシアム始めたのいつ?」

〈四か月前です。〉

「え・・・・本当?そんなに早く到達したの?」

〈はい、正直勝よりも負ける方が珍しいくらいです。〉

『天才か、お前!!』

〈はい、よくそう言われています。ちなみに皆さんは無課金者ですか?〉

『いや、俺とビクトリア―ズとデネブ軍は、全員課金者だ。』

〈そうですか、やっぱり皆さんは、僕よりオセロシアムが好きなんですね。〉

『そんなこと言うなよ、プレイヤーだという事はもう好きになっている事だから。それよりも、アズリエールと対戦してみたいなあ。』

〈じゃあ、今からやりましょう。IDを教えますね。〉

『ありがとう、絶対負けないぞ!!』

 そしてジェンイーラニーとアズリエールの対戦が始まり、アズリエールの圧勝に終わった。

『嘘だろ・・・信じられないくらい強い。』

〈ジェンイーラニーさんも、中々強かったですよ。〉

【それ言われるの、ちょっとムカつく。】

「ハハハ、凄いなあ・・・。」

 こうして四人は、仲良く談笑した。そしてニ十分後に語る会は終わり、寛太郎はパソコンをシャットダウンした。




 そしてそれから一時間後、寛太郎が昼食を食べているとリモートの呼び出し音が鳴った。出るとそこには、〈アズリエール〉が写っていた。

「一体、どうしたの?」

〈実は今回、あなたにお願いがあります。〉

 〈アズリエール〉は神妙な顔で言った。

「何?話してよ。」

〈大逆転オセロシアムに復讐してみませんか?〉

「大逆転オセロシアムに復讐・・・・どういうこと?」

〈実は僕は東京に住んでいて、父はインターネットセキュリティ会社の社長をしているのです。僕は父の身勝手な教育のせいで、重苦しい生活を強いられています。ですからこれは、僕が父にする復讐でもあります。〉

「でも、それが大逆転オセロシアムに復讐するのと、どう関係があるの?」

〈父の会社の最大の取引相手は、株式会社『DNA』です。〉

「それって、大逆転オセロシアムをリリースした会社じゃないか。」

〈つまり大逆転オセロシアムに復讐して潰すことが出来たら、父の会社はセキュリティの責任を問われて、最大の取引相手を失います。これが僕の狙いです、そしてそれを成し遂げるには、あなたの力が必要なのです。〉

「ちょっと待って、私は大逆転オセロシアムに復讐心は無い。」

〈そうでしょうか?大逆転オセロシアムはネット上で人気とは裏腹に、プレイヤーの不満が多いゲームです。あなたにも、思い当たることがあるでしょう?〉

 寛太郎は本音を突かれて、パソコンの画面から顔をそむけた。

〈やっぱり、あるのですね?〉

「でも・・・そんなことで大逆転オセロシアムを嫌いにはしたくない。」

〈そうでしょうか?好きの反対は無関心であり、嫌いというのは好きから生まれるものです。もしあなたが大逆転オセロシアムに無関心だったなら、不満は抱かなかったはずです。〉

 寛太郎は再び、パソコンの画面に顔を向けた。

「そうだな・・・、その通りだ。そもそもプレイヤーの気持ちを知らない運営にも、問題がある。よし、やるぞ!!」

〈ありがとうございます。二人だけのときは、名前で呼びましょう。僕は池上神です。〉

「天山寛太郎だ、よろしく。」

 こうして二人の、復讐劇の幕が上がった。






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