第3話

「最近、立ち入り禁止の旧校舎で遊んでる生徒がいるらしいって聞いてたが、お前らか」

「いーえ違います」


 担任兼、学年主任の堂島どうじまに呼ばれ尋問じんもんを受ける。


「そうか。じゃあ今日は何であそこにいたんだ。それに相模さがみがそこに倒れてた」

「カズナリは大丈夫っすかね」

「命に別状はないみたいだが、軽い混乱状態だな。金魚鉢がどうのと言ってるみたいだが…、話をらすな」

「逸らしてないっすよ。心配してるんです」

「それより自分の心配をしろ。窓ガラスの割れる音を聞いた生徒が何人もいるし、お前が旧校舎にいてガラスが割れてたのも事実だ。相模もあんな状態だしな」

「違うんす、悪いのは全部お化けのせいなんすよ」


信じてはもらえないと分かっていたのでわざと冗談ぽく言ってみた。


「…」

「あ、やっぱり怒っちゃいました?」

「本当か」

「え」

「いや、本当にお前がやったんじゃなくて、幽霊か何かのせいだと思うのか」

「あー、まぁ、そうです」

「そうか」

「なんすか、意味ありげに」

「実は昔な、あの理科室で亡くなった女生徒がいたんだよ」

「マジで」

「あぁ、相模が言ってたっていう金魚鉢で思い当たってな。昔転校生がいたんだがどうもいじめにあってたらしくてな。旧校舎の理科準備室に閉じ込められたんだそうだ。発見された時は頭に金魚鉢をかぶっていて、窒息死ちっそくしだった」

「へぇ」

「…という話があったんだが、それを話したところで職員会議の判断はくつがえらないだろうけどな」

「いやーわかんないっすよ。堂島先生の熱意次第ですって」

「まぁ、担任のよしみ・・・かばってはみるが期待はするなよ。それからもう旧校舎には入るな」

「へーい」


 まぁ幽霊は感謝してたみたいだったし人(?)助けになったんだろう。

 カズナリも無事に見つかったし、停学にしても退学にしても、俺には学校に未練なんてないのだ、あの幽霊と違って。


 翌日————

 土曜、両親は朝早く外出、学校も予定もないので2度寝を楽しんでいると着信音が鳴った。

 身に覚えのない着信だが聞き覚えがあった。

 表示は非通知、あの日理科準備室で鳴った着信音だった。

 電話に出るべきか無視するべきか、かれこれ5分以上は考えているが、いまだに鳴り続けている。

 出たくはないが今出なかったらこの先ずっとこの着信音に悩まされる、そんな確信があった。

 意を決し通話を押して耳に押し当てる。


「…もしもし」

『あ、もしもし?突然ごめんね。昨日はありがと、ちゃんとお礼が言いたくて…』

「……あー、誰?」

『あれ、ごめん。昨日会ったんだけど、覚えてないかな』


 昨日…いつも通り学校に行ってまじめに授業受けてた。

 誰かに連絡先を教えた覚えもないし女の子と出会った覚えもなかった、一つの可能性を除いて。


「もしかして、理科室で会った?」

『そうそう、理科準備室で。急にいなくなっちゃってごめんね』


 ドッキリか何かだろうか。念のためカメラがないか見回してみる。


「あ、あぁ別に…、いいよ。全然気にしてない」

『それでね、今度会えないかな?ちゃんとおれいしたいし』


 お礼とは呪殺じゅさつ的なことだろうか。


「いやー、いやいや、そんな、気にすんなって。全然、うん、大したことなんてしてないし。お礼なんて大げさだなー」

『ううん、する。絶対する。それくらい私には大きなことだったの。明日また電話するから、またね』


 電話は一方的に切れてしまった。


「・・マジ?」


 これは、カズナリをそこねたから、次はお前の番だ!的なことだろうか。

 幸いカズナリはまだ生きてる。

 ここで逃げたらまたカズナリを狙うのかもしれない。今までマジメに生きてきた訳ではないが人の命を見捨てるような人間になったつもりもなかった。


「とりあえず、神社に御守おまもり買いに行くか…」

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