第27話 会議1(議題)

石畳の通路を歩いて会議室に向かう。

私の前を老秘書が歩く……何度も断ったのだが、「仕事ですので……」で断られ、いつも前を歩いて私を誘導してくれる。


結果、前方を確認して貰える老秘書がいるお陰で、会議前に録に前も見ず、会議の事を考えながら歩く。


対策を考える……私にとっては真剣勝負……


……何故なら……私以前の世襲の王様と違い……私は平民の雇われ王様だからだ。


当初の会議など、私にわざとらしくタメ口で喋った後に「……おおぅ、すみませぬ……オルセー王……」等と謝罪とも言えぬ、薄ら笑いを浮かべていた者まで居た。


……要は舐められていたのだ……平民での自分達と同じか或いは、以下の一般市民……そんなヤツが王様などと笑止千万……何故その様な者に敬意を表さねばならん。


そんな想いが透けて観える。


そんな、舐めた輩は、当然ぶっ潰した!!!……



……否、否……そんな事はしなかった……出来る訳無い……


私はあくまで敬語で論理的に対応した……感情的な人間に感情的に返すと録な事がない……ややこしくなり、会議が長引くだけ……


私は忙しいのだ、この様な会議、決める事は早々に決め、定時で完了させ、他の要件を進めねば成らないのだ。

こんな雑談で貴重な時間を、ドブに捨てる訳にはいかぬ。


私は先ず、だらだらと続く会議時間を完全に時間を決めて終わらせる事にした……結論が出ようが出まいが、時間が来れば終わる……会議の終了間際、私は時間通りに結論が出なかった理由を、皆に訊いた……


……出てきた理由は以下の様なモノ……


1:会議に必要な資料を作っていない。


2:問われた内容に答えられない。


3:その場凌ぎの返答が多い。


4:前回から未解決の議題が残っている。


比較的マトモな返事はこの位だ……他は記載するにも値せぬ……私へのいじめの様な返事ばかり……

そしてマトモな返事にしても、色々言っても理由はひとつ。

事前準備が足りないのだ……

何も考えずに、会議に出席している……


だから……


資料を作らず……

返答も出来ず……

適当にお茶を濁し……

課題を次回へと繰越す……


そういう事だ……それが許されているから、出席者は皆、準備などせずに、ぶっつけ本番で会議に挑むのだ。

それで答えなど出なくても良い……

怒られ無いのだから……

だらだらと時間が過ぎれば良い……

そういう会議に成り果てたのだ。


これを改善せねば成らぬ、そうでなければ会議の意味が無い……私は、以下の内容を皆に指示した。


『かなり事前に議事録は送っておくので、会議までに、議事内容に必要な資料を各自考えて、準備しておく事』


これだけ……

これだけで良い……


次の会議が始まった。

出席者の約半数が資料を用意し、その他が用意して来なかった。


資料の出来は点数で言えば、60点位……誉められたモノではないが、それでも、会議の議事は資料が有る分、スムーズに進む……ある程度、質問に対する答えも、資料を作る際に考えるモノだ……文章を創るという事は、内容を理解しておかねば書けぬ……だから資料を作った者達は、私の質問にも、それなりに答える事が出来た。


逆に資料を作って来なかった者達の質疑応答は、相変わらずでたらめな返答で、私に更に追求されしどろもどろとなって、会議が長引いた。


馬鹿でないなら、気が付くだろう。

そして、彼等は馬鹿ではない……各部署の頭として来ているのだ。

私が前の大臣の様に、嘘を付いても気付かず……適当な返事で、のらりくらりとかわせる相手ではないと気付く筈。


『答えを準備して来い!』私が無言でそう思って居るのが彼等に伝わるだろう。


その次の会議から、彼等の対応が変わった……変えられなかった人材は、別の人材に変わった……厳しい事だが仕方無い。


……彼等の敵は、前の様な阿呆では無い、適当な返事では返り討ちに会う……そう覚ったのだ。


……会議の質が変わった……多少だが……まだまだ私の求める会議には程遠いが……


そして、以上に追加して、商工会の古株連中も会議に出席させた……元々は出席していたのだ……しかし大臣に出席メンバーから締め出され、ここ約3年は参会していなかった……想像がつく、大臣に苦言を呈したのだ……

「これでは、国が回りませぬ」

「税収が多く、民は疲弊しております」

「道路整備滞っております、予算と人員の手配を」

その他にも、etc……etc……

大臣からすれば苦言。

下の者からすれば命懸けの進言。

そして、結果、大臣は自身の中で、まだ比較的マトモな判断をした。


……殺す……極悪

……投獄……最悪

……処罰……悪

……放逐……ちょい悪 ←コレを選択

……進言を訊く……普通


進言した者は、悉く会議への参加を剥奪された。

しかし殺されずに済んだだけでも僥倖。


……そして案の定、会議はyesmanの塊で構成され、会議では物申さず……革新的な事は何も決まらず……重大事項は水面下で暗躍して行われる事になる。


大臣はそれで良かった……面倒な決断事項が無くなりルーティーン作業だけになるから……本人は願ったり叶ったり。


『そんな会議なんの意味が有る』私は心の中で叫ぶ!


時が過ぎればそれでヨシ……そんな会議……会議とは云わん!


だから、私は彼等を呼び戻した

あの大臣行った多くの判断の中でも、私が最も有難いと感じた判断がこの会議からの放逐だ。

再三言うが、生きていただけで僥倖……故に今回、再度会議へ参加する事が出来る……苦言を呈する事が出来る人材、喪ってはいけない……有難い存在なのだ……


会議場に到着した…そんな老秘書が扉開けると、既に参加者全員が着席していた……よくもここまで変わったモノだ……今や、参加者の目付きは戦場に向かう戦士の目だった。


皆、自身の資料を睨み付け、如何なる質問に対しても返答出来る様に頭がぐるぐる回っているのが見てとれる。


王の席に着く。


皆が起立して一斉に頭を垂れる。

床のレベルは王も参加者も同じだ、アルテアならば王は高く、他の者は低く……といった所だろうが、私が王に就任してからは、皆と同じ床に椅子置き座る……私の椅子だけが多少豪奢なだけで後は参加者と同じだ。


私が会議の開始を伝える。

進行役の、商工会会長が、日付けを述べ、定例会議のレジュメを読み上げる。


1:他国(主としてガゼイラ)からの侵略戦争における実施内容とその効果、及び今後の対策。


2:国力増強の為、新規及び既存の産業育成。


3:輸送経路及び輸送手段の円滑化及び道路整備


4:出兵による人材不足と、今後予想される男子青年層の減少に対する政策。


以上の4項目だった。


参加者は、皆きづいている筈、これは全て今回の戦争が引き金か、或いは、この戦争を円滑に進める為に考えられた議題である。


それほど事態は切迫していた。

何とかこの戦争を乗り切らねば、国が疲弊して行くばかり、早々にこの戦争を収め、内需の拡大を行わねば成らない。

これは未だに、前大臣時の多量の浪費が影響していると言っても過言ではない。

現に大臣から業務を引き継いだ時、国庫に本来有る筈の、国家資産も底をついていた。


『……どれだけ、宴会を続けたら、コレだけの資産が底をつくのか……私には判らん……』前職の際によく見た、損益計算書やバランスシートの国ヴァージョンの様な書類に目を通し、呆れたモノだった。


だから、キルシュナはまだまだ充分な国力を持っていない……国力と言う言い方は様々な意味を内包しているが、この場合は、『金』だ……『人』『物』『金』の内で『金』。


『金』の無い国からは『人』が逃げ、

『人』が生産する『物』も無くなって行く。


負のスパイラル。


現に、あの時キルシュナから富裕層が逃げ始めていた……『この国は先が無い』と見限った者達が多数いた。


それも漸く、人口流出を食い止め、総人口も増加方向に転じたのだ……これから、若年層の人口が増え、彼等を教育し、我が国を背負って行って貰わねばならぬ。

私の代で世襲とは縁を切ったのだ……次世代の王は、もう既に王制である必要もないが……次の指導者は、彼等より輩出されるべきなのだ。

  その様な明るい未来が朧気に見えてきた矢先、戦争が勃発、多くの男性の若者達が出兵となった。


私は歯軋りした……『漸く……漸く……どれ程、時を費やしたか……』心の中で叫ぶ……


『今からだったのだ……今から……』漸く、これから、30年の計画が始まる……正に、その今……戦争などに興じている暇など無かった筈なのに……


「私の代では終わらぬかもしれぬ……」思わず口に出た。


「王、何か御発言ですか???」進行役が心配そうに私を見る。

「あぁ、すまぬ、大丈夫独り言だ……進めてくれ」軽く進行役に手を挙げる。

進行役が恐縮して「いえ、お気になさらず」と頭を下げ、議事を進める。

「……であるからして、今後は敵国ガゼイラからの侵略を考え、国境付近の物理的障壁の敷設及びその業務に当たる、職人用の移動式キャンプ設備を整える必要がある、それについて関係各所の意見を述べよ」進行役の良く通る低い声……それに応じて、土木・建設ギルドの長カーハートが答える。

「ガゼイラとの国境に障壁を敷設する為には、まず、職人の安全確保が第1となりましょう……さすれば、現在、職業軍人及び民兵が待機しているガゼイラとの唯一の関所、ドナから敷設を開始するのが最適、そこから北ラナ島屈指のコルサ山脈までに障壁を設ければ良いかと思います、その為の職人の安全確保は、軍にてお願いしたい」そう言いながら、長は地図を机の上に拡げる。


地図には、赤い線が引かれてあった。

障壁の位置を表しているのだろう。


私は安心する。

良い仕事だ……短時間で良くここまで調べあげ、会議で揉んで貰える地図を用意してきた。


障壁の位置等は、多少ズレていても良いのだ。

皆で相談出来る資料を出し、専門家の意見を出し会える事が大事……カーハートはその事を良く判っていた。


当然、皆から意見が出る。

「素晴らしい案だ、山脈の尾根沿いで障壁を造るのは最適かと思われる、但し障壁は、山脈中最高位のラビオス山の中腹までで良いかもしれぬ、それ以上は2000mを越える高所、障壁は不要であろう……皆の意見は如何か?」近衛兵隊長のエルサールも出来た男だった、カーハートを誉めた後、重要項目を静かに補足する。列席者が皆、一様に頷く……確かにその様な高所にまで障壁は不要だろう。

そしてまた、別の一人が発言する……

「障壁は簡易な物で良かろうと思います、頑丈にしようとすればするほど徒に時を浪費する、障壁に簡易な魔法付与を施し、破壊、侵入を試みた場合は、ウチに通達が入る様にしましょう」痩せこけた骸骨みたいな魔法使いが発言する、新顔だった……前回までは、老賢者エレウスが来ていた筈……


……私の怪訝な顔を見て、骸骨君が申し訳なさそうな顔をして起立する「自己紹介が遅れました、私今回、エレウスの代理で来ております、甲種魔法使いのレイモンドと申します、以後お見知りおきを」と一気に言い、深々と皆に会釈した。

「レイモンド君、その様な事が出来るのか?」私は魔法は使えないが、その技術革新については非常に興味があり、良くエレウスから話を訊いていた。

そして続ける……「付与魔法の効果範囲から考えれば、これ程の広範囲、どれだけの希少金属と、どれ程の付与魔法の封入時間が必要か……そなたの言う、徒に時を浪費する事には成らぬのかね」私は少し意地悪な言い方で、彼に質問をした。

彼は洞窟の奥から松明が光っている様な眼球で私を見た……


私は、一寸怖い……

伝説のネクロマンサーなのか彼は……

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