「全然行けますよ」 肯定の全然


 〈従来の全然〉

 「明日一緒にカフェ行ける?」と問われ「全然行けますよ」と返答すると、一定の年齢層以上の人たちは、首をかしげることがあります。それもそのはず、従来――というか私たちの自然な感覚としては、「全然」は「+~ない」の否定形を導き出す副詞だからです。だから上の例文の場合、否定の全然だとしたら「全然いけない」となるはずで、全然と言われた瞬間、聞き手は否定されるのだと察知します。


 ただ実は、これより古い(あるいは馴染みのない)「全然」の用法は、否定を導きません。「全然たる」や「全然」の形で「全く」「全くそうであるさま」などを意味します(1)



 〈新しい全然〉

 では新しい表現「全然いけるよ」には、一体どのような意味があるのでしょう。本項では、この全然を「肯定の全然」と称することにします。

 例によってTwitter検索で、肯定の全然を探してみます(2)


①「全く」の全然

 ・負担が全然違いますよね!

②強意の全然

 ・LK行ってやろうと思ったけど全然無理です!!

 ・例年より全然遅い

③反意思の全然

 ・そちらに譲ってもらって全然大丈夫です!

 ・まじすか!! 全然募集してます是非!

 ・来たら来たでネタにするから全然OKだ!

 ・カード代20万超えてる思ったら全然行けた

④個人意思の全然

 ・これで580円なら全然あり

 ・クラウドファンディングで資金集めは全然良いと思うよ

 ・日帰り温泉に行くだけだったが、全然楽しいっすな


 今回はあらかじめ意味で分けてみました。私の収集した限りだと、全部で四つに分けられたので、一つ一つ解説していきますね。

 ①は従来の使い方です。②は新明解国語第七版とか、その他多くの国語辞典で解説されている用法です。私の見たところ、どうやらマイナスイメージの言葉を強調するのに「全然」が使われるようです。全然悪いとか、全然だめとか。もともと全然が否定の副詞なので、マイナス表現を引き寄せるのでしょうか。

 ③は、私が作った造語です。反意思というのは例文、カフェに行けるかと問われ「全然いけるよ」というのにも見られます。全然行けるというのは、「質問者のあなたは私が行けないと思っているかもしれないけど、いけますよ」くらいの意味です。ちなみにこの反意思は、他人でもいいですし、自分の意思にも使えます。「・カード代20万超えてる思ったら全然行けた」なんかはその例ですね。自分の意思に反していることを、全然を用いて表現しています。

 ④は、「私はこう思います」の意味です。「全然あり」とかがその例です。みんなはどう思うか知らないけど、「私はいいと思う」ってことですね。



 四つの用法、どうでしょうか。私は特に④が印象的でしたね。たぶん誰も分類していないんじゃないでしょうか(それはいいすぎ?)。ただ、③と④がかなり似通っている部分もあるので、ここら辺はすこしわかりにくいですね。


 ともかくなかなか面白い結果になったので、今後も引き続き否定形でない「全然」に着目していきたいものです。



――補足

(1)「全然の意味」goo辞書

https://dictionary.goo.ne.jp/word/%E5%85%A8%E7%84%B6/

(2)ここでなぜコーパスを使わないかというと、私の使ってるコーパスはそこまで最新のデータが入っているわけではないので、どうしても「今」の用例が探しにくいからです。Twitter検索は、かなり精度がガタガタなのとゴミツイートが引っかかる問題点があるものの、最新ツイート順で検索できるため、活用しています。



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