talk2 この世界の事

とある喫茶店のカウンター


「…………」


今、俺はちっちゃな獣禽族の女の子と一緒にいる。

多分、身長は130~135ぐらいで、クリーム色の髪、何だっけ?薄卵色?だった気だする。

ウサ耳にメイド服、手には西洋のこて?ガントレッド?を付けてる。

可愛い×強いやつだと思ったのだが………


「…………」


どうして気まずいかと言うと、このアバターの中の人があのゲーム店の綺麗なお姉さんこと菊乃さんだからって言うのもあるんだが、もう1つのそして、気まずい最大の理由は、この人がキギルを俺だと気づかずに「鬼梗君、誰この人?すっごい顔好みなんだけど……」とか言ってきたからである。

現実の俺とさほど変りないようにつくったんだが。

とりあえず、誰かこの状況どうにかしてくれ。

どこ行ったんだ榛也。

気まず過ぎて、爆発しそうだ。

頼む、早く帰って来てくれ!!



   →HEBMDSU→



「えっ!ここって証明書みたいなのいんの!?」


「当たり前だ、コノ野郎、国みたいなもんなんだから」


「そうなの?!どうすんの?!!」


「んなに焦んな、作れるから」


初めてから1日も経ってない俺は、勿論そんなものなんて持ってない。

はる

………鬼梗に………全然慣れない。

鬼梗に肩をポンポンされ、左側の窓口を指さされた。


「お前はあっちだぞ」


「おう、そっかじゃまた」


「別にここで作るわけじゃないんだけどな」


そう言って、しばしの間鬼梗と別れた。

そのまま、窓口へ行く。



   →HEBMDSU→



「こんにちわ、今日はどんなご用件でしょうか?」


よく漫画なんかで見かける受付嬢みたいな恰好の女の子が座っていた。

この子もプレイヤーなのだろうか。


「え…………っと……」


完全に何を言うか考えてなかった。

ん?俺今日ここに何しに来たんだ?

あっぶない危ない、違う違う。

ん?何に対して違うの?

っじゃなくて…………


「あそうそう、プレイヤーのカード?作りに来ました」


「アバターパスの作成ですね、ご用件を確認したした。ではこちらをどうぞ」


と、小さい紙きれを貰った。

なんだこれ。ただの紙?


「それは仮のアバターパスです。当日の1日のみ使用可能ですのでご注意ください。」


説明を受け、窓口から出た。



   →HEBMDSU→



窓口の出口の近くで鬼梗が、メニュー画面を開いて整理っぽいことをしている。


「何整理してんの?」


「あぁ、武器整理してんの。街は安全だけど念のために、小刀ぐらいは持っとこうと思ってな」


「……銃刀法違反になんない?」


「なるかっ!」


「いやぁ、ね?街の中で武器持ってたらダメなゲームとかあるじゃん。そもそも武器持てないとか」


「あぁ~なるほど、でもまぁ、そのへんは気にしなくていいよ。そう言うのはないし、ちゃんとどの街とか国にも警備体制はあるから」


それから、間をおいて、含みのある言い方をする。


「…………"プレイヤー"のね」


「へぇ、微妙……だな」


「何が?」


「"信頼が"だよ、人間より怖くて不気味で、優しくて癒しを与える動物はいないって言うじゃん」

 

「なんじゃそりゃ。聞いた事ないな。俺はそんな事ないけど」


「そーなの?」


「おぉ、そーだ。それよりも仮のパス貰った?」


「おう、貰った」


両手の親指を立てる。

ついでに、ちょっとだけドヤる。


「して、この仮のパスって何に使うやつ?」


さっき貰った紙切れをひらひら揺らす。


「それは、本登録の時にいるから絶対なくすなよ」


「………マジで?」


ビックリしすぎて、風にさらわれそうになる。

誰だよ、これ燃やしてもいいとか言った奴。

今すぐ出てこい、俺が燃やす。

(※誰一人としてそんな事言ってません)


「じゃまずは、あそこで本登録しなきゃな」


と、横にも縦にもドでかい建物を指さす。


「なにあれ、めっさでけーじゃん」


「あれは確か……HEBMDSUで10番目か9番目に大きいギルドですぜ」


「あれで、……10番目……マジかよ」


あれでもかなりでかいのに、あれよりでかいってどうなってんだ?


「俺をホントにギルドに入れるなら、後々1番大きいギルドに行くことになるハズだろうから、一々こんな事で驚いても仕方ないよ?」


「なぁ」


「ん?何?」


「お前一体何者なの?」


ある程度の名の知れたギルドに顔が利く。

さらには、HEBMDSUこのゲームで1番大きいギルドにも何の気兼ねなく顔向けできる。

こいつは本当に、あの榛也なのか?

本当にこいつは何者なんだ?

絶対よからぬことしてるだろ!


「俺なんだよ、俺」


「……こいつ、人の芸を」


「ま!気にしなくても、そのうち分かるもんだよ……俺に関しては恐らくね」


榛也が何を隠しているかは分からないが、そのうち分かるって言ってんだから、"親友"を信じよう。

いつか、話してくれることを。

まぁ、そこまで重大だったり偉大だったりしなくても別にいい。

本音を言ってくれることが大事なんだ。

友情ってそんなもんじゃないのか?

そんなどうでもいい事を考えていると、榛也の声が耳に入る。


「あそこに行くまで、結構出店とかあるから武器でも買ってく?」


………………本当にどうでもいい事を考えてたな。

今は、ここの観光を楽しもう。


「いいね~!初武器!」


「お前、武器何使うか決めてんの?」


「決めてないッ!」


「元気がいいッ!まぁ、武器も大分種類があるし、いつでも変えられるから、じっくり悩むも軽く選ぶも自分次第だぜだぜ」


「職業も決めなくちゃだな」


ゲームの中であれ、ニートは嫌だ。

いい感じの職業を見つけなくては。


「そこは気にしなくても、お前の場合ギルド作るんだったら"ギルドマスター"になるから、ダメダメ無職ニートになる事はない。」


「え?ギルマスって職業なの?」


「れっきとした職業だぞ、このゲームじゃな。ほかのゲームだと"称号"って感じのが多いがな」


「じゃあ、お金稼げんの?!」


「そこらへんはさすがに知らんから、その"とある人"に聞いてみたら?」


「いい勉強になりそー」


「確かにな」


あのでかいギルドを目指して歩く。

たまに、よそ見しながらだけど。


「あの杖何?」


「あー、あれは精霊族専用の魔法の杖だな」


「へぇ~、種族専用の武器ってのがあるんだ。未知族は?」


「それはさすがにあるぞ。ただ結構珍しいから、辺境の村とかで扱われてた」


「集め甲斐があるな。この武器、どうやって買お」


「コルンはなくても、魔石はあるだろ?」


「換金できるの?」


「できるぞい、先に換金しないとコルンないだろ」


「あっ、初期金46000あった」


「結構あんじゃん、そんぐらいあったら結構満足に買えるハズでい」


「大人買いじゃぁぁあぁ!!」


こんな感じで、買い物しながらギルドに向かう。

結局買った武器は、西洋風の剣と手のひらサイズの小さなナイフだけだった。

防具もほんのちょっと新調した。

西洋の鎧のこてだけ買った。

ガントレッドって言うんだっけ?

このガントレット、無機質なのがまた良い。

そう!腕だけッ!こてだけッ!!


「なんで腕だけしか買わなかったの?」


「カッコイイじゃん!これ!」


「すまん、わからん。いやわかるけど………最初のうちはカッコイイのよりダサいのの方が大体強いと思うけど………」


「嘘だァ!そんな現実ゥ!認めんぞォ!そんな理ィ!!間違っているゥ!!!」


「………………お前、ホントに装備の事になるといっつもうるさ……テンション、おかしくなるよな」


「…………慣れろよ、これに。他のゲームでも、装備見てるときこんな感じだろ」


「……人の事言えんのか?おめーも早くこのゲームに慣れろ」


っく、うまい具合に返された。

とっととギルドに行く事にする。



   →HEBMDSU→



やっとギルドに着いた。

間近で見ると眩暈がしそうなほどデカい。

なにこれ。デケェ。デッカ。ヤッバ。

多分、スカイツリー並みにデカい。

いや、多分もっとデカい。

見たことないけど。


「………」


意を決して、ドアを開ける。


「……これで、10番目?」


余りの人の多さと、その人々全てが入る程の広さ、その全てが圧倒的だった。

その全てに圧倒されながらも、中心にあるクエストカウンターに行く。

受付には、エルフのお姉さんがいた。

やっぱり、どこの世界でも"エルフ=美"の方程式は成り立ってしまうのか?


「あら?新人さんかしら?今日はどんな用事で来たの?」


「アバターパスの本登録しに来ました」


「わかりましたっ!仮登録の用紙を見せてね」


さっき貰った紙切れをアイテム欄から取り出す。

さっき見た時はただのまっさらな紙切れだったのに、今はステータスが入っていた。

チラッと見てみるが、なんて書いてあるのか解らなかったから、気にせず渡す。


「お願いしまーす」


「は~い、ちょっとだけ待っててね~」


と言われたから、周りを見渡す。

2階もあるみたいで、奥に階段が見える。

同じところに酒場も見えた。

いつ聞いても、このギルドよりもデカいギルドがあるとは、到底思えない。

それよりも……………


「いっつもこんなに人いるもんなのか?」


人の熱気で少し熱い……気がする。

軽く、10000人は居るだろう。


「今は夜っつーか夜中だからな、余計に人が多いんだろ」


「夜中っつっても、まだ夜10時だよ?」


「いやいや、もう夜中よ」


パスが出来るのを待ちながら、そんな他愛もない会話をしていた。


「はい新人君、パスできたよ」


「ありがとござます、お姉さん」


「それじゃ、また用事あったらおいでね」


その場を離れようとしたその時、受付のお姉さんに呼び止められた。


「新人君!」


「チョット、チョット」と手招きするお姉さんの方へ行く。

どうかしたんだろうか?


「どうかしまし…………」


……たか?

言い終える前に、胸倉を引っ張られる。


「え?」


瞬間の出来事に頭が追い付かない。

耳元でお姉さんが静かに囁く。


「………………、………」


…………。


「また行ってみるといいよ」


「貴重な情報、ありがとござますね」


「いいのいいの、君可愛いしね」


「"受付嬢"はお世辞がうまいですね」


その言葉を聞いた俺は、"お姉さん"にお礼を言って、今度こそこの場所からオサラバする。

いい事聞いた。


………また今度、あの人にお礼しなきゃな。


「何話してたんだ?」


「ん~?、何でもない。今日は色々情報が多いなぁ~って」


「ふーん、そっか情報処理ガンバレ~」


「はいはい、本登録出来たから早く次行こう」


「んぉい、ほいほいじゃ行こう」


ギルドを出る。

後は、榛也に着いて行くだけ。

ギルドのあった街の方からは結構遠ざかっていく。

右へ、左へ、坂を上り、崖を…へ?


「ううぅわあぁぁ!?」


「ギルドから行くときの近道だからな~、慣れろ」


「ぬひゃな~~~~!!!?」


そのまま、地面に激突する。

危うくデスするところだった。

酷い目にあった。

榛也は、気にせずスタスタと進んでいく。


「ほら、いくど~」


………へっへっへ、こいつ、いつか絶対切る。



   →HEBMDSU→



「ここだぞ~」


やっと着いた。

だけど一見、"ギルド"と言うより"喫茶店"に見える。   

けど、榛也はここって言ってるし……


「おーい、店長ーいますー?」


と言いながら、勝手に入っていく。


「お、おい勝手に入っていいのかよ」


榛也は、カウンターの端の席に座る。


「お、おい、勝手に大丈夫か?」


「いいって、いいって!ほら、ここ!」


榛也は、右側の椅子をポンポンと叩く。


すると奥から、声がした。


「いくら常連さんでも、権限ってのがあるんですよー?」


発せられた声の大きさや近さ的に、すぐ近くにいるハズの声の主はどこにも見つからない。

しかし、声の主は続ける。


「ねー?は・る・や・く・ん?」


そのセリフと共に、カウンターから凄い形相したちっさいウサ耳のメイドが下からせり出てきた。


「っわ!え?!誰?!」


俺の驚きは見事にスルーされ、そのままウサ耳メイドと榛也との対話が始まった。


「で?今日はどんな用事ですか?」


「未知族の事聞きに来たんですよ。店長います?」


「買い出しに行ってて、今は居ないよ。それよりも……………」


ウサ耳メイドは、榛也にちょいちょいと手招きする。

榛也は面倒くさそうに、耳を傾ける。


「それで?鬼梗君、その人誰?どっかで見たことあるような顔だけど……」


「でしょうね~。あなたの好きな顔ですよ~」


「え?誰?すっごい顔好みなのは確かなんだけど……」


こしょこしょ話しているが、確かにはっきりと聞こえた。

隠してるつもりなんだろうか。

榛也は、ニヤァっと不気味な笑みを出した。


「コイツ、結杜ですよ?」


ウサ耳メイドは、顔を真っ赤にして「えっ!えっ!うそっ!!結杜君?!」と混乱している。

俺が、誰なのかわかんねぇけど、俺の事を知ってるっぽい。

メイドをほっておいて、榛也が紹介してくれる。


「この人、菊乃さん。プレイヤーネームはうみゅうって言うんだ」


「えぇ!菊乃さんって…………」


榛也は、淡々と言う。


「多分お前が今、想像してるのであってる」


…………マジでか。

あの"綺麗な出来るお姉さん"の、菊乃さんが…………

アバターをこんな可愛い系のやつにするなんてなんか………


「………かわいいな」


やっぱり、女の子なんだな~と思ってしまった。


「ちょっと!結杜君!な、な、何言ってんの?!」


榛也がニヤニヤしてる。

何がそんなに楽しいのかね?

ん?


……っは!

そ言う言事か!


「いや、違うんです!これは!く、口が滑って……!と言いますか、ほら…あの……アレっすよ、アレ!」


榛也は、吹き出しそうなほど笑いを堪えている。

何がそんなに、可笑しんだ!

榛也を睨みつける。


「いやいや、ごめんごめん、二人とも、顔真っ赤になってるから……」


「『真っ赤になってるから……』じゃねぇよ!」


榛也は、笑いを堪えながら言う。


「だ、だって、面白いんだからしょうがないだろ………ぶふっはっはっはっは!」


コイツ、まだ笑ってやがる。

ホントに、何がこんなに面白いんだか。

口滑っただけなのに……

すると、榛也の上に会話中のアイコンが出る。

まぁ、スキルでもない限り、会話は消せないけど。


「はいはい、了解です。今行きます」


どうやら話は終わったらしく、何やら準備をしている。


「すまんな結杜、店長を迎えに行ってくるから」


「え?これゲームだよ?」


「言いたい事はわかるけど、色々あるんだよこれが。そんな訳で、菊乃さん、少し結杜と世間話でもしといてください」


「え……?あの……榛也……くん…?」


「じゃ!!」


「「………え?」」


そんなこんなで、榛也は行ってしまった。

俺らは気まずさが残るまま、取り残された。


菊乃さんにも聞こえないぐらい小さく呟く。


「えぇ、待ってよ、マジかよ」

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