史上最強(凶)の帝国の終焉


5年後—————






「号外ごうが〜い!連合国最後の生き残り、アウレリア王国が滅亡したって話だよ〜〜!!」


「ごうが〜い!………そこの綺麗なお姉さん!1つどうぞ!」


「あら、私のこと?…ごめんなさいね、ちょっとタイミングが合わなかったようだわ」


「え?」


「あともう少しで………」



「ママー!ごうがいもらってきたよー!」



「ほら帰ってきた♪」


「ゔぇっ!!子持ち!?」


「おかえり♪リサーナ、あなた♡」


「あぁ、ただいま……………あんた、何してんの?」


「へっ!?あ…その……し、失礼しました〜!」


「……なんだあいつ?…まぁいいや、号外貰ってきたぞ」


「ありがと♪じゃあ家に帰って読みましょうか」




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



家に帰り、愛する夫と娘に囲まれて配られていた号外を読む。



「『連合国最後の生き残り、アウレリア王国滅亡!』、か…。軍隊の9割を失って5年間も生き延びたんだ、十分凄いと俺は思うよ」



愛する夫が言う。



「あうれりあおうこくってむかしはつよかったんだよね?」



愛する娘が言う。



「あぁそうだぞ。リサーナは賢いなぁ〜」


「えへへ〜♡」



旦那様がリサーナの頭を優しく撫でる。この光景があまりにも嬉しくて、愛おしくて…。



「ママ…?泣いてるの…?どこか痛いの?」



この大切で大事な時間が数年前には想像もできないぐらい幸せで……思わず涙が溢れてしまう。



「リサーナ、ありがとう。でも大丈夫、なんでもないの。……………今日の晩御飯は豪華にしましょう♪リサーナ、好きな食べ物を言ってみなさい。ママがなんでも作ってあげるから♪」


「え!本当!?ママ大好き!!え〜とね、リサの好きな食べ物はね〜」



リサーナが考えている。なんて可愛らしい、そして愛らしい。私はこの子の母親であることを誇りに思う。



「リサーナは元気に育ってくれているな。とても可愛く、とても優しい子に」



気づけば私の隣に旦那様が居た。旦那様はいつも私の隣に、側に居てくれる。小さい時から、ずっと。どんなことがあっても、ずっと。



「えぇ、本当。すっごく元気」



こんな素晴らしい夫と娘に囲まれて、私は今、とても幸せだ。


とても幸せで、楽しくて、嬉しくて———




「………ありがとう、お兄ちゃん・・・・・



「なんだ?随分と懐かしい呼び方だな?ヒサ・・




———『災厄のディザスター魔王女プリンセス』と呼ばれていた頃には全く想像すらできないぐらい幸せで、また涙が溢れてきてしまう。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



5年前、私とお兄ちゃん……リーヴァス率いるルブルム帝国軍は連合軍に敗北し、ルブルム帝国は滅亡した。


しかし、その直後に私とお兄ちゃんは大陸破壊超兵器『魔王の自爆ディストラクト』を発動させ、セカイの半分を道連れに死亡した—————はずだった。



けれど『魔王の自爆ディストラクト』によって死ぬ直前にお兄ちゃんが何かを叫ぶと私達を中心に小さな魔法陣が形成され、気がついた時には私とお兄ちゃんは少しの財宝と共に誰もいない荒野で座っていた。



わけがわからずお兄ちゃんを問い詰めた結果、この状況はお兄ちゃんの計画通りだったという事がわかった。


どうやらお兄ちゃんは『生死判定起爆装置デス・アパラタス』や『魔王の自爆ディストラクト』を開発していた傍で、難易度S級魔法の『空間転移テレポーテーション』の勉強をしていたらしい。


そして死ぬ直前に『空間転移テレポーテーション』を発動し、今にいたる………と。


最初は怒った。とても怒った。どうして死なせてくれなかったのかと、どうして私と一緒に死んではくれないのか、と。


けどそれを言ったら今度は逆にお兄ちゃんが怒った。どんなことがあっても俺は必ずヒサと一緒に死ぬ、と。


そしてお兄ちゃんはこうも言ってくれた。



『俺は自分自身に誓ったんだ!ヒサを必ず幸せにするって!今も、未来も、今世も、来世も、ヒサの側で、ヒサと共に幸せになってみせるって!ヒサはまだ本当に幸せになっていない!!

………ヒサ・ヴィアス・ルブルムとリーヴァス・ガル・ステインは確かに極悪人だ。生きていてはいけないぐらいの大罪人だ。

それでも俺は……俺達は生き続ける!セカイの半分を破壊しようが、何十万もの人を殺そうが、それらは全てヒサと俺を幸せにする為のいしずえだ!

それに俺達にもう背負うべき罪はもう存在しない。ヒサ・ヴィアス・ルブルムとリーヴァス・ガル・ステインはあの『魔王の自爆ディストラクト』で死んだんだ!

俺はもうリーヴァスじゃない。貴女はもうヒサじゃない。新しい名前で、第2の人生で今度こそ幸せになるんだ!』



私はこの言葉でやっとお兄ちゃんの真意に気づき、私は今後ヒナ・ヴィ・ステルムとして、お兄ちゃんはリース・ギル・ステルムとして生きていく事にした。



というかお兄ちゃんの本名はもともとリース・ヴィアス・ステインだったらしい。リーヴァス・ガル・ステインという名前はルブルム王国に孤児として連れて行かされた時に付けられた偽名らしい。


私はヒナになるまでお兄ちゃんの本名すら知らなかった。頭の狂ったヒサ姫にふさわしい愚かさだ。お兄ちゃんの本名すら知らない『災厄のディザスター魔王女プリンセス』では、やはり私は幸せになれなかっただろう。



だって……お兄ちゃんは私の全てなのだから。






その後、私達は持っていた財宝を全て売り払い、ルブルム帝国に隣接していなかったおかげで唯一『破壊戦争ラグナロク』で何の被害を受けなかったルクス王国に家を建てた。


そしてルクス王国に住んでから1年後、つまり今から4年前に長女であるリサーナ・ヴィ・ステルム(本名:リサーナ・ヴィアス・ステイン)が生まれ、今のこの幸せな状況にいたっている。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「ママー!リサね〜、カニたべた〜い!」


「おおぅ……さすがは俺とヒs…ヒナの娘、遠慮しないなぁ…。ワイルドだなぁ…。可愛いなぁ…」


「えへへ〜♡」



旦那様の大きな、それでいて温かく、力強い掌で頭を撫でられてリサーナは目を細めている。


なんて微笑ましく、幸せな光景なのでしょう。


多少の羨ましさと多大な幸福感で胸がいっぱいになってしまいます。



「カニたべたい〜!カ〜ニ!カ〜ニ!カ〜ニ!カ〜ニ!」


「はいはい、わかってるわよ〜。今日の晩御飯はカニね♪」


「やったー!」



こんなにも可愛い子があのルブルム帝国の魔王、ヒサとリーヴァスの娘だといったい誰が思うでしょうか?きっと誰一人として思わないでしょうね。


ここの人達は魔王には眼が3つあって身長は2メートルで頭には長い角が生えていると本気で思っているみたいですし。


私達はこの子に真実を教える気は全くない。知っても不幸にしかならないような真実なら、なかった事にすればいい。



それに……私はもうルブルム帝国の女帝にして魔王女、ヒサじゃない。

今の私はご主人様の愛の奴隷……じゃなくて旦那様とおしどり夫婦な若妻のヒナ・ヴィ・ステルムなのだから。


リサーナの両親はごく普通の一般人であり、永久にお互いの愛が尽きることはなく他家とは比べ物にならないレベルのおしどり夫婦であり浮気=死&心中が掟だけどそんな掟が必要ないぐらいお互いを愛し合っていて家族以外の人間は塵芥ぐらいとしか思っていなくて子どもの名前を100通り考えていて、お互いを、リサーナを、家族を第一に考えているヒナとリース。それでいい、それが今の私達の真実だ。



………そうだ、今日は久々に手紙でも書こうかな。大切な、とても大切なあの人へと向けて。



「「カ〜ニ!カ〜ニ!カ〜ニ!カ〜ニ!」」



「ふふっ♪あなたまで混ざらないでくださいっ」


「いや…つい……なぁ?」


「ね〜♡」



まったく、本当に愛らしい。そして愛おしい私の家族たち。



「………ふふふっ♪」


「……ハハッ♪」


「えへへ〜♪」



私はこの幸せな毎日を、これからも全力で幸せに過ごしていく。






この日、ステルム家の食卓にとても大きく、立派なカニが出された。

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