ヒサの告白


俺とヒサは国に、セカイに復讐する事を誓った。


その後、俺は王子達を暗殺し、王女達を暗殺し、王妃を暗殺し、最後に国王ギルブロードを殺した。


俺の考え方ややり方に同調してはくれなかったものの、俺達の境遇を知っており、ルブルム王国が腐っていると思っていたホルスロー殿も手助けをしてくれて、王国簒奪はスムーズにできた。


そしてヒサをルブルム王国の女王にし、ルブルム王国をルブルム帝国へと変えていった。


ルブルム王国を帝国へと変えた理由は1つ、ヒサに権力を集中させる為だ。


これから作るのはヒサの為の国家。今まで不幸だったヒサが好きなだけ贅沢し、好きなだけ豪遊する為の国。そこに邪魔する政敵なんて要らない。


その時に俺は帝国の政治を司るために専属騎士から宰相へとなった。



そしてその後は史実の通りに国を、セカイを破壊するために働いた。すべてを壊し、破壊し、作り変え、手に入れるために。ヒサが幸せなセカイを作るために。ヒサがより自分勝手に生きれるように。


そうして侵略を続けたものの、連合国の反撃に遭い、今このようになっている。


けれど後悔はしていない。俺達は充分にこのセカイを破壊できた。


だけどヒサが死ぬのは許さない。よってこのセカイには—————






———俺達と道づれになってもらう。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「………ヒサ、そろそろ」


「……うん」



そう言ってヒサが俺から離れる。


……自分から離れるように言っておいてなんだけど少し寂しいな。今まで昼間は宰相としてのリーヴァスだったから深夜以外で兄として懐かれたのは久々だったんだよ。


けどもうそんな切り替えは必要なくなった。俺はもう宰相ではないし、ヒサはもう王女ではなくなったからだ。


俺達はもうこの帝国になんの未練もない。もともと大きなオモチャ感覚だったしね。


ある準備・・・・は既に済ませてある。


だから後は———このセカイにお別れするだけだ。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



ヒサは俺と向き合い、セカイへ、現世の俺に別れの言葉を告げる。



「お兄ちゃん………」



ヒサは震えていた。さすがのヒサといえどやはり死ぬのは怖いのだろう。


それも当然だ、人は死ぬのが怖い。それはたとえ狂人であろうとも自殺志願者であろうとも魔王であろうとも変わらない。


だから人は足掻き、もがき、必死になって自分が生きた証を残す。自分は確かにここに存在していたのだという証を残す。


でも俺は………俺とヒサは、すべてを破壊しここまで来た。後世に残るのは魔王としての悪評だけだ。


だから俺はヒサに、ヒサは俺に、生きた証を……自分のすべてを捧げた。


俺達が同時に死ぬという事は自分の存在が完全に消滅することを示している。


だから怖い。死ぬのが怖い。自分という存在が完全に消滅するのが怖い。怖い。怖い。怖い。


ヒサの頭の中はこの感情で溢れている。そしてそれは俺も例外ではない。


怖い———しかし、やらねばならない。俺達にはもうこの方法しか残されていない。


もしも失敗したらと思うとこの身が引き裂かれそうになる。それでもやる。



この恐怖を消す事はできない。———でも、和らげる事はできる!



俺はヒサを抱きしめた。力一杯抱きしめた。ヒサを逃がさないように、俺は確かにここに居るのだと伝えるために。


最初は驚いていたヒサだが、時間が経つと落ち着いてきたのか逆に俺をギューっと抱きしめてきた。その頃にはヒサの震えも収まっていた。


そしてまたそっと離れる。しかし、今度は手を繋いだままで。



「…お兄ちゃん、ありがと」


「いや、ヒサが元気になってくれたのならそれでいい。それに、俺も落ち着く事ができた」



少し、名残惜しかったけど別にかまわない。俺達はちゃんと繋がっている。ヒサと繋がれたこの手を、俺はもう離さない。



「お兄ちゃんには助けてもらってばっかりだね。今も、昔も、ずっと」


「俺もずっとヒサに助けてもらっていたからお互い様さ。ヒサが居てくれたおかげで俺は頑張れた。ヒサが居なければ俺はここまでできなかった」


「えへへ…ありがと。私も同じだよ?お兄ちゃんが居てくれたから頑張れた。お兄ちゃんと一緒だったからここまでできた」



ヒサはここまで言った後、深く、深く深呼吸した。



そして口を開けて、言葉を………想いを、口にする。




「私は———ヒサ・ヴィアス・ルブルムはリーヴァス・ガル・ステインのことを愛しています」




黙ってヒサの告白を聞く。ヒサが忌み嫌っていた本名を口にした、この意味がわからないほど俺は鈍感ではないつもりだ。



「私は、お兄ちゃんを兄としてではなく、1人の男性としてお慕いしています」


「お兄ちゃんは小さい時から…それこそ物心つく前から私を大切にしてくれた。守ってくれた」


「お母さんからお兄ちゃんが私のお兄ちゃんだって聞いた時にはびっくりしたけど……とても嬉しかった。こんなにも優しくてカッコイイ人が私のお兄ちゃんなんだーって自慢したかった」


「でも私は人前でお兄ちゃんのことをお兄ちゃんって呼ぶことができなくて、とても悲しかった」


「そんな私をお兄ちゃんは慰めてくれた。私がいじめられた時には体を張って守ってくれた。私はいつもお兄ちゃんに守られてばかりだった」


「そんな自分に嫌気がさして、自己嫌悪に陥っていた時には、今の私でいいよって言ってくれた」


「いつも私を守ってくれるお兄ちゃん。いつも私を励まし、支えてくれるお兄ちゃん。私がどれだけ自分を嫌いになろうと、お兄ちゃんだけはこんな私を好きでいてくれた」



「そんなお兄ちゃんに私は———恋をした」



「恋。初めての恋。初恋。でも相手はお兄ちゃん。異父兄妹だからってこれがいけない事なんだってことは幼心でもわかってた」


「私は何度もこの気持ちを、想いを、この恋を忘れようとした。………でも、ダメだった。」


「この気持ちは普通じゃないんだって、いけないことなんだっていくら思っても私のお兄ちゃんへのこの想いは止められなかった」


「ダメなんだって思えば思うほど、愛おしい想いが溢れ出てきて……この気持ちは一時の気の迷いなんかじゃない、確かなものなんだって確認することができた」


「お兄ちゃんの側に居られるだけで私は笑顔になれた。いくらお勉強が厳しくても、いくら他の王女達からいじめられそうになっても、お兄ちゃんのことを想えば私は頑張れた」


「お母さんが死んだ時も、何度もいじめられそうになった時も、お兄ちゃんが居てくれたおかげで私は立ち直れた」


「王子共に襲われて、部屋に軟禁されて、私は思ったの」


「王宮を自由に出歩けなくなったのに全然悲しくない。むしろ他人に会わなくて嬉しい。でもお兄ちゃんと離れ離れになったのだけはどうしても耐えられないって」


「私にはお兄ちゃんさえ居ればいい。お兄ちゃんが私のすべてなんだ———って」



「私は……兄に恋をするようなダメな子です。悪い子なんです」


「それでも、私はいつまでもお兄ちゃんの隣に居たい。ずっと一緒に……2人で居たい」


「私は………お兄ちゃんが好きです。大好きです。愛しています」



「こんな私で良ければ………私と、結婚してください!!」




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



ヒサの告白…否、プロポーズが終わった。


これは…俺も覚悟を決めなくちゃな。


心の整理をしよう。俺はヒサのことをどう思っている?妹?主君?それとも……1人の女性として?



………俺がヒサをどう思っているか。それは考えるまでもなかった。ヒサを告白を聞いて、俺が今どう感じているか。それだけがすべてだ。


緊張した面持ちのヒサに、俺は返答をする。



「ヒサ………俺もヒサが好きだ。大好きだ。小さい頃からずっと…そして今も、これからも、俺はヒサを愛している。………ヒサ、俺と結婚してください!!」



腹の底に力をいれ、俺の想いを…魂を言葉に込めて言った。


ヒサは最初はきょとんとしていたものの、だんだんと笑顔になっていき———




「はいっ!私をお兄ちゃんのお嫁さんにしてくださいっ!!」




今まで見たきたなかで、最高の笑顔を見せてくれた。

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