第4話 ソーセージが好きなんですか四十万さん


二句森にくもりくん、最高に面白かったよ」

「やめて四十万しじまさん。そんな目で見ないで」


「うぇへへ……お花摘み〜♪ ひまわり畑でお花摘み〜♪」

「にゃァァァァァァッ!!」


 僕はとんでもない事をやってしまった。

 お花摘みという言葉が御手洗の隠語なのだと初めて知った。


「勉強不足でしたごめんなさい」

「私の面白ランキング上位に食い込むレベルだったよ」


 やめて!

 傷口に塩を塗って一晩寝かせるのは!

 翌日には水気が抜かれてシオシオになっちゃう。


「あ〜、い〜、う〜……」


 もう唸ることしか出来ないよ。


「えお♪ ところでお昼食べないの?」

「う〜ん、食欲が飛んでった」


 あの時までは普通だったんだよ。だけどやってしまってから急に食欲が。


「食べないと午後の体育もたないよ? それに私にコツを上から下まで教えてくれるんでしょ?」


 いやいや上から下までって言ってないよ。それに、さっきの事があってから四十万さんの言葉にはちょっとイヤらしさが混じっているような……気のせいだよね?


「舐めるように教えてくれるんでしょ?」


 舐めないけどね。


「そうだよね……食べないといけないよね」

「一気にそこまでっ」

「な、なにがっ?」


 自分の言葉に責任を。

 ならここはしっかりしなければ。

 ひとりで先にいかないで僕にも説明してよ。


「うぇへへ。それで二句森くんは学食?」

「僕はお弁当持ってきたんだ。四十万さんは?」

「私もお弁当」

「そっか」


 これが恋人同士なら「一緒に食べよ?」って言い合えるのにな……まぁ僕には縁の無い事か。


「一緒に食べよ?」

「えっ!?」


 とうとう僕の妄想が具現化したか?

 僕はどんな能力を使ったんだ?

 コップに水と葉っぱを浮かべて念じた事はあるけど何も起きなかったよ?

 それとも頭を打った拍子に前世の記憶でも呼び覚ました?


「一緒に食べよ、二句森くん」


 妄想でも前世の異能でも無かった。現実の目の前の女の子からのお誘いだ。


「いいの?」

「うん。みんな学食行っちゃって私達しかいないし」


 言われて教室内を見渡すと本当に誰もいなかった。その謎を彼女は教えてくれた。


「この学園の学食って人気なんだよ」

「そうなんだ」


 確か父さんもそんな事を言っていた。


「放課後には料理部がテイクアウトや夕食を作ってくれてるんだって」

「四十万さん、詳しいね」

「もっと褒めたらサービスしてあげる」

「うっ」


 そんな事をしているなんて知らなかった。確かに放課後ってお腹が空くし、部活終わりにちょっとした物を食べたいかも。


 ところどころからかうのはやめてよぉ。

 話が進まないよぉ。


「早く食べよ? お昼休み終わっちゃう」

「あ、うん。そだね」


 女の子とお食事。

 その事実だけでこの学園に入って良かったと思う。

『女の子には優しくしなさい』と父さんの教えどおり実践してきたけど、ついぞ男として見てくれる人はいなかった。そんな僕が黒髪美人さんとお食事なんて。


「うぇへへ。二句森くんのソーセージ美味しそうだね」


 笑い方はちょっとアレだけど四十万さんは僕を庇ってくれたり、話し相手になってくれたりするいい人だ。


「そう? あっ、でも父さんの手作りだから美味しさは保証するよ! 食べる?」

「お父様が作ってるの?」


 う〜ん。ちょっとややこしいかな。


「えっとね、僕の家は肉屋なんだ」

「ふむふむ」


 真剣な顔の四十万さんも素敵だな。


「んで、このソーセージそのものを父さんが作ってるの」

「にゃるほど♪」


 猫のモノマネ可愛い。


「でもお弁当自体は母さんが作ってくれるから……アレ? どうなるんだろ」

「つまりお父様とお母様の合体作なんだね。うぇへへ」


 お父様とお母様、四十万さんからそんな言葉が聞けるなんて幸せだ。


「うん!」

「ちなみに私は母様が作ってる」


 自分の母親をそんな風に呼ぶなんて四十万さんはお嬢様なのかな?


「四十万さんのも美味しそうだね」

「残念ながら私にソーセージはないよ。貝があるだけ」


 うん? う〜ん……うん?


 確かに見たところソーセージは無いけど貝? 貝も入ってないよ?

 ちょっと言い回しが気になるけどまぁいっか。


「四十万さんソーセージ食べる?」

「二句森くんのソーセージ?」


 まぁ広い意味では二句森印のソーセージって事でいいのかな? でもなんか……そこはかとなく背中がゾクゾクするのはなんでだろう。


「四十万さんソーセージ好きなの?」

「大好きっ!」


 僕の勘違いか。


「じゃああげるね」

「では失礼して……」


 僕がお弁当箱を渡そうとすると、彼女は立ち上がりぐるりと隣にやってきた、すると躊躇うこと無く僕の太ももに手を沿わせる。ちなみに机をくっつけたから向かい合わせだったわけで。


「ちょちょちょっ! え、四十万さん? 一体なにを?」


 僕の驚きとは裏腹に彼女はキョトンとした顔で「ナニって言われても」な顔。


「二句森くんのソーセージを貰おうかと」


 四十万さん……アウトです。


「……できればその、こっちのソーセージを食べてください」


 流石に僕でもわかるよ。


「……ちぇっ。わかった」


 なんでちょっとしょんぼりしてるのさ。

 危うく知り合って間もない女の子に自分のソーセージを食べられるところだった。


「じゃあもう1本はまた今度ね」


 それはちょっと約束出来かねますよ。


 僕はこの日、四十万八重しじまやえさんが少しだけわかった気がした。


 ちなみにあれだけ勢い込んで「僕が手取り足取り」って言ってた午後の体力測定は散々なもの。


「うぇへへ、私の方が上手だったでしょ?」


 手取り足取りどころかベタベタ触ってくるなんて聞いてないよ!



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