AUTUMN leaves

 赤や黄色の鮮やかな落ち葉が舞い散る秋、偶然再開した2人――。


「秋良?」


 突然声をかけられて振り向くと、そこには忘れもしない彼がいた。


「涼?」


 涼は高校時代に付き合っていた人だ。

私にとって、全部初めての人。

数年ぶりに会った涼はさっぱりとした短髪になっていた。

爽やかにスーツを着こなし、大人びた表情をしている。


「久しぶり。元気だった?」


 大学の授業が昼までで終わった帰り道。

涼は高校卒業と同時にここから離れた街で就職したと聞いていた。

だからもう、会うことはないと思っていた。

思いもかけない再会に胸が震えた。


「……うん。どうして……こっちに……いるの?」


 声が掠れてうまく話せなかった。

もう忘れていた筈なのにどうしてこんなにも動揺しているのだろうか。


「実はさ、春の人事異動でこっちの支社で働くことになって帰ってきてたんだ」


「そっか……」


「今、時間ない? もし良かったら、少し話そうよ」


 2人が入ったのは高校生の時にもよく来た喫茶店だった。

昔と変わらない懐かしい雰囲気だ。

2人は窓際の奥のテーブル席に向かい合って座った。


「懐かしいな。昔はよく来てたよな」


「うん。懐かしいね」


 店のマスターがコーヒーを運んできてくれた。

懐かしい味、懐かしい雰囲気の中、2人の話題は自然と高校時代のことになる。

あの頃の同級生たちがどうしているかなんて、思い出話に花が咲く。


「――俺たちが付き合ってたのもこの頃だよな」


 不意に涼が言った。

ここまで自然とこの話題を避けていたのに。

コーヒーの苦い香りが鼻についた。


「そう……だね」


「……今更だけどさ、なんであの時『別れたい』なんて言ったの?」



 あの頃、別れを切り出したのは秋良の方だった。

高校3年、受験生の秋。


「涼……、別れて欲しいの」


「なっ……! なんだよ、突然!」


 突然切り出された別れ話に驚きを隠せない様子の涼だった。

それから私は卒業まで徹底的に涼のことを避けた。

何も言わないまま卒業して、それっきり。



「だっ……て、涼が……浮気したんじゃない」


 静かにそう答えた。

あの頃を思い出す。


「私、見たの。女の人と抱き合ってる姿。その前にもその人と歩いてるの見た」


 涼は黙って秋良を見つめている。

沈黙が続いた。

やがて、涼が大きな溜め息をついてコーヒーを飲んだ。


「違うよ。浮気じゃない」


 ゆっくりと涼は言った。


「それ、きっと兄貴の彼女だよ。ちょうどあの頃大喧嘩してて泣き付かれてたんだ」


 まっすぐ秋良を見つめる瞳に嘘はないようだ。

だとしたらなんて勘違いをしていたのだろう。

ずっと黙っている秋良に、まだ疑っているのかと思った涼は言葉を続けた。


「信じられないなら兄貴たちに聞いてみればいいよ。最近、結婚したんだ」


「そんなっ……! 私ずっと……」


 はらはらと涙が頬を伝う。

その涙を涼が優しく拭った。

そして――。


「もう1度やり直さないか? もし良かっただけど」


 溢れる涙を止められず、頷くことしか出来ない秋良を、涼が優しく笑って見つめていた。


 失った時間は戻らないけど、今日からまた新しいスタートをきろう。

2人で一緒に――。

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