指先に甘い甘いキスを。

 俺は彼女を優しく押し倒した。

少し震える身体。

彼女は真上から見下ろした視線から逸らし、キュッと強く目をつぶった。

そして、恥ずかしそうに言った。


「……うん。初めてだよ」


「そっか。大丈夫、優しくするから」


 そして、俺は深く甘いキスをした。


(お前、本当は慣れてるだろっ)



「って訳で俺の勝ち」


 友達からせしめた1万円を財布にしまって立ち上がった。

ここは大学のカフェテリアだ。

ふと見回すと昨日一夜を共にした彼女がいた。

声をかけようかと後ろからそっと近付いた。


「恋愛なんて所詮ゲームだよ」


 彼女が昨日と全く違う、勝気な様子で言った。

長い綺麗な指でヒラヒラとさせた1万円を見て、俺はひらめく。


「ふーん。そういうことだったんだ」


 驚いて振り返った彼女は驚愕の表情を浮かべていた。

それもそうだろう。

まさか聞かれてるとは思ってなかっただろう。

それが、俺たちの本当の始まりだった。


そして、2人の賞金を持って彼女を行きつけの店に連れて行った。


「ちょっとーっ、何でラーメンなのよーっ」


 カウンターの隣りに座った彼女が文句を言う。

おしゃれなバーにでも連れていかれるとでも思っていたのだろう。

ていうか、実際俺だって普段はそうしている。

だけど、何故かここに連れてきてしまった。


「ダチがやってる店なんだよ。いいから伸びないうちに食え」


 そう答えると俺は割り箸を割った。

黙ってラーメンを食べる。

諦めたのか、彼女も隣りで割り箸を割った。

チラリと見ると意外と箸の持ち方が綺麗で。

髪を耳にかけたうなじまでのラインがなまめかしい。

俺の視線に気付いたらしい、彼女がチラリと俺を見た。


「何よ」


 見とれてたなんて意地でも言わない。

言葉を濁して、俺はラーメンに集中した。

こんな感情、久しぶりだ。


 ラーメンを食べ終わった俺たちは店を出た。

自然と肩を並べて歩いていた。

何処へ向かうともなく。


「これからどうする? ラーメンだけじゃあ、お釣が多すぎるわ」


 彼女は上目使いに俺を覗き込む。

その視線に何人の男が騙されてきたのだろう。

人のことは言えないがそんなことを考えた。

いや、いっそのこと騙されてみるのもいいのかもしれない。


 俺が彼女の肩を抱いて向かった先はラブホテル。

彼女は慣れた様子で部屋に入る。

しおらしくしていた昨日とは大違いだ。


「ふぅん。昨日みたいにしおらしくしないんだ」


「まぁね。もう必要ないでしょ」


 彼女は不敵に笑う。

妖艶なその笑みに心奪われる。

俺は強引に彼女を押し倒し、指先を絡めた。

そして、その指先にそっとキスをした。


 ――甘い甘い夜の始まり。

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