第2話 いざリウキウへ! ペロ2視点

「改めまして皆さん、おはようございま~す!」



 明るい緑色というかなり派手な髪の女性が出てきて、参加者を集めさせた。冒険家のような服装のあの人はミライさんだ。動画やテレビでよく見ていたが、実物を見るのは初めてだ。


 しかしこれは皆も「おはようございます」とか返すパターン。普段なら俺は絶対何も言わないのだが、今は隣にキタキツネが居る。



「お゛は゛よ゛う゛ご゛ざ゛い゛ま゛す゛!゛!゛!゛!゛」

「びっくりした……」


「ごめんなさい」


「はい、ありがとうございます!昨晩も言いましたが、皆さん今回は、当ジャパリパークの旅企画にご応募頂きありがとうございます。この旅では、皆さんが希望なされたフレンズさんと共に、私ミライの案内の元、パークやフレンズさんに触れて頂き、パークを知って貰おう、と言う企画となっております。では、私からの挨拶は一旦…ここまでとしまして、今回の企画の主催者であり園長の継月さんに旅のプランを説明して頂きましょう!お願いしまーす!」



「あの人園長だったんだ? 芸人かと思ってたよ」

「芸人じゃないよ」



 彼はそのままステージ上で説明を始めた。


 俺がささっとまとめると詳細はこう。今のパークは開園前で、俺達はその試験的な客として招かれた。色んな事情を鑑みて考えた所10~30人を招く予定だったが、100人以上の応募が集まったと。



「100人以上か……そこからここにいる6人が選ばれたんだ。なんか、運使い切った気がする」

「ボク昨日げぇむで0.06%のきゃら引いたんだ。それに比べたらずっと簡単だよ」

「俺達は人生に一度きりの単発で当てたんだ。キタキツネは何連で引いた?」

「もちろん単発だよ、ふふん」



 キタキツネ渾身のドヤ顔である。はい可愛い。はい天使。


 説明があったので俺がしおりを開いて見せると、キタキツネがぎゅっと距離を詰めてきた。俺のほうが少し背が高いので、けも耳が顔にあたってくすぐったい。


 顔を上げて見渡すと周りのペアも各々しおりを開いて、ペアのフレンズと話しながら眺めている。皆楽しみにしているようだ。



 話によると、今日はクルーザーでリウキウ地方に行くようだ。そこで守護けもの?の話を聞いた後、待ちに待った自由行動。簡単にルールも説明された。


 りうきう……サンドスターによって日本の沖縄を再現した地方だ。沖縄は学生の時に行ったことがあるがその時正直天気は良くなかったし、買い物の時間に陰キャグループで一緒になってオタクショップに行くという愚行を働いて楽しい思い出は無い。


 だが今回はキタキツネが一緒だ。さてどうなることやら。5泊6日らしいので、リウキウ以外でも色々と考えて行動しなければいけない。



 話し終わった継月園長はミライさんと反対側のステージ横へ歩いていった。ステージを挟んで立つ二人。これから一発芸でも披露するのだろうか。



「はい、ありがとうございました。それでは最後に、現在は主にこのキョウシュウエリアの守護を務めておられますスザクさんからのご挨拶で終わりたいと思います。スザクさーん、お願いしまーす!」



 スザク? そういえば妙に神々しい赤い鳥のフレンズが居た気がするが、まさか……?


 そのまさかだった。


 先程見た赤い鳥のフレンズが、ステージの上から降りてきた。まるで糸につられているような重力を無視した動きだ。


 今の俺にはあまりにも情報量が多すぎて、声すら出すことができなかった。目があうのが怖い。もちろんキタキツネに危害を加えようなどとは思っていないが、人一倍邪な人間なので目をつけられていそうで不安になる。



「ぺろー?」



 キタキツネに話しかけられているのさえ気づかなかった。



「生まれてはじめて……あんなに不思議なものを見たよ。正直、怖い。あれは一体何だ?」

「あのフレンズはスザク。ちょうげきれあなフレンズだよ」

「スザクか。噂では聞いていたが概念というか神話の生き物までフレンズ化しちまうのか、ここは……」

「オイナリサマとかキュウビも居るよ。ボクたまーに遊んでもらうんだ」

「おいおい、まじかよ……」



 一日目にして圧倒されてしまっている。神や神話を具現化してしまうなど、聞いたことがないしだれもやろうと思わない。しかし今ではそれが目の前で起こっている。


 無神論者で心霊も信じてこなかったが、話が違ってくるな。




「それでは皆さん、ついてきてくださいね~」

「ぺろー、ぺろー? ボクはやく行きたいよ」



 おっと、考えている間に話が終わっていたようだ。キタキツネが手を引っ張って急かしてくる。



「ごめん、ごめん。それじゃ行こっか」




 _____




 俺たち参加者はその後港に案内され、中くらいの大きさのクルーザーに乗せられた。


 潮の香りが漂って、これから海の上を行くということを教えてくれる。まだリウキウではないが、かなり落ち着いた気分になっていた。


 前の席にはコウテイペンギン、後ろにはアードウルフのフレンズが座っている。どちらもペアは男で、海やしおりを見ながら楽しそうに会話していた。

 また横には学生? くらいの女の子と、ジョフロイネコが並んで座っている。斜め前の女の子もそうだが、野郎共と違って女性陣は既にガールズトークで完全に打ち解けているようだった。




 しばらくして恒例の掛け声の後、いよいよクルーザーが走り出した。結構なスピードで波をかき分けながら、あっという間に港から離れて周りの景色が海だけになった。



「滅茶苦茶きれいな海だな。海底が見えるなんて凄い」

「そんなにすごいかな」

「俺の住んでる所はな? 海がお茶の下の部分みたいな色で泡が立って、とにかく臭いんだ。好き勝手ゴミを捨てる人が居るから海岸はゴミだらけだしな」

「こゃ!」



 キタキツネが肩を震わせたかと思うと、全身の毛を逆立ててうずくまった。



「ごめんごめん! りうきうですること決めよっか。えっと、キタキツネはリウキウ行ったことあるのか?」

「リウキウってげぇむあるのかな」

「ゲームはねえなぁ、でもきれいな海とか美味しい食べ物とか、可愛いフレンズもたくさん居るんじゃないか? 普段雪山にいるキタキツネだからそういうの新鮮だろ」

「げぇむ無いのかぁ……」



 キタキツネはゲームしか頭にないらしい。しかしコーヒーカップの時結構喜んでいたし、子供っぽいところがあるから現地についたらはしゃぐのかもしれない。


 それにさっきから見ていると、窓から身を乗り出してずっと海を眺めている。



「おさかながこの下にいっぱいいるんだ。食べたいな。ぺろ泳いで取ってきてよ」


 キタキツネは悪びれる様子もない。素で言っているようだ。しかもキタキツネが行ってくれば? と冗談のつもりで言ったら本当に飛び込もうとしたので、流石に本気で止めた。


「困ったイタズラ狐だな」


 キタキツネが結構悪い顔で笑った。悪女の才能もある。


 キタキツネを見ていると、キツネが美女に化けて王を惚れさせ国を落とすというのも、あながち幻想ではないのかもしれないと思えてきた。そんな事を考えていると、淀んだ人間社会で凝り固まった頭がいい意味でIQを失って少年時代の感覚を取り戻していくのが分かった。ジャパリパークの魅力はそこにあるのだろう。



 ……結局そんな感じでリウキウの港に着くまでイチャイチャし、結局リウキウでのスケジュールが決まることはなかった。



 キツネの悪女フレンズ恐るべし。

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