第11話

 取り敢えず服を着させた。


「え、じゃあ何であんなに大金を?」


 私が残した飲み物──恐らく薬物入りの物を平然と飲みながら聞いてくる。


「貴女の独り言を聞いたの、どうせ貴女、王宮の情報を探ろうとしてた密偵なんでしょ?」


「……な、何でわかったんですか!?私の変装は完璧だったのにっ!」


「あんな、毒花塗れだったら気付く人は気付くわ!」


「え、誰も摘んでないから丁度いいと思ったのですが……」


「毒があるから誰も摘まなかったのでしょうよ……」


「なるほど!勉強になりました!」


 この子のご主人様とやらは、何でこの子に密偵を任せようと思ったんだろう……


「それで、貴女の話を聞かせてくれないかしら」


「え、知らないのですか?あの宮廷にいて……?」


「……つい最近、隣国から仕えに来たの。詳しく教えて」


「仕方ありません、特別な話ですから内緒ですよ、他の人には教えてはなりませんよ」


 ……王宮の人はみんな知ってるんじゃなかったの?


 いや……そう言って言いふらしたんだろう。


「わかった」


「将軍のダリオン様には、ベルミダという娘がいまして、王様は彼女と結婚したい思っているのですが、相手は全然乗り気じゃないのです」


「王様を愛していないの?」


「そーです。彼女が愛しているのは王弟殿下のアルサメナ様。私のご主人様なのですが、この間その事がバレて追放されてしまったのですよ」


 なるほどナローシュが言ってたのはこういう事だったか。


 というか見ないと思ったらアルサメナ様、追放されてたのね。


 王位の継承権で考えれば、ナローシュを殺す可能性が一番高いのは彼だから、処理しててもおかしくはなかったけど……そんなどうでもいい理由で追放するとは。


 ナローシュと違って彼が温厚で善良な性格で良かった。


 もしそうじゃなかったら、暗殺されてたでしょうに。


「今、アルサメナ様はどこに?」


「えー。王宮の方に場所を教えたら、追っ手が来るかもしれないじゃあ、ないですか。ご主人様に危険が及びますよぉ」


「安心して、私はそんな事はしない。悪いようにはしないから」


「……貴女も密偵ですよね?どこの国から?」


「私は……アリストイーリス様の密偵です」


「……なるほど!それなら安心です!ナローシュ様の直参だったら"始末"しないといけなかったので!」


 平然と言って微笑む目には一点の曇りもない。


 何か、ほんの一瞬金属のような反射が見えたような気がするけど……気のせいだと思いたい。


 ……今日のところは撤退しよう。


「……そろそろ戻らないと……立哨の交代時間です」


「アルサメナ様に、味方が現れたかもしれないと伝えておきますね!夜にまたここで会いましょう!」


 ……よくナローシュは暗殺されてないものだと、しみじみ思う。


 本当にあの毒花は間違えて摘んできたものなんだろうか。


 もし、この子に声を掛けず、ナローシュが花を買っていたら?


 あの人は多分、気付かない。


 なんせ、私にくれたアイリスの花でさえ。


 口にすれば毒になるのだから。

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