第6話

「舐めるな!小僧!」


 激昂した兵士の一人は、馬鹿正直に剣を掲げて向かってくる。


「ふッ!」


 振り下ろされる剣を擦り上げて軌道をそらし、腕を浅く切りつける。


「なぁっ!?」


 兵士は驚いて間抜けな顔を晒していた。


「"草原の民"に刃物の扱いを学んだ方が良いのでは?そのままでは、羊を捌くのにも苦労されることでしょう」


「き、貴様!」


「このまま"剣のお稽古"をしても私は構いませんが、まさか不死隊の先輩が、私の剣で怪我をしたとあれば、醜聞になってしまいかねないでしょうが……如何でしょう?」


 どちらの醜聞かなんて、言うまでもないけど。


「……ふん、最低限の実力はあるようだな」


 いつ暗殺されるかという国で、鍛錬を怠る王族なんているわけがない、私だって例外じゃない、"例外になってしまった"ナローシュ様を守る為に、"ある程度"は身につけている。


 まあ、彼らに対応できているのは、ただ単に、私の剣は護身用の小手先の技術で、兵士達の技術は槍と戦の為のものだから、見慣れてないだけなんだろうけど。


「だが、この程度で調子に──」


 頭に血が上ったな、この人。


 ……仕方ない。何人か"鳥の餌"になれば、流石に気も変わるでしょう。


 ……私が無事に生きていればの話だけれど──


「いい加減にしなさい。王宮で血を流すものではありませんわ。衛兵よ、今すぐここを立ち去りなさい。挨拶は、もう十分でしょう?」


 ナローシュ様に言い寄られていた子が、私達を止めた。


「……くっ」


 兵士たちは不平も言わず、私を睨んで去っていく。


「さあ、異国の騎士様。貴方も剣を収めて。いくら腕に自身があったとしても、あのような振る舞いは良くありませんよ」


「……ええ、命拾いしました。大丈夫ですか?すっかり怯えていたものかと」


 止められる権力があるのなら、もっと早い段階で止めて欲しかったのだけれど。


「……どちらかが血を見るまでは、静観しておりましたの……お互いに殺気立っているんですから、そうでもしないと止まれないでしょう?」


 冷静に見れば、私も血が上ってたかもしれない。


 穏便に済ませるなら他にもあったかな。


 ……癇癪持ち……か。


 あながち間違いじゃないかも。


「ねえ、教えて頂けませんか?なぜ、陛下の邪魔するようなことをしたの?」


「……私の胸のうちに燃える炎のために、です。私はその為にこの国へ来たのですよ。お嬢さん」


 ナローシュへの復讐心という炎のね。

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