第二部第3話「魔女追慕」

 キングスレイ鉄鋼共和国の鉄道卿の1人、“マナタイトの魔女”キルケー=ランカスターは、”忘れられた都市”タージを手に入れる算段を着々と整えていた。


 聖戦士の資格を持つ者と、聖戦士が使っていた神器の両方を手に入れた彼女は、引き続き自身が所有する飛空艇を用いてタージに辿り着くための試験を行う一方で、空中都市に辿り着いたあとに全貌を探索するための手段を必要としていた。


 キルケーは魔動機文明時代の遺跡探索においてこの世界でも第一人者と目されている”金瞳の魔女”スノウ=フェリアを招聘する意思を固める。スノウは近年最大級の遺跡発見であり、キングスレイ鉄鋼共和国の発展に多大な恩恵をもたらした”埋もれた都市”サステイルの発掘者である。あまりにも利権が大きすぎた故に戦争が勃発し、スノウ本人にも多大な報酬を支払うことになってなお、為政者であるキルケーにとっては必要なコストであった。


 スノウの足取りを密偵に探らせた結果、彼女はキングスレイ鉄鋼共和国の隣国、アルショニア女王国に滞在しているという情報を掴む。アルショニア女王国は最近、「聖戦士の末裔を国内で発見した」と外交チャンネルを通じて発表しており、鉄道卿の集まるサロンでも対応を話し合っているところであった。


 この情報戦に関して、キルケーには有利な点があった。彼女はブルライト地方にあるマカジャハット王国の国王代理、イェキュラ=マカジャハットと懇意にしており、イェキュラとは魔法の品物”通話のピアス”で遠距離の会話が可能であった。そのイェキュラが偶然、外遊公務でアルショニア女王国を訪れていたのである。


 イェキュラからの情報で、アルショニア女王国の「聖戦士の末裔を見つけた」という発信が、”忘れられた都市”タージの利権をキングスレイ鉄鋼共和国に独占させることを警戒したアルショニア上層部のデマ情報であることを既にキルケーは把握していた。このことを利用して、同国内に滞在するスノウ=フェリアの情報を引き出し、招聘に協力させる。


 キルケーの目的は定まり、タージ探索のための飛空艇の準備を部下や”紅の紫電”イオーレ=ナゼルに任せて、元奴隷のセルゲイ=ゲラシモアら”星月巡り”のメンバーを引き連れて、自らアルショニア女王国へと向かった。


 アルショニア女王国に到着したキルケーと”星月巡り”一行。宿の確保をしている折に、奇妙な吟遊詩人・レヴィンから接触を受ける。彼に敵意はなさそうだが、”星月巡り”一行が特別な目的を持ってこの国を訪れていることを指摘した上で、


「近いうちに君たちが遭遇するだろう流星雨には気を付けた方がいい。だけど、流れ星に願いをかけると叶うとも言われているし、全ては君たちの心持ち次第さ」


 と、予言とも助言ともとれる謎の言動を残して去っていった。


 一行はアルショニア女王国内の迎賓館で、マカジャハット王国の実質的女王にしてキルケー=ランカスターの友人、イェキュラに謁見を受ける。


 そこでアルショニア女王国が発信していた「聖戦士の末裔を発見した」という言葉は、キングスレイ鉄鋼共和国による、タージの利権独占を警戒したが故のデマであり、噂が広まってしまい政治的に引っ込みがつかなくなっていることを教示される。


 折しも国内の閉鎖的な農村から凶事の責任を被せられた「魔女討伐の依頼」が上奏されており、デマを取り繕うためにその魔女を「聖戦士の末裔を殺害した女」としてでっち上げ、騎士団で討伐することで面目を保とうとしている動きを知らされる。


 イェキュラの特務を受けた斥候の調査によれば、その魔女なる人物は、単に忌み子のナイトメアを出産した普通の人間だということだ。


 理不尽な状況に憤る星月巡り一行であったが、為政者であるキルケーとイェキュラは冷静にして非情であった。2人はこの女王国の失策と言うべき状況を、政治的利得に変換するチャンスだと捉えている。「ナイトメアを産んだ人間の女性とナイトメアの子供」を騎士団に先んじて保護し、自らの下に連れてくることを星月巡りに命じた。彼女たちは、それによって女王国の失策の証拠を押さえ、政治的に利用するつもりでいるのだ。


 釈然としない点が幾つもある依頼であったが、


「とても難しいことですけど、少なくとも私たちが行けば、その可哀想な女性は助けられますよね?なら、行きましょう!」


 と、神官のルーヴは発言しキルケーの指示に従うことにした一行。


 セルゲイの提案で架空の蛮族退治の依頼を発注してもらい、それを請けた冒険者パーティーの体をとって村へと潜入、魔女とされる女性を救出する方針を固めた。


 アルショニア騎士団は既に村に向けて出撃している。後々面倒なことになるため、騎士団と事を構えることは厳禁とされた。


 早馬を飛ばし、騎士団に先行して村に到着した一行。村は農業の収穫が凶作の上に危険な野生動物に残り少ない農作物を食い荒らされ、飢餓寸前の状態になっていた。


 聞き込みから得た情報によれば、魔女とされる女性は他所から来た流れ者で村の複数の男性と関係を持っており、父親が誰ともわからないナイトメアの子供を出産したことから、恐怖と不安が飽和した村から全てを押し付けられた形になっていることを知る。しかもその魔女は行方不明だという。


 魔法による探索を駆使して魔女の足取りを追い、山間部で野生動物を追い払いながら、一行は《セーフ・ハウス》の魔法によって造られた隠れ家を発見する。


 一行はそこで、匿われていた魔女及びナイトメアの赤子と対面する。”魔女”の正体はただの人間でありメアリーと名乗った。彼女は、偶然にも星月巡りの一員シガレット=カルカンスキーのかつての生き別れの恋人であった。もっとも、シガレットは獣化の呪いで容貌が変化しており、メアリーは彼に気付いていない。


 そして彼女を匿っていたのは、かつてゴケルブルク大公国で星月巡り一行を利用した魔動機師、スノウ=フェリアであった。


 メアリーはナイトメア出産の後遺症で心身の損耗が激しく、既に回復魔法も受け付けない手遅れのような状態であった。メアリーは社会で忌み子として扱われるナイトメアの赤子だけでも守ろうと命辛々村を逃げ出し、噂を聞き付け村を訪れていたスノウに保護されていたのだった。


 スノウは同じナイトメアのよしみで赤子を助ける意思があり、そのために過激派の村人及び彼女たちを討伐しに来る騎士団とは戦うつもりでいた。当代一の魔動機師とされる彼女の実力であれば、赤子を守りながら脱出は可能であろう。しかし、近い将来にキルケーがスノウを登用することを考慮すると、彼女と騎士団との衝突はキングスレイ鉄鋼共和国とアルショニア女王国の泥沼の対立に繋がる可能性が高い。その上、余命幾ばくもないメアリーに関してはスノウは助ける意思がなかった。


 赤子を助ける方針では一致しつつも、メアリーの処遇や騎士団への対策で意見が対立してしまう”星月巡り”一行と”金瞳の魔女”。騎士団は既に村の付近まで進軍しており時間の余裕もない。


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「メアリーさんを見捨てることに、何も感じないのですか?」

「彼女は『子供だけでも助かって欲しい』と心から願っているわ。救われるべき人しか救わない神の遣いよりは、よほど人の意思を尊重しているつもりよ」

「そんな、神が教える人の愛はそんな薄情なものでは…!」

「よせ、ルーヴ。こいつはこういう女だ。神殿関係者には特にきつく当たって来る」

 ールーヴ、スノウ、シガレットの会話より

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 スノウの説得を諦めた”星月巡り”一行は、禁じられていたアルショニア騎士団との接触を試みる。”星月巡り”の一員の格闘家、バル=カソスはアルショニア女王国出身であり、国防と政治を女性が占有する同国において、男性の身でありながら敢えて騎士団の入隊試験を受け落選した。その時の面接官が魔女討伐隊の中隊長となっており、顔見知りであることを利用して面談に成功した。


 騎士団のフィレニアス=ファイエル中隊長は理知的で柔軟な人物であったが、それでも国家命令として魔女討伐を拝命している以上曲げることは出来ないというスタンスであった。それでもバルは諦めずに説得する


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「俺には担えなかったが、騎士団、国防の役割とは民の安寧を守ることのはずだ」

「村の凶事とは凶作と野生動物の暴力であり、魔女の仕業が凶事を運んだわけではない!」

 バル=カソス

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 また、この時点でレヴィンの予言した流星雨とは奈落の魔域の発生であるとセルゲイは認識していた。「かなりの規模の魔域が発生し、村は危険に晒される」と訴え、バルの説得と合わせて騎士団の山狩りを延期させ、村内に留まらせることに成功した。


 一行は山中の隠れ家にいるスノウの下に戻り、奈落の魔域の発生の混乱に合わせて、ナイトメアの赤子を連れてこの地域を離脱するように要請した。スノウの飛空艇は故障中で使えないということだが、魔動機術で生み出せる《スカイ・バイク》によって彼女と赤子だけは脱出させ、メアリーは魔域の発生と共に彼女を連れて突入し、魔域内で負傷した仲間ということにして治療を名目に騎士団の監視下から逃亡するという段取りとなった。


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「随分頑張るようだけど、赤子はともかく、女は助からないわ」

「それでも良いんだ。俺は、もう後悔したくない」

「後悔ね…いつだって世界は、人の意思では都合よく動かないものよ。いちいち後悔など」

「あんたが飛空艇のために戦争を起こしたり、気まぐれでもメアリーを助けたのは意思だろう。力ある意思なら、未来は変えることが出来るさ」

 ースノウとシガレットの会話より

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 まもなくレヴィンの予言通り夜空一面に流星雨が降り注ぎ、大規模な奈落の魔域が発生する。一行は動けないメアリーを抱えながら突入し、彼女を守りながら速やかにデーモンを討伐、魔域のコアを破壊して脱出した。


 ===ボス戦闘====

 ラグナカング*1

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 魔域脱出後の村では野生動物の来襲により騎士団が戦闘を始めており、一行は混乱の隙に離脱。キルケーの下へと帰還する。


 親子が政治的に利用されることを嫌ったスノウやセルゲイの意向を尊重し、イェキュラとキルケーの下にナイトメアの赤子を届けなかったが、当事者たるメアリーの証言はアルショニアに対する政治的圧力の材料としては十分なものであった。また、”金瞳の魔女”スノウ=フェリアに対してもタージ探索に協力する言質を取り付けることが出来ており、その成果に満足したキルケーとイェキュラは、メアリーに対して出来る限りの治療を施し、穏やかに過ごす手配をすることを一行に約束した。



 キングスレイ鉄鋼共和国に帰国すると、飛空艇を使ったテストを行っていた”紅の紫電”イオーレ=ナゼルから、空に浮かぶ都市タージに辿り着ける見込みを伝えられる。


 空に隠された都市が待つのは聖戦士の末裔を伴った冒険者たちか、それとも……?


【今回の登場人物】

 セッション参加キャラクター

 シガレット=カルカンスキー(マギテック7)

 バル=カソス(グラップラー8)

 セルゲイ=ゲラシモア(アルケミスト8)

 ルーヴ=デルタ=ヴォランティス(プリースト7)



 レヴィン=プラデッシュ  

 種族:人間? 性別:男性 年齢:不詳


 自称、旅の吟遊詩人。アルショニア女王国の最高級ホテルで冒険者一行と出会い、今回の事件に関する様々な予言とも助言とも取れる言葉を残した。その目的や正体は現在のところ不明。



“金瞳の魔女”スノウ=フェリア 

 種族:ナイトメア 性別:女性 年齢:不詳


 第二部第1話から登場。”埋もれた都市”サステイルの発見者であり、当代一の魔動機師と言われるが、黒い噂の絶えないナイトメアの女性。魔動機文明時代の遺跡探索に関する第一人者と目されており、タージ探索を目指すキルケーは様々な悪評を承知で彼女の登用を望んでいた。

 ナイトメアの赤子の保護のためアルショニアの地方集落を訪れ、騎士団との対決も辞さない構えでいた。

 最終的に衝突は回避した上、赤子を相当の金銭と共に孤児院に預け入れることになる。その際にキルケーの要請に条件付きで応える旨を”星月巡り”一行に伝えた。

 世界で唯一の「個人で飛空艇を持つ者」のはずだが、今回において飛空艇リ・クロス号を使用することはなかった。彼女曰く「故障中」とのことだが…?



 メアリー=フレイ 

 種族:人間 性別:女性 年齢:30歳 


 アルショニア女王国の山間の集落で薬草師として生計を立てていた女性。かつてはシガレット=カルカンスキーの恋人であったが、”埋もれた都市”サステイルを巡る戦乱が勃発した折にシガレットと生き別れる。戦火を逃れ余所者として流れ着き、多くのものを失った喪失感を埋めるように村の複数の男性と関係を持ち、潜在的な不満が貯まっていたところ、父親のわからないナイトメアの子供を出産したことを引き金に、村に起こっていた凶事の責任を押し付けられ、”人心を惑わす魔女”として、さらに”存在しない聖戦士の末裔を殺害したスケープゴート”として利用されそうになっていた。

 ナイトメア出産時に身体を患い視力をほとんど失っていたため、シガレットの姿が変わっていたこともあり彼のことは最後まで気付かなかった。余命いくばくもない状況であったが、”星月巡り”一行の機転で村を脱出、アルショニアの嘘を暴く証拠としてイェキュラとキルケーに政治的利得を与えた対価として、キングスフォールで治療を受けながら穏やかな余生を過ごすことを許される。



“西の魔女”イェキュラ=マカジャハット (※公式NPC)

 種族:ナイトメア 性別:女性 年齢:23歳 

 

 ブルライト地方にあるマカジャハット王国の国王代理。”西の魔女”の異名は、ユーシズ魔導公国の”東の魔女”ヴァンデルケン=マグヌス(第一部第4話に登場)と対を為す。

“忘れられた都市”タージの利権を地方大国のハーヴェスとキングスレイが独占することに危機感を抱き、各国への外交的働きかけを行っていた。その際友人であるキルケー=ランカスターと協調し、アルショニア女王国が犯した政治的嘘と失策の証拠を握るべく、メアリーとその子供の身柄を確保しようとした。結果として子供は手に入らなかったが、メアリーからの情報を握ったこと、冒険者たちからハーヴェス王国の動向に関する情報を得たことで一定の満足を示し、ブルライト地方へと帰っていった。


 フィレニアス=ファイエル 

 種族:リカント 性別:女性 年齢:55歳


 愛称フィー。アルショニア女王国の騎士団の一員で魔女討伐隊の隊長。”星月巡り”一行のひとり、バル=カソスが騎士団入隊を志望した時の面接官であった。アルショニア女王国は、国防と政治は女性が司る文化があり、そこに男性の身で無謀にも(?)進もうとしたバルのことは彼女の記憶に残っていた。

 政治屋のついた嘘の尻ぬぐいのため魔女討伐を名目として派遣されていたが、彼女自身は冷静かつ柔軟であり、冒険者たちの策を一部黙認する。村に出没していた危険な獣を討伐することで面子も保った。

 なお、普段は豪放磊落なバルだが彼女の前では借りてきた猫のように大人しかったらしい…



【次回予告】


 かつて世界を救った聖戦士達の子孫と、彼らが使っていた武具が揃った。


 ”忘れられた都市”タージに辿り着く準備を整えたキルケー=ランカスターの野心を牽制しようとする動きの中で、


 抑止力として白羽の矢を建てられたのは、聖戦士そのものを直接知る旧き水の民。


 過去を語ろうとしない”聖剣の護り手”は否応なく、人の歩んできた道を振り返らざるを得なくなる。


 英雄は愚かで、人の希望と怨念を引き受けるだけの魂の器だったのか。


 人ならざる魔の領域から、奈落で彩られし怨嗟の声が聴こえてくる…


 ソード・ワールドRPG第二部第4話「出来損ないの英雄」


 冒険者たちよ、剣の加護は汝と共に。




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