第二部

第二部第1話「イノセント・ワールド」

 この世界に戻ってきた“忘れられた都市”タージを探索するための方法を求めに、この大陸最大の国家であり、魔動機文明の技術にも明るいキングスレイ鉄鋼共和国を目指す”星月巡り”一行。


 長旅を続け、ドーデン地方の玄関口・ゴケルブルク大公国に辿り着いた。


 ここまで来れば、地方横断鉄道でキングスレイまで行けるはずであったが、長雨と鉄路の破壊の情報によってしばらく列車が運行されていないことを、案内役として一行を待っていたグラスランナー、エノテラ=テトラプテラから知らされる。

 鉄路の安全が確認できるまでゴケルブルクに足止めになった一行であったが、彼らに接触し、依頼を提案する者がいた。


 そのナイトメアの女性は、この世界で不吉の象徴とされる金色の瞳を持っていた。街中でもその異貌を隠そうとせず、周囲の人々の嫌悪の視線を歯牙にもかけず、彼らの前に現れた。


“金瞳の魔女”スノウ=フェリア。当代一のマギテックとして多くの功績がある高名な冒険者だが、彼女にはその功績も霞むほどの悪い噂もまたある。


 曰く、裏で蛮族と繋がっており、彼らに魔動機文明の遺失技術を流していると。


 曰く、神殿関係者に独自の価値観で私的制裁を加える背神者だと。


 スノウの依頼とは、この街に棲み付く悪徳宗教家への制裁の補助だった。存在しない神の名を騙り、自らに都合の良い宗教的コミュニティを作り上げた教主の欺瞞を暴き、組織を解体するつもりだと。


“星月巡り”一行の1人、シガレット=カルカンスキーは警戒する。スノウの最大の功績と言われる”埋もれた都市”サステイルの発見と発掘の際、シガレットは間接的ながらその案件に関わり、彼女の暗躍によって周辺各国の戦争に繋がってしまったことを知っている。


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「おい、この女はやめとけ。碌な奴じゃねぇぞ」

「誰かと思えば、久しぶりね…見違えたわ」

「お前のせいだろうが」

「せめて、おかげさまで、くらいは言えないものかしらね…」

 ―シガレットとスノウの会話より

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 スノウの悪趣味に付き合う必要はない、とシガレットは主張するが、同じくメンバーのひとり、フィール=ニルヴァレンはそうもいかない事情があった。


 その教主が僭称している神の名は、サカロスと言う。このアルフレイム大陸では信仰の文化がないが、遠くテラスティア大陸の小神として存在する、酒を媒介とした交流と相互理解を司る神だ。


 フィールは数十年前にテラスティア大陸から遠き海を渡ってきた移住者で、故郷ではサカロスを信仰していた。移住時に改宗したため表向きは月の女神シーンの神官であったが、心の奥底にはまだサカロスへの帰依が残っていた。


 依頼は一度保留し、その宗教コミュニティがどのようなものか調べるため潜入することにした”星月巡り”一行。


 そこで見たものは”教主”が自分の欲望を満たすためにマインドコントロールされた信者たちを搾取、食い物にする異様な集団で、信者たちを繋ぎとめるための奇跡や教義も、本来のサカロスの教えとはほど遠い、歪んだものであった。


 激怒したフィールに引っ張られる形でスノウの依頼を受けることにした一行。


 バル=カソスやシガレットが魔動機術を活かして様々な手で陽動を引き受ける隙に、スノウが教主を拉致する手筈を整え、作戦は無事に成功する。


“教主”ランディは弁舌にも頭脳にも覚えがある悪人であったが、大陸でもトップの冒険者とされるスノウに対抗することは出来ず捕縛され、拷問スレスレの尋問と逆洗脳により、自らの嘘を認めさせ、世間にその懺悔を公開させた。


 これによって歪んだ宗教団体の解体に成功するかのように見えたが、教団は暴走し信者同士の殺し合いと大火災が発生する。


 教主の言うことが全て出鱈目であったと現実を受け入れられない元信者たちの不安と動揺に漬け込んで争いを煽動する工作員がいたようだ。


 スノウは教団の崩壊に干渉する意思を見せず、飛空艇でこの地を去る。


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「滑稽ね…あなた達もまた、救われるべき人だけが救われなければならないと思ってる?」

「そんなものは、神々の我儘の中だけで許される、報われない祈りよ」

 ―”金瞳の魔女”スノウ=フェリア

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 仕方なく、”星月巡り”一行は自分達のみで現場に急行する。既に多くの死傷者が出ていたが、生き残った元信者たちに聞くところによると、教主の離脱以降、煽動によって対立を煽った身元不明のエルフの男性が存在したらしい。


 エルフの正体は、かつてフィール達がこの大陸に移住して早々に魔神の襲撃によって生き別れになっていた元・婚約者のシモン=ヴァレリーであった。彼は操霊魔法に通じており、殺し合いによって恨みを残して死んだ信者たちの亡骸を利用して、強力なアンデッドを作り上げようとしていた。


“星月巡り”一行はその死者を弄ぶ非道な儀式を止めるため、シモンのアジトを襲撃し、対決する。


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「フィール…フィールなのか?」

「てっきりテラスティアに帰ったものだと思っていたんだがな…」

「フン、この大陸から去って久しい神々に、まだ何かを期待しているのか?」

 ―“魔界剣士”シモン=ヴァレリー

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 ===ボス戦闘===

 “魔界剣士”シモン=ヴァレリー

 ボーンナイト

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 シモンは強力な魔法剣士であったが、バル=カソスに数発のボディブローを浴びるなど劣勢となり、一行に《ショッキングウェイブ》の魔法で時間を稼いだ隙に撤退する。どうやら彼は”魔王”と呼ばれる者と通じているらしい。フィールはシモンに、故郷の神の教えに何故背くのかと問うが、


「お前たち神官が嘯く神の奇跡とやらは、ただの魔術記号であって神の力の残滓などではない。それを判ろうともしない無知な奴らめ!」


 と言い残し、去っていった。


 ボーンナイトを倒し、シモンの目論みこそ阻止したが、生き残った教団の元信者たちの心の傷はあまりにも深かった。教主に見捨てられ、煽動に煽られ殺し合いをしていた彼らのほとんどは、少しだけ自立の意思が弱く、少しだけ自分の生き方を他者に預けてしまった、ただの善良な人々であったのだから。


 フィールは彼らに正しきサカロスの教えを示し、多くの人々の傷を癒すため、この地に残り新たな神殿を建立することを決意した。信仰の文化がない中、一から始めることは多くの困難があるであろうが、彼女の意思は固い。


 地方横断鉄道が復旧し、迎えの列車が来た。”星月巡り”一行はフィールと別れ、魔道列車に乗り込む。目的地は、キングスレイ鉄鋼共和国。


 次回へ続く。


【今回の登場人物】

 セッション参加キャラクター

 フィール=ニルヴァレン(プリースト6)※PLの事情で、今回を最後に離脱。

 エノテラ=テトラプテラ(バード6)

 バル=カソス(グラップラー6)

 ドラコ=マーティン(コンジャラー6)

 シガレット=カルカンスキー(マギテック6)



“金瞳の魔女”スノウ=フェリア 

 種族:ナイトメア 性別:女性 年齢:不詳


 長い黒髪と長身、魂が穢れた人族の末路と言われ忌避されるレブナントと同じ金色の瞳を持つ、美しきナイトメアの魔動機師。

 近年最大級の魔動機文明時代の遺跡、“埋もれた都市”サステイルの発見と発掘に関わり、その遺物を提供することでドーデン地方の鉄道網普及を加速させた功績を持つ。

 一方で、街中でもナイトメアの異貌を隠そうとしないこと、レブナントと同じ金色の瞳を持つこと、周囲に容赦しない言動などから敵も多く、無数の悪い噂がある。

 偽りの奇跡と教義で私欲を貪る”教主”に私的制裁を与えるためにゴケルブルク大公国を訪れ、陽動を”星月巡り”に依頼した。首尾よく”教主”ランディを捕らえ教団の解体に成功するが、その結果発生した争いに関しては、自分の意思を他人に委ねた者の末路として取り合おうとせず、自らの飛空艇でこの地を去る。

 サステイル発掘の功績により飛空艇”リ・クロス”号を所有する。彼女はこの大陸で唯一の「個人で飛空艇を所有する者」だと言われている。


 なお、”星月巡り”の1人シガレット=カルカンスキーは彼女と因縁がある。

 近年最大級の魔動機文明遺跡となった”埋もれた都市”サステイル発掘の折、スノウは自分の利益を最大化し各国を手玉に取った結果、利権の調整が付かず戦争の引き金となった可能性が指摘されている。

 シガレットは某国の密偵としてサステイル利権の獲得に関わっていたが、スノウが暗躍した結果戦争を止めることが出来ず、さらに戦争に巻き込まれ恋人と生き別れ、病気と怪我で自身は生死の境を彷徨った。スノウが提供した薬で一命を取り留めたが、副作用として獣化が進行して今の姿となる。

 シガレットにとって彼女は命の恩人ではあるが、複雑な感情を抱く因縁の相手でもある。


“教主”ランディ=サカロス ※再登場の予定なし

 種族:人間 性別:男性 年齢:42歳


 ゴケルブルク大公国でサカロスの教えを広める”教主”を僭称し、自らの肉体と精神を満足させるための歪なコミュニティを形作っていた悪党。肥満体ながら妙な色気があり、演説も上手く、頭が良い。数十名のコミュニティをもって自分に奉仕させるだけの才覚はあった。他の神殿も、一応は別大陸で信仰のある神の名を出されているため手を出せてこなかったが、そのようなしがらみがなく、はるかに強い”金瞳の魔女”スノウ=フェリアに目を付けられ、拉致されてこれまでの嘘を強制的に白状させられる。インチキの奇跡も全て明らかにされ、求心力を急激に失った教団は解体となった。


“魔界剣士”シモン=ヴァレリー

 種族:エルフ 性別:男性 年齢:100歳前後


 妖精魔法と操霊魔法を操るエルフの魔法剣士。遠き異国、テラスティア大陸からの移住者であり、同じく移住者であったフィール=ニルヴァレンとは許嫁の間柄であったが、約60年前に移住地が魔神に襲われ生き別れとなっていた。

 この大陸では信仰されていないサカロス神の名を騙る”教主”ランディの私欲のための教団に入り込み、教主が離脱したタイミングで信者同士の争いを煽動して多くの死傷者を出す原因を作った。怨みを残して死んだ人間が多くおり、その死体を利用して強力なアンデッドを作成していたが、フィールたちの介入によってその目論みは半ばで撤退を余儀なくされる。

 なおアンデッドと協力し非道な行いをしていたものの正気を失った風でもなく、フィールと戦うことは躊躇していた。”魔王”と呼ばれる者への報告のため戦闘を離脱し逃亡する。



【次回予告】


 ここはアルフレイム大陸の技術の中心、キングスレイ鉄鋼共和国。


 豊かな国土と崇高な理想の影にあるのは、昏い争いの歴史と人の業が渦巻く伏魔殿。


 その光と闇を背負う13人の鉄道卿レイルロードがひとり、"マナタイトの魔女"の導きにより、“忘れられた都市”タージを目指して新たな探索への道が拓かれる。


 自らの存在意義を求めんとする幼き英雄の末裔を伴い、11ある”聖戦士の武具”を求める旅。


 その先にあるものは輝かしい栄光か、空虚な虚構の偶像か。


 世界は子を成し世代を紡ぐ女によって造られ、剣を取り荒野を斬る男によって進むという。


 ならば剣を取った女の行く末はいずこかや…


 ソード・ワールドRPG第二部第2話「女の形をした刃」


 冒険者たちよ、剣の加護は汝と共に。


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