異世界転生することになったけどギルドに入って冒険とか無理そうだし戦いたくないし……なので何でも屋やります

荒井祐太

プロローグ1

「イイーーーーーヒッヒッヒ、転生女神の空間へようこそじゃ、里中弘樹さとなかひろきよ」


 『トラックに轢かれた! 17年間の人生終わった!』なんて思ったのも束の間、気が付いたらどこまでも真っ暗な空間のなかに僕はいた。

 高校の帰り道だった。決して赤信号を無視したわけでもない。ちゃんと信号待ちをしていた。

 死の直前というのは感覚が鋭く冴えわたるらしい。

 突っ込んできたトラックの運転手がうつらうつらと居眠りをしていることまではっきりと見て取れた。

 しかし体は悲劇を回避することができず。僕の人生は何の前触れもなく、唐突に終わってしまった。


 目の前にはお婆さんがいる。この真っ暗な空間で僕とお婆さんのふたりの周りだけぼんやりと光っていた。


「イイーーーーーヒッヒッヒ、転生女神の空間へようこそじゃ、里中弘樹よ」


 お婆さんがもう一回同じ言葉を繰り返した。

 なんだ……? 僕が無反応だったからか?


 そして、転生……女神……?

 お婆さんなのに……?


「イイーーーーーヒッヒッヒ、転生女神の空か――」


「あ、だいじょうぶです、さっき聞きました」


 3度目となる同じセリフを途中でさえぎる。さすがにもうわかってる。


「ならばさっさと返事をせんかい」


 そんなこと言われても……ふつうはこんな真っ暗な謎の空間にいきなり身を置くことになったらリアクションに困って当然だ。


「ま、この転生女神の空間に来たものは、だいたいみんなオマエさんと同じ反応をするがのう。トラックに轢かれたり、勤めている企業がブラック過ぎて倒れたり。死を悟った直後にここで目覚めるから状況の理解がおっつかないもんじゃ」


 …………。

 これはつまり、そういうことだろうか……。


「つまり、僕はさっきのトラックに轢かれてやっぱり死んじゃって……ここが異世界転生前のチートスキルとか聖剣とか授かったりする諸々の手続きの謎空間ってことでしょうか?」


「さすが昨今の若者。異世界もののリテラシーが高いのぅ。その通りじゃアニメやネット小説、コミカライズ作品でおなじみのアレじゃよ。そしてお婆さんじゃなくって女神じゃ」


 やっぱりそうなのか。まさか異世界が実在するなんて思ってもみなかったが……。だったら多少は予習ができていて話が早い。


「にしてもオマエさん、運が良いのう。転生ナンバーのトラックに轢いてもらえて。しかも中途半端に轢かれるのでなく完膚なきまで轢き殺してもらえて。おかげでこの女神の元にこれたのじゃぞ」


 トラックに轢かれて死んじゃうのは運が良いのか? そのまま轢かれずに済むほうが幸運な気がするが。

 とはいえ、さすがに高校2年生で人生を終えるのは嫌だったので、異世界があってくれてラッキーっちゃラッキーだが。

 そもそも転生ナンバーってなんだ? 転生できるトラックはナンバーで決まってるのか?


「それでお婆さん。僕はどんな感じのスキルとかアイテムとかもらえるんですかね。あと行先とか」


「ふぇっふぇっふぇ、それを今から決めるんじゃよ。そしてお婆さんじゃなくって女神じゃ」


 さっきから女神女神としつこく訂正してくる。


「いや、そう言われても……やっぱり女神というと、だいたいヒロイン級に可愛かったり美しかったりするものじゃないでしょうか。アニメでもだいたい20代の声優さんが声をあててる気がしますし」


「うるさいっ! いいかの、女神もいっぱいいるんじゃ。ロリっぽい女神や老婆の女神。若くて美しい女神に老婆の女神。未亡人だけど肉体を持て余した女神に、ヒゲの生えた老婆の女神。ま、当営業所もアニメヒロインになれるレベルで可愛い女神もいるにはいるが、今は別空間でおっさんの転生手続き中なんじゃ」


 なんだって!? どうせなら僕もその可愛い女神にお願いしたかったぞ!


「そんな羨ましそうな顔をするでない! その女神のコはおっさん転生者専任なんじゃ。おっさんの薄くなった頭頂部をあまり見つめないタイプの良いコじゃからな。ワシはだめじゃ。おっさんの頭部を見ると7割の確率で爆笑してしまう! ぶぇっふぇっふぇっふぇ!」


 『爆笑してしまう!』とか言いながらすでに手を叩きながら笑ってる! 誰かの薄くなった頭頂部でも思い出してるのか!?


「ま、どんな女神が担当してもやることは基本的に一緒じゃよ。さて、オマエさんの転生可能な異世界は、と……」


 お婆さんが手元でタブレット端末を操作する。

 あれの中に僕の行き先の情報でもあるんだろうか。っていうかタブレット使ってるのか……。


「ふむ……いくつか候補があるがのぅ。……これなんかどうじゃ?」


 そう言って僕にタブレットの画面を見せてくれる老婆。

 のぞき込む僕。

 画面には異世界の簡単な説明が表示されていた。


世界名:スフィーリア

異世界の種類:中世ヨーロッパ風

魔王の有無:有

住んでいる種族:人族・亜人族・魔族・魔物・竜族・精霊族

備考:ワイヴァーンがとんでもなく強い。ワイヴァーンの影が視界に入ったと思った次の瞬間には死んでいる。


「ワイヴァーンやば過ぎだろ! 見つかったら命が確実に失われるじゃないか!」


 これはさすがに勘弁してほしい。せっかく拾った命なんだから死にやすい世界には行きたくはない。

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