第15話 外堀


『僕、今年の魔法学園卒業試験の試験官に選出されました~。どうぞよろしくお願いしますね。今年は豊作の予感がしていて今からとても楽しみです。エマさんは相変わらず勉強熱心でいらっしゃるご様子。僕も負けていられませんね。お互い、良い研究ライフを』


『あ、最後になりましたが、お誕生日おめでとうございます。僕、人が集まるところは苦手なので……今度二人きりでお祝いさせてほしいですね。どうでしょうか。良い返事をお待ちしています』


 フェリクスの声を発するは「それでは~」と文字通りヒラヒラと手(?)を振った後、綺麗に折り畳まって元の手紙の形へと戻っていった。


 風に乗ってエマの手に舞い降りる手紙。

 差出人は言わずもがな、先程雄弁に語り、最後にはデートの誘いまで入れてきたフェリクス・サースティンである。


「「…………」」



「ちゃんと渡したからね」

「………はい」


 色々とツッコミどころはあるが、最重要事項はどう考えても卒業試験についてだ。

 エマが適当にやって、適当に落ちようと思っているアレだ。


 現在学力テストをザ平均点数で並べているエマは、ユーリにそれはもうチクチクチクチクと棘を刺されている。

 最初は「体調が悪かったの?」と心配してくれたりしたのだが、段々と「真面目にやってる?」「ねぇ、何やってんの?」などとお怒りモードに入り、今では、


『何を企んでるのか知らないけど、精々足掻けば』


 と、全力で取り組まないエマに軽蔑の眼差しさえ向け、そう言い放った。

 かなり、怒らせてしまっている。


 しかし婚約破棄はまだ成されていないし、お茶会も変わらず行われる。

 エマにとっては心底謎でしかなかった。


 ユーリもそうだが、フェリクスもなかなかに厄介だった。

 如何せん彼との交流は非常に勉強になる為、未だ時折温室で会って話すことがある。

 質問をすればわかりやすく解説してくれるし、逆にフェリクスの研究話の聞き手になることもある。


 そうしているうちに「エマさんがワーズに来るのが楽しみです」なんて言われることが多くなり、その度に否定を入れるがイマイチ届いている感触がない。


 ┄┄まぁ、流石に無理やりコネ入所、なんてことになったりはしないはず。


 …しないよね……? と一抹の不安を抱えているエマである。


 余りにも周りがグイグイとワーズ行き当たり前といった様子で扱ってくるせいで、世界観を守るための抑制力的なものが働いているのでは、と勘繰っているのだ。


 そうなると、もはや太刀打ちはできない。


「ぐぬぬ~~~~~」

「あーあ、アンタらのせいで、またこの人よくわかんないモードに入っちゃったじゃないですか」

「フェリクスのせいでしょ。オレは関係ないよ~」


 アルは笑いながらエマの頬をブスブスと指で突いている。

 もはやそんなことは気にしている余裕もなく、エマは半年後に控えた『卒業試験』に怯えているのだった。

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