第28話 始まりの物語の始まり

 そして、その当日の夜、神栖の部屋にあみと神栖の二人が、テレビの前でそのアニメの一挙放送を今か今かと待っていた。


「お兄ちゃん、久しぶりだね、このアニメ。いつぶり?」


「そうだな……あの小説と初めて出会ったのが、中三の頃だから……六年前か」


「へ~、もうそんなに経つんだね~」


「そうだな~まさに光陰矢のごとしだな。あみは出会ってどのくらいだ?」


「うーんっと、お兄ちゃんの影響でアニメから知ったから、三年前だね」


「お互い結構経つな」


「そうだね」


 あみと神栖は目を細める。どうやら昔の記憶を振り返っているようだった。

長年応援してきた作品の最終章だ。これを見逃したら、なにより自分自身が後悔するに決まっている。なんとしても見なくてはいけない。


 それだけ神栖はこの作品にのめりこんでいた。


 神栖が一番最初に買ったライトノベルだ。そして、初めてその物語の結末を見届ける作品でもある。この作品に思い入れをしないほうがおかしい。


 カチッカチッと時計の秒針が徐々に出会っては離れ離れになり、秒針が六十秒数えるまで一人旅をしては十二の数字の元へと帰っていく。そして、また旅に出るのだ。


 その旅が三回繰り返されたときにそれは起こった。


「お兄ちゃん!」


「ああ」


「……ついに始まったね」


「そうだな」

テレビの画面がカラフルな色で覆いつくされた。中では様々なキャラクターが各々、その個性を活かした行動を取っていた。“ひとみ”で追ってしまう二人。


 そこに目が向いて視覚を刺激されたかと思えば、今度刺激されたのは聴覚だった。

 きれいな女の人の喉から発せられる楽器を用いた音色が部屋中に響く。その綺麗な音色に翻弄されること、旅一回半。

 





――物語が始まった。

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