第25話 代替わり祭 2

「十倍くらいに拡張されたぜ?」


 広場を見もせず、こともなげに言ったミシェルの、その言葉に、俺は呆れて絶句する。

 俺にはとうてい不可能な魔法である。

 いや、できないわけではないが、たぶん十倍じゃ収まりきらずに、魔王城まで呑み込まれるくらいはありえる。


「ホントは二倍くらいにするつもりだったんだけど」


 二倍と十倍じゃ大違いだ。

 誰だ? その俺並みに魔法が下手な魔人と、そんなやつに大規模な魔法を使わせた野郎は。

 魔王城前の広場なんだから一応騎士が監視しているはずなんだが。


 というか――

「よくそんな見てきたみたいにわかるな?」

「だってやったのアタイだもん」

「お前かよ!」


 四将軍がやるのでは、監視の騎士だって止められないはずだ。

 それに、たしかにミシェルも、魔法は大味だった。

 

「余計なことをやりやがって」

「いいだろ、ソーンを見たいって人は多いんだから」

「え? マジで? もしかして俺意外と人気ある?」

「ああ、アタイたちもたっぷり喧伝してきたぜ」


 まあたしかに、人気がなければ十万も集まるはずがない。

 少しやる気が出てきた。

 俺の評判を上げてくれるとは、なんだかんだ言っていい配下たちである。


「お前ら本当はいい奴らだったんだな……」


 忠誠ゼロかつ迷惑しかかけないと思っていた自分が恥ずかしい。


「お、おう、別に大したことはしてないぜ」

 ミシェルは照れた様子で大きく手を振り、歩き去って行った。


「十万ですか……。ミスしないといいですね」


 ミシェルの背中を見送っていた俺は、ジュディの言葉にはっと気づいた。

 好印象を持たれているなら、それを崩したくないというのは当然の思い。

 ……やばい、俺そんなに準備してきてないぞ?


「ありのままのあなたでいいんじゃないですか?」


 ミシェルに続いてジュディまでもが優しい言葉をかけてくれる。

 とうとう公的にも魔王になるから、気遣っておこうとでも思ったのか?

 しかし、ジュディの言葉はまだ続いた。


「変人がいくら格好つけても気持ち悪いだけですから」


 ……………………。


「他人事みたいに言ってるが、お前だってあの観衆の前に立つんだぞ?」

「え? 本当ですか?」


 当然わかっているものと思っていたが、言ってみるとジュディは意外と強い狼狽を見せた。

 

「召喚の儀で喚び出した相棒なんだから当然だろ? 公的な場ではだいたい一緒だぜ」

「え、え、私知りませんでしたよ?」


 慌てふためいているところなんかは可愛らしいんだけどな……。

 その口の悪さだけが問題だ。


「あなたは顔と性格と頭の悪さを真逆にすれば、問題なのは性癖だけですね」

「全部ダメと言いたいのか?」

「いえ、髪型だけ問題ないですよ」

「一番どうにでもなるとこだな!」


 ちなみに俺の髪型はいたって普通である。


「その普通が尊いんですよ」

「つまりその他は全部平均以下だと言いたいんだな?」

「よくわかりましたね!?」

 

 なぜそこでそうまで驚く。

 ジュディが俺のことをなんだと思っているのか実に疑問である。


「無能の変態とかですかね」

「そこまで言われる筋合いはない!」

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