第14話 どうしてこうなった 2

  カチャリ


 訓練室の扉が開いた。

「魔王様、魔王の冠がn……」

 そこから顔をのぞかせたのは、ラファエル。


 顔を上げた俺と数秒見つめ合い、

 魔界随一の切れ者であり”魔王モード”でなければ誰よりも気が利くその男は――

「失礼しました」

 静かに扉を閉めた。


「待て待て待て待て!」


 とんでもない誤解を受けている気がした俺は床から跳ね起き、扉から飛び出した。

 「待て」を命令と捉えたのか、立ち去りかけていたラファエルは立ち止まり、こちらを向いた。


「訓練室に一人で魔王様がいらっしゃるというのはそういうことですよね。気が利かず、誠に申し訳ありませんでした」

「違う、あれは事故だ!」

「了解しました。あれは事故でございますね?」


 分かってくれたか。

 流石は切れ者ラファエル。

 俺が落ち着きを取り戻したとき。


「私はそう認識しておきますので、お気になさらず続きをどうぞ」

 全く分かっていなかった。


「だから違うんだ!」

 

 俺が心から叫んだとき、床の石畳が持ち上がった。

 そこから顔をのぞかせたのは、ミシェル。


「ソーン、そんなに慌ててどうしたんだい」

「なんでそこから出てくるんだよ!?」


 いま問題なのはそこじゃないと分かっていつつも、思わずツッコんでしまう。

 いや、魔王城の最上階に、門以外に入るルートがあるというのは、それはそれで問題であるのだが。


「登場のバリエーションがあったほうがソーンも喜ぶかと思って」

「お前の中で俺はどういう性格をしているんだ?」

「さあ?」


 軽く首を傾げるミシェル。

 やはり話が通じない。

 まあ、彼女の登場方法なんてどうでもいいんだ。

 それより、この状況をどう凌ぐか。


 そう考えて、俺ははたと気づいた。

 人間の少女を召喚の儀で召喚して、その上そのまま相棒にしました?

 人間を相棒に人間を滅ぼす魔王がどこにいるんだ?


 さっき抱いた不安の正体は、これだったらしい。

 いやぁ、召喚の儀失敗と人間の少女が相棒、どっちがいいんだろうなぁ。

 どっちにしても俺の、底を打っていたと思われた評判は更に大暴落である。

 

 しかし、すでに少女と約束したのだ。

 説明するしかあるまい。

 

 それと同時に大切なのが、ラファエルの誤解を解くこと。

 このままにしておくと、いやに気の利く彼のことだから、幼い娘との縁談しか持ってこなくなる。

 俺はグラマラスおねいさんがいいんだ。


 何から説明するべきか俺は迷う。

 と、そのとき訓練室から少女が出てきた。


「跳ね起きれるなら最初っからそうしてくださいよ。早速条件を破るつもりかと思っちゃったじゃないですか。と、まだ出てこないほうが良かったみたいですかね」


 それだけ言って、彼女は訓練室の中に消えていった。


 魔王城に突如現れた人間の少女。

 当然、残された二人の視線は俺に集まる。

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