第7話 地下書庫にたどり着かない 6

「あら、次代魔王様。珍しいですね」

 

 目の前に魔力反応。 

 俺の目の前に立っていたのは、茶髪を後ろで束ねたきれいなおねいさんだった。


「ここどこ?」

「あら、分からずにいらっしゃったので? 地下書庫ですよ」

「やっとか……」


 俺は万感の思いを込めて呟いた。

 魔王城にやってくる勇者の気持ちが分かった気がした。


 しかし、少し視線を下ろして俺のそんな考えは綺麗に吹き飛んだ。


             デ カ い


 地下書庫にもっと来ていればよかったと思った瞬間である。

 人生で一番後悔した瞬間でもあった。


 ただ、ここに来るまでの苦労が報われた気もした。

 それほど彼女は俺の好みどストレートだった。

 だが、俺は女性に好感を伝える経験に慣れていない。

 とりあえず変な目で見られないように、俺は普通の会話から入っていった。


「ここ来るの大変だったんですけど、あの悪質な階段作ったの誰だろう?」


 もしそいつが生きていたら、一生分の罵倒を浴びせてやろう。


「あら魔王様、階段からいらっしゃったのですか。あの階段は私の作品ですが、どうですか? 自信作なんです」

「素晴らしい。ぜひこれからも頑張るように」


 言えないよ。


「次代魔王様、顔が少しお疲れのようですね?」

「ああ、色々あってな」

 

 人間領に行って勇者候補を助けてきたといえば、心配してもらえるだろうか。

 ……頭の方を心配されそうだからやめておこう。


「今日は、戴冠の儀の魔法書を取りに来たんだ。あと、召喚の儀も。とうとう親父が死んだから」

「そうなのですか。では、今は魔王様ですね」


 彼女は微笑んで手を揺らす。

 次の瞬間には、掌の上に二冊の魔法書が出現していた。

 

「こちらがお望みの魔法書になります」

「ありがとう」


 本当ならもう少し喋っていたいところだが、今日は疲れた上に、これからやらなきゃいけないことがある。


 俺は名残惜しさを振り払って、階段につながる扉に歩いた。


「また来るよ」

「ええ、お待ちしています。ところで、そちらの往復魔法陣をお使いになれば一瞬ですよ」


「………………え?」


 俺のすべての苦労が無駄になった瞬間であった。

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