第5話 地下書庫にたどり着かない 4

「そらいくぞ!」


 盗賊たちが、二手に分かれて飛びかかってきた。

 俺の方に来たのは十人くらい。

 

 動きがのろい。

 魔力で強化された俺の目には、止まって見える。

 

「我の味方になれば世界の半分をやろう!」


 何も言わないのも寂しい気がしたので、俺は魔王らしいセリフを適当にチョイスしてから、勢いよく剣を投げた。

 縦一直線に。

 衝撃波を纏って飛翔した両手剣は、後ろで見ていた親玉も含めて盗賊二十人のうち11人を消し飛ばした。


 きじんの方に向かっていて命拾いした盗賊たちは、それを見て目を丸くし、一秒後背を翻して一目散に逃げていった。

 それを追うはずのきじんもまた、こちらを見て目を剥いていた。


「あんた、それ……」

「何?」

「剣壊れてないでしょうね!?」


 俺の実力に驚いたわけではなかったらしい。

 そんな大事な剣なのだろうか。

 たしかに握り心地はよく、魔力伝導もよかったが、大事ならよく知らない人間に渡すなよ、と思わなくもない。


「ああ、無事だった。本当によかった」

 きじんは、転がっていた剣を大切そうにさすりながら戻ってきた。


「それ、そんな大事な剣なのか?」

「当然じゃない! 本来なら、あなたなんて触れることもできなかったはずの剣。聞いて驚きなさい、これは

              聖剣エクスカリバーよ!」


 え? 俺魔王なのに聖剣に触っちゃったよ。

 物理的に触れることができないものだと思っていた。


「お前、勇者なの?」


 聖剣を持っているのは勇者、昔からそう相場は決まっている。

 俺が生まれてからは見たことがないが、時代勇者というのも生まれていたのか。

 返答次第ではこの場で将来の禍根の芽を摘んでおくつもりだったが、きじんは悔しげに首を振った。


「いいえ、まだ勇者候補なだけ。しかも、私じゃなくて彼がよ」

 彼、という単語が指し示すのはこの場に一人しかいない。


「勇者が戦いの最中にうずくまって震えてんの?」

 わざわざ芽を摘んでおく必要もなさそうだ。


「彼は人見知りなのよ。悪い?」

 悪いだろ、と反射的に返しかけて、俺は思いとどまる。


 勇者が役に立たないのは、魔王にとっては歓迎すべき事態である。


「いやもう、まったく悪くないよ!」

「そうでしょ。別に人見知りするのは自由だと思うのに、あの王様たち、ホントに話が分かないんだから」

「そりゃ良くないな。むしろ、人見知りを伸ばしてもいいくらいだろ」

「え? そこまでは思わないけど……。そういえばあなた、こんなところで何してたの?」


 雲行きが怪しくなってきたので、俺は逃亡を決めた。

「あばよ!」

 

 俺は背を翻し、盗賊たちを追うように逃げ出した。

 台詞のチョイスはなんとなくだ。

 

「ちょっと、待ちなさいよ!」


 叫びを無視して逃げる。

 そろそろいいか、というところで俺は足を止めた。


転移トランス!」

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