第39話 ゲスーイ伯爵のお仕事2


 ◇side マジス・ゲスーイ伯爵



「あ、あの! 少しで良いので食料を返してください!」

「このままじゃ死んでしまいます! どうかお慈悲をっ!!」



 村を出ようとする俺たちの前に数名の村人が跪く。それを見て俺たちは唖然とする。何を言ってるんだ、こいつは?



「残したじゃないか、なぁ、団長?」


「ええ、種には手をつけていませんぞ」



 今回の目的は略奪であって戦争ではない訳だから、さすがに種籾までは奪わない。

 種まで奪ったら来年略奪できないしな。

 俺と騎士団長の言葉に村人は顔を引きつらせる。



「いや、種だけ残されても……」

「これだけじゃ無理ですって!」



 まったく鬱陶しい奴らだ。

 こいつら顔つきからして教養の無さが滲み出ているぞ。

 うちの可愛い領民とは全く違う。

 なにせ俺の領地では数年前から学校制度を取り入れているからな!

 まだ読み書き計算などの簡単な学舎しか建てれていないが、そのおかげで若い領民の識字率はかなり高い。

 まだ存命だった親父を騙して作った甲斐はある。

 なにせ教養が人を人間にするのだからな。

 仕方がない。この俺が学のないこいつらにことわざを一つ教えてやるとするか。



「お前にいい言葉を教えよう。《無理というのは噓つきの言葉》なのだ。死ぬ気で努力すればたぶんどうにかなるさ。木の皮とか虫、雑草でも食べていけばいいんじゃないか? また来年に来るから食料を用意しておけよ?」


「ええっ!! 来年も来るんですか!?」

「嘘だろ……」

「あ、悪魔だ……」



 俺の優しく含蓄ある言葉の返答がそれか? 失礼な奴だ!

 思わず代表らしき男に蹴りを放つと、建物に叩きつけられたその男はピクリともしなくなる。



「そ、村長ぉぉっ!!?」

「嫌あぁぁっ! お、お父さぁぁーん!!」

「そんな……息してないぞ!?」



 どうやらあの男は村長だったらしい。泣きながら村民達が村長の元へと駆け寄る。う~む、少し力を入れすぎたか? まぁ、いいか。俺の領民ではないからな。



「よーし! 全員次の村へと移動するぞ!」



 俺の号令で配下たちは馬に鞭を入れ、荷車を動かす。根こそぎ奪った家畜たちを引きつれ、先導する兵が案内する次の村へと先を急ぐ。

 まったく忌々しい!

 あの鬼人族の領地を襲えればこんな山賊のようなことはせずに済んだというのに。

 聞けば奴らはバカボン侯爵と友好的に取引したと聞く。

 おまけにあの最強の傭兵集団『シマヅ』とも仲が良いらしい。

 戦になればきっとシマヅが手助けしてくるはず。

 まったく面倒なことだ。襲いにくいじゃないか!

 侵略するにしてもシマヅがどこかと戦をしているときにやるしかないだろう。



 あの領地は海に面しているし、温泉だって湧いている。

 港や温泉街を作れば商人や湯治客だって来るはず。

 おまけに密偵の話によると金やミスリルの鉱脈だってあるとのことだ。

 なんでも妙な連中が鬼人族の領地で勝手に採掘し、それをうちの領地で売っているらしい。黒髪黒目の平たい顔つきの中年達らしいが、そんな民族がいただろうか?

 幸い連中はミスリル鉱石の価値に気づいていないらしく、捨て値で買うことに成功したとか。



 一刻も早く連中を捕縛し、鉱脈の場所を吐かせたいところだが、生意気にも警戒してるらしい。まあいい、あの領地に素晴らしい魅力があるのは再確認できたことだ。

 警戒網を広く伸ばして平たい顔の中年どもが引っ掛かるのを待つとしよう。

 もう少しだ、もう少し軍備が整えば鬼人族の領地を奪える。

 何事もなければ早くて年末、遅くても来年末には攻め込めるはず。

 待ってろよ、鬼人族ども!

 貴様らの全てを俺が蹂躙してくれる!!


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る