ミッション7 賭博の元締めをとっちめろ!

第26話 バカボン辺境伯


 商業都市ミリオン。

 シュリ達の領地に面しているもう一つの領主、バカボン辺境伯の治める土地だ。

 シュリの話によるとこの辺りで最も栄えている大都市らしい。

 町の中央には遠目からも見える城のようなお屋敷が存在し、周囲には碁盤の目のように整備された規則正しい町並みが広がっている。

 とても美しい街並みだ。

 もっとも感心しているのは俺だけのようだが……。



 俺は傍らのクラスメイトへ視線を向けた。

 うちのクラスメイトは花より団子を求めるせいか、屋台で買った焼き鳥を頬張るか、昔のヤンキーのようなウンチングスタイルでタバコをふかしている。

 中には空を飛ぶ鳥をお手製ボウガンで打ち落として、料理を始める奴もいた。

 実にワイルドだ。

 それを見たシュリ達が少し恥ずかしそうな顔をして、そっと距離を取ったのを俺は見逃さない。



 まずいな。

 みんながいい奴だということは俺が一番理解しているが、こんなんじゃシュリ達との恋愛フラグが折れてしまうかもしれない。

 ここはこの天才がカッコ良い所を見せるしかないな!

 俺は爽やかな笑顔を浮かべてシュリへと向き合う。



「なぁシュリ、ここなら軍船を売ってもらえるのか?」


「ええ、シューヤ様。ここの領主は度を越えたお人好し……いえ優しい方なので売ってくれるはずです。さすがに最新式の軍船は売ってもらえないでしょうが、型落ちならばきっと」



 今回の俺たちの目的は船を手に入れることだ。

 俺たちの巨大サメ狩りであの海はだいぶ安全になった。

 浦島の話によると、サメは死んだときにある物質を出すらしく、それは「ここでサメが死んだぞ!」と仲間に危険を知らせるモノらしい。

 大量にサメ狩りを行ったせいか近隣の海に住むサメは、ここに近づいたら死ぬと思ったのか、サメが一切近寄らなくなった。



 これに喜んだのがシュリだ。

 なんでもあの海はカリス海といい、海上貿易が盛んに行われているらしい。

 ここに港を作り、海上貿易に食い込めれば領地が栄えるのは間違いないとのこと。

 しかしそれには大きな問題があった。



 まず船がない。

 そして港町を作って運営するためのノウハウがないのだ。

 さすがのこの天才も港町を作るのは難しい。

 ゲリラの拠点となっていた港町を攻め滅ぼしたことなら数えきれないほどあるが。

 船がないなら俺たちのお手製のイカダを使うのはどうかと薦めてみたが、シュリ達に却下されてしまった。

 なんでも積み荷を狙う海賊が多いらしく、シュリは商船だけでなく軍船も欲しいらしい。



 獅子堂学園では武装した海賊団を捕獲する宿題があったし、俺も海賊狩りは得意だ。イカダでも海賊団なんて蹴散らせる言ったが、聞いてもらえなかった。

 シュリ曰く、「そんなの賢者様達しか出来ません!」とのことだ。

 あんなの誰でもできると思うのだが……。



「それにしてもすごい活気だな」


「ええ、この辺りで一番発展していますからね」



 シュリの言葉に俺は辺りを見回す。

 大きめな通りには客引きが声を張り上げ、肉が焼ける旨そうな匂いが漂っている。

 なかなかに食欲をそそる匂いだ。

 よし、アレは後で何本か買っていこう。

 ふと視線を横に向けると、路地裏にも露店がところ狭しに並んでいた。

 衛兵がちゃんと見回っており、治安もそんなに悪くなさそうだ。

 鬼人族の領地と違ってかなり発展していて、活気があって人の往来も多い。

 どうやら統治はちゃんとしているらしいな。

 まぁ、だからといって犯罪者がいないわけではないが。



「発展しているからこそ裏社会の連中もここに集まるんだ。シュリ、もう財布はスられないようにな」


「……す、すみません」



 意気消沈した様子でシュリが頭を下げる。

 彼女はこの町に来てすぐ、財布をスられたのだ。

 もちろん俺たちがすぐに取り返したが。

 組織犯罪だったので、皆でアジトを見つけ出して叩き潰してみた。

 こういうのは最初が肝心なのだ。

 盗賊ギルドだかなんだか知らないが、全員関節を外して衛兵の詰め所に転がしておいたし、大丈夫だろう。



 アジトにはたくさんの白い粉が保管されていたのだが、全て燃やしておいた。

 おそらく麻薬の類いだろう。

 これで盗賊ギルドの資金源は完全に叩き潰したはずだ。

 あとはこの町に衛兵に任せるとしよう。

 そういえば衛兵達はやけに青い顔をしていたが、どうしたのだろうか?



 まぁいい。

 今はバガボン辺境伯と面会する方が先だ。

 シュリの話によると、領主の溺愛する息子のバッカスが『ドラゴンレース』とかいう所に通っているらしい。

 取り合えずそこを目指し、領主に取り次いでもらう計画だ。



 ちなみに『ドラゴンレース』とは何か。

 金を賭けて一位を的中させれば人気に応じた配当金が支払われる、この国で大人気なギャンブルらしい。

 地球で言うところの競馬みたいなものだ。



「秀也! ドラゴンだってよ」

「ワクワクするぜ~!」

「ドラゴンなんて初めて見るぜ!」

「生ドラゴン早く見てぇよ!」

「略して生ドラか~」



 いかんな。

 みんな浮足立っている。

 でもドラゴンなんて初めて見るし、この天才もドキドキが隠せない。

 俺たちはワクワクしながら競竜場へと向かった。




 ◇


 大通りに面した店はどれもあふれるほどの客で満ちている。

 やけに人が多いが、今日は何か祭りでもあるのだろうか?

 盛り場らしい騒音と熱が空間を埋め尽くしている。

 群れなす人の列の先、熱の発生源に視線を向けると、そこには大きな建物があった。

 どこかの国……たしかローマだったか?

 そこで見たコロッセオのような円形の建物だ。

 あの大きな建物がレース場だろう。

 かなりの人だかりだ。

 近づいてみると、レース会場の周りにはたくさんの屋台が立ち並び、大道芸人の周りには人の輪が出来ている。

 中々盛況なようだ。



 中に入ると、円形のレース会場を囲むように木造の座席が並んでいる。

 周囲にはこれから始まるレースに目を血走らせてる人々で一杯だ。

 手にはチケットみたいなものを握りしめているので、大金を賭けているのだろう。

 すごい熱気だ。

 お菓子や酒を扱う物売りが多く、レース開始を告げるラッパや太鼓が耳に痛い。

 何と騒がしい所か! 繊細な俺たちとは無縁な所だ。

 そんなことを考えていた俺の耳に素っ頓狂な悲鳴が届いた。



「嘘ぉ! 財産半分擦っちゃったよ!? 市民の血税がぁ!?」


「若様!? お気を確かに!」



 中々シャレにならない叫びにぎょっとして視線を向ける。

 そこには身なりの良い青年がお付きの者に励まされていた。

 ぽっちゃりとした二十歳前後の男で血色もいい。

 裕福な家の子供ってところか。

 どこの世界にもあんなのはいるんだな。

 しかし市民の血税とはどういう意味だ?

 困惑の視線を送る俺の隣で、シュリは探し物を見つけた子供のような顔で表情を緩めた。



「いました! 彼がバカボン辺境伯の息子、バッカスです」

 

「え? マジで……?」



 シュリに言葉に俺は乾いた笑いを浮かべるしかなかった。


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