第12話 悪徳領主の息子3


「リーダー、何か妙なモノを発見したぞ」


「妙なモノ?」



 それはシュリ達の待つ砦へ戻る途中だった。

 斥候として先行していた服部がわざわざ報告しにきたのだ。

 おそらく何かが引っ掛かったのだろう。



「そんなに怪しいのか?」


「ああ、やけに警備が厳重なんだ」


「そいつは気になるな」



 ここはシュリ達の土地のすぐそばだ。

 ヤバい施設なら早めに潰した方がいい。

 俺はみんなを連れて、服部の見つけた場所へと急行した。




 ◇



「なんでぇ、ただの畑じゃねぇか」



 毒島が落胆した声で呟く。

 厳重な警備を抜けた俺たちを出迎えたのは、同じ植物がびっしりと植えられた畑だった。

 見たことない植物で、先っぽに大きめのコブのようなものが出来ている。

 おそらく薬草の類だと思うが、何だってこんな所にあるんだ?

 ここは国境付近だぞ?

 警備の厳重さから言って相当大事なものはずだが……。



「すまない、リーダー。カンが外れたみたいだ」


「いや、そんなことはないさ。きっと貴重な薬草のはず。いくつか採取していこう」



 俺は植物を何本か丸ごと引っこ抜く。

 とりあえず5本ほど持って帰ろう。

 シュリ達の砦まであと少しだが、念のためここで休憩していこう。

 ここの見張り達は外への警戒はすごいが、内側への警戒はまるでしていないため、安全に休息が採れるはずだ。



「みんな、15分ほど休憩していこうか」


「「「おう!」」」



 俺の言葉を聞いて、皆が腰を下ろし、水筒の水を飲み始める。

 そんな中、とあるクラスメイトがポケットから何かを取り出し、声を張り上げた。



「お~い! タバコ吸いたい奴、集まれ~」



 彼の言葉に5~6名の生徒が集まっていく。

 全く、タバコは体に悪いというのに。

 タバコは20歳からだ。

 みんな、天才との約束だぞ?



 ぼんやりと青空を見上げていると、せき込む音が聞こえ、そちらに視線を移す。

 どうやらタバコを吸っていた生徒が水を飲んだ時に、変な所に入ってむせてしまったようだ。



「大丈夫か?」


「大丈夫だ、秀也……。げっ!? 俺のタバコはどこ行った!?」


「せき込んだ時に落としたんじゃね?」

「見当たんねーぞ」



 まだ吸い足らなかったのか、生徒は慌ててタバコを探すがどこにもない。

 もしかしたら畑の中に落ちたのかもしれないな。

 さすがにタバコ一本で火事になることはないと思うし、ほっといても大丈夫だろう。

 さて、出発の時間だ。



「みんな! そろそろ行こうか」


「ああ~、俺のタバコ……」

「また今度吸おうぜ」



 未練タラタラのクラスメイトを引きずり、俺たちは畑を後にした。

 数十分ほどして、騒がしい気配を感じて振り返ると巨大な煙の柱が立っているのが見えた。

 狼煙にしてはデカいな……。

 焼き畑か何かか?



「なんだ?」

「山火事か?」



「たぶん焼き畑だろう。焼いた草木の灰が肥料となるんだ。他にも雑草や病害虫を駆除できる効果があるらしいぞ」


「そうなんか」

「秀也は何でも知ってるなー」

「やはりお前がナンバーワンだ」



 ふふっ、クラスメイトの称賛が心地よいぜ。

 今回のプレゼントもきっと隣の領主に気に入ってもらえたはずだし、やっぱりいいことすると気分がいいな!

 俺は気分よく悪徳領主の土地を後にした。




 ◇ side マジス・ゲスーイ伯爵



「今何と言った……?」



 夕食時、慌てた兵士が駆け込んできたが、その報告を脳が拒んでいるのかよく聞こえなかった。



「ま、麻薬の材料が……畑が焼き払われました!」


「なんだとぉっー!?」



 バカな!?

 あれだけ厳重に隠していたというのに!

 ショックのあまり、俺は膝から崩れ落ち、それを見た爺やが慌てて駆け寄ってくる。



 兵糧を失い、麻薬の畑も全てダメになった。

 おまけに騎士や兵士は病気になるとは……。

 どこの誰だか知らんが完全にしてやられた。

 このままでは金が足りん。

 仕方ないか……。



「爺や、当家の美術品を全て売れ」


「なっ!? それでは貴族としての面子が保てませんぞ!」


「面子にこだわる余裕がないのだ。ただし噂にはなりたくない。ハゲタカどもに狙われるからな。口の堅い御用商人にだけ話を通せ」



 俺の言葉に爺やが黙って頷き、そのまま爺やの肩を借りて部屋まで戻ることにした。

 賊どもめ、この恨みは忘れんぞ……!



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