第9話 畑にプレゼント


「いや~、良いことするって気持ちいいな!」

「まったくだ!」



 悪徳貴族の領地にて、俺たちはわずかな星の光を頼りにして畑にクソをばら撒いていた。

 もちろんただのクソではない。

 肥溜めで作られた堆肥だ。

 まだちょっと臭うけどたぶん大丈夫だろう。

 敵国とはいえ、人が笑顔になることをすると気持ちがいいな。



「秀也、もうこの畑で最後みたいだぜ」


「分かった。皆、ここで最後だって!」



 毒島の言葉に俺はみんなを呼び寄せ、とりわけ大きな畑にクソをばら撒く。

 ここはジャガイモの畑か。

 彼らの主食はジャガイモと小麦らしい。

 小麦は収穫時期がだいぶ先っぽいが、ジャガイモはそろそろ収穫してもいい頃だ。



 う~ん、イモの方は効果が出る前に収穫されてしまいそうだな。

 まあ、土に栄養が蓄えらるはずだし、来年はきっと豊作になるはずだ。

 その時にうまく交渉すれば、良い取引相手になってくれるかもしれない。



「なぁ、秀也。これって持ち帰んなきゃダメなのか?」



 俺が未来に思いをはせていると、クラスメイトが話しかけてきた。

 彼らが嫌そうに持つのは肥溜めを入れていたバケツだ。

 さすがにちょっと臭うな。



 どうするか。

 畑に堆肥を撒くのに少し時間かかったし、帰りは急いだほうがいいだろう。

 わずかだが日が昇ってきている。

 少しでも身軽になった方がいい。



「よし、捨てていこう」



「分かった。おい、みんな! バケツ捨てていいってよ」

「マジで?」

「さっさと捨てよーぜ」



 俺の言葉にみんながバケツを放り投げた。

 その直後、周囲に水音が響く。

 俺たちは瞬時に物陰に隠れて気配を殺し、辺りの様子を伺う。

 誰か来たのか……?

 訝しむ俺の耳にすまなそうな声が届く。



「わ、悪りぃ。なんか捨てたバケツが水路に落ちたみてぇだ」



 全く驚かせやがって!

 そういえばこの水路はなんだろうか?

 近くの川から引かれているようだが……。

 まさか水道じゃないよな?

 古代ローマの建築技師が活躍するマンガで見た水道に似ている気もするが……。

 まぁ、いいか。



 俺は考えを切り替える。

 ここは敵地。

 用が済んだのならさっさと撤退すべきだ。



「よし、みんな。戻ろうか」


「了解~」

「あ~、さすがに疲れたぜ」

「帰ったら風呂でも入ろうぜ!」



 俺たちは心地よい疲労感や満足感と共に帰宅する。

 うむ、やはり良いことするって気持ちがいいな!

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