第9話

 哲夫は青ざめた顔をして、逃げるように帰って行った。

 満里奈は泣いて泣いて泣いた。

 あまりの事に呆然とした。

 風呂も入らずベッドに倒れ込んだ。その夜は一睡もしなかった。

 翌日はショックは大きかったが、次の日は仕事なので気丈に福山に帰った。

 家に帰ると家族が満里奈の様子を見てなにかあったのかと聞いた。

「フラれたの」

「えーっ」

「そんなバカな」

「何て言われたんだ」

「他に好きな子ができた」って

 家族は言葉を失った。

 それ以降家族はこの件については何も言わなくなった。

 満里奈は仕事中もずっと沈みがちに仕事をしていた。うつろな目をして幽霊のようだった。

父は満里奈に無断で結婚相談所に相談した。

「そうですか、それはご心配ですね。ご安心ください、この私井川芳子結婚相談所に勤めて30年。数々の難問を解決してきました。口は至って堅うございます。ところで何がご希望ですの、復縁ですか、損害賠償ですか、それとも他に」

「いやーそれが、娘には何も言ってませんので、娘の希望はわかりません」


 満里奈は哲夫をどれだけ愛しているか考えてみた。海よりも深く山よりも高く愛していた。

 満里奈は哲夫に手紙を書く事にした。

『こんにちは、お元気ですか?私は哲夫さんを愛しています。私の思いが通じるまで手紙を書きます・・・

 返事はすぐに来た。

『こんにちは、別に僕でなくても、奈良の男だったら誰でも良かったんじゃあないですか・・・

『ブルースを歌ってもらったとき、ピアノを弾いてもらったときに、哲夫さんを好きになりました・・・

『満里奈さんを愛し始めたのは事実です。でも、別の女の子が出て来て俺を好きだと言うので、その子に乗り換えました。・・・

『そのいきさつを詳しく教えてください・・・

『リブラと言うスナックに行って、彼女ができたって言ったら、女の子が泣き出して、私前から竹内さんの事好きだったのにって言うんで、僕もその子がずっと好きだったんだよって言ったらこうなったんです・・・




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