⑲17:32

吹けば飛ぶような、小さな空港。ガラス張りの窓。滑走路。のろのろと動く飛行機。

「おい、本当にいいのか」

「なにがだ」

「このまま行って」

「なんのことだ」

「おまえの恋人があのダンサーだって、私は知らなかったぞ」

「言わなかったからな。それに、恋人でもなんでもない」

「くそっ。おい、もう少し待ってくれ」

「待たないよ。ドリームロールでも引き留められたけど。俺に彼女と会う資格はない」

「三年前、じゃねぇ四年前に喧嘩別れしたからか?」

「そうだ。中学生じゃな。さすがに」

「この腐れオナニー野郎が。いいかげん山だけじゃなくて現実の女を抱けよ」

「いやだね。二度とごめんだ。俺は死んだ母親の寵子だった。人を愛するというのがわからん」

「知るかボケが。一人の女がおまえのために」

「やめろ」

「うっ」

「おっと。すまん。つい」

睨みつけてしまった。

「だから、私も抱かなかったのか。おまえが、母親の」

「もういい。やめろ。震えてるぞ」

「こわいよ。あんた、そんな顔するなんて、思わなかったから」

「すまない」

「待て。待ってくれ。たのむから」

腕。振りほどいた。

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