第13話 欲に忠実なのは良いけど、しっぺ返しは絶対来るよ。

「ええい!! お前達!!! であえ! であえ!!!」


 ハム太郎が兵士を呼んだ。

 1、2、3……、何人いるんだ?


「お覚悟を……」


 何その言い方? 時代劇でも始まったかな?


「でぇえええい!!!!!!」


 って、おい! いきなり突撃かい!?

 君らに作戦とかないの?


 無論、無策な攻撃に当たる俺ではない。

 兵士の剣戟をひらり。ひらり。と蝶のごとく回避する。

 脳みそを使っていない攻撃の回避をたやすい。


「ふー! ふー!」


 俺に飛び掛かってきた兵士は直ぐに呼吸を荒くしてその場に止まった。

 当たらないのに滅茶苦茶に振り回すから……

 やれやれだ。


「なぁ、まずは話合おうじゃないの?」


 俺は変わらず余裕の態度を見せて大人の対応を続ける。

 攻撃をした相手からこんな態度を取られたらいささか不気味だろう。

 兵士の顔には明らかに疲れの中に驚きを含んでいた。


 すると後ろの方から


「ひっ!」

「貴様ら、何する!? 放せ!」


 リリアンとマーズの叫びが聞こえてきた。

 俺はゆっくりと振り返って様子を伺う。


 そこではリリアンとマーズが屈強な兵士に取り囲まれて、剣を向けられていた。

 二人ともびくびくと震えているようだ。

 というか、アイツらもちゃんと可愛い反応できるもんなんだな……


「お前達、その子らは俺の連れなんだぞ? 手を出すなよ?」


 俺はなお優しく命令してやる。

 こういう時、守るために戦うっていうのは正直、お子ちゃまのやることなんだ。

 俺はそのことを良く知っている。

 人間同士ちゃんと話合えば――


「くたばれ!!! この守銭奴ギルドのクソ野郎!!!!!」


―――えっ!? いつの間に?


 背後に現れたデカい兵士が持っていたこん棒で俺の脳天をつく渾身の一撃を繰り出した。

 大きな鈍い音が辺り一帯に響いた。


「フェル様!!!」

「フェルナンド!!!」


 リリアンとマーズは叫ぶ。

 俺は頭から血を吹き出し、そのまま地面に突っ伏した。

 

「全くクソ野郎が!!」

 

 デカい兵士の唾が俺の顔面に吐きつけられる。クッソキモイな……

 ぴきぴき

 ちょっと、ちょっと、さすがの俺も我慢の限界よ?

 守銭奴とかクソ野郎とか言い過ぎじゃない?


 っていうか、なんで俺やリリアンまで襲われてるの?


「ふん。ハンターギルドのマスターと聞いていたから少し警戒していたが、大したことはなかったな。その娘、二人は牢に連れていけ!」


 ちょっと立派な鎧を着た兵士長が兵士に命じる。

 牢? なんで?

 兵士に無理やり引っ張られていたリリアンが叫んだ。


「牢ですって!? ちょっと!!! マーズちゃんは王様殺しの罪があっても私とフェル様は関係ないじゃないですかー!」


 それな!

 っていうかリリアン、やっぱお前はブレないね!?

 マーズがしょぼんって顔してるよ!?


 リリアンの問いに大臣が前に出てきて怒りの形相を浮かべている。


「王殺しの魔王の娘は当然として、貴様らハンターギルドが行った国家の財産の強奪も許しがたい罪……」


 あっ、有能大臣。

 内心めっちゃ怒ってるじゃん。


「あれは、水龍討伐の報酬です!!! あなた方は納得された筈でしょ!?」


「本来であれば、ハンターギルドに報酬をびた一文支払うつもりなどなかったのです……そもそもそんな予算は組んでいません。」


 おいおい。なんかとんでもね―こと言いだしはじめやがった……

 んじゃ、どっから金が出てるんだ?


「それは、私たちには関係ないじゃないですかー!」


 うん。リリアンの方が正しいね。

 

「しかし、貴女が金を強奪したためにに、伝説の勇者が手に入れた国宝を手放し、兵士の給料を10年カットする嵌めになってしまったのです……」


 あらら……ご愁傷様。

 そんな事情があるなら言ってくれれば良かったのに。


「そうだ! あんたらの所為で生活ができなくなっちまったよ!!!」


 兵士に一人が叫ぶと「そうだ」「そうだ」と声を連ねていく。


 しかし、リリアンの目は冷たい。


「私は知ってますよー。大臣と王様が私服を肥やしまくってるって。」


 えっ? そうなの?

 そういえばさっきの話に大臣と王の金の話はなかったようなな……

 一応国宝を手放すは王の金って感じか?――でも、元は俺が手に入れたもんだから別にどうでもいいよな。


「なんと無礼な……早くこの娘を連れていけ!!!」


 大臣は切れ気味に兵士に命じる。


「大臣は、女の子のお店には毎夜毎夜お忍びで行ってるそうじゃないですかー? 今日も行くんですよねー? 愛しのサトリちゃんに会い行くんですよねー?」


 サトリちゃん……?

 女の子の店……?


 大臣はわなわなと震えていた。

 その反応はリリアンが言葉が嘘っぱちなために怒っているのか? 図星をつかれて怒っているのか? 普通ならわからないだろう。

 しかし、俺なら別だ。


――マインド・スキャン


 人の心を読み取る禁断の魔法。

 これがあるため、俺には大臣の心が手に取るようにわかる。


――ぷちんっ!!!


 そう、リリアンの言葉は図星だったのだ。

 それどこらか、サトリちゃんとやらの姿も見えた。

 というか俺もその顔はテレビという通信機器から見たことがある。この国一の美女だ。

 まだぴっちぴっちの15歳だったはずだ。

 それが大臣と床を一緒にしているところまで確認済みだ。

 もう、俺がキレる理由は十分だろう。


 地面に突っ伏していた俺の分身が溶けて消えていく。

 

「フェル様が消えた!?」

「ギルドマスターが消えただと!?」


 突然の事態にこの場にいた全員が騒然とする。

 だが遅い!

 本物の俺は、天から降り、華麗に着地した。


「フェルナン――!!!」


 一番最初に俺に気が付いたマーズが俺の名を呼んだ。

 その言いかける途中、マーズ、リリアン、兵士が全員気絶しその場に倒れた。

 そう、俺のまとう絶対のオーラをぶつけれるだけで、雑魚とは争うことなく気絶させることができるのだ。戦いは同じレベルでしか起きないってね。

 レベルが違うのだよ。レベルが。


 あと、残っているのは大臣とハム太郎のみ。

 俺はゆっくりと立ち上がるとゆらゆらと近づいていく。


「お前、お前は何者だ!!!!!!」


 流石は有能と認めただけはある。

 理解力の高い大臣はこの状況が俺の仕業と分かったのだろう。

 しかし、大臣の叫びを俺は無視する。俺に答えてやる義理はない。

 当然、察しの悪いハム太郎は突然の事態を飲み込めていない。ただ、わかっているのは自分たちが圧倒的な劣勢という事のみ。

 だが、自分はオオカミに喰われる子豚という事は理解したようだ。また、プルプルエクササイズを始めやがった。


「貴様ら……俺が大人の対応ができる内に耳かっぽじって聞きやがれ――」

 

――ごくり。


 二人が生唾を飲み込む音すら大きく聞こえる。

 先ほどのまでの騒がしさは微塵もない。

 もはや戦力を失った無能な大臣とハム太郎は裸の王様同然だ。

 俺は大きな声で言ってやった。


「俺も可愛い女の子がいる店に連れてきやがれ!!!!!!!!!」

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