妄想飼育日誌

日竜生千

観察・仮説・妄想

「アンタっ! また卵食べたら承知しないんだからね!」


そう言って、メダカのメスがオスのメダカを蹴散らしているように見えた。


オスが来てから彼女はもう5回産卵している。


まだ、かえった卵は一つもない。


これは短い夏の長い戦いになりそうだ、私にとっても。

ひと月が経ち記憶の限界が近かった。これ以上は整頓して覚えていられないから、メモることにした。


生き物の記録など、「お別れ」で終わるから記録より記憶して時間に吹き流すのが常だ。そうしてきた。


その記憶の半分以上は、私が勝手に作り上げた妄想でできている。


観察して仮説を立て妄想する。

なんだか話の作り方に似ているのは、こっちの生き物と遊ぶ方が生まれた時からのライフワークだからだ。(生き物「で」≠生き物「と」)


もちろん、メスのメダカはあんなことを喋ったりしない。


むしろ普段からオスメスは仲が悪くないように見える。

メダカにも相性があるそうだ。気に入らない相手だと卵を生まなくなるらしいが、現に産卵は続いていた。


でも、きっとそういう理由なんだ。

彼女が怒っているように見えたのは。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る