第22話 そうなの?

「あー、それは大丈夫です。私がついでに火魔法で沸かしますから」


確かに大量の水を、小分けに沸かすのは大変だもんな。


「火魔法で湯を沸かす?どういうことですか?」


「いや、ふつうに水を温めて・・」


「え?釜とか鍋でですか?それを直接火魔法の炎で?」


「いえ・・」


「そんなことしたら、途中で魔力が切れてしまうじゃないですか!」


ん?


なんか話が、かみ合わないぞ。


「あの、すいません。ドリンさん火魔法ってできますか?」


「火魔法ですか?できますよ。ほら『ファイア』」


「それが火魔法?!」


ドリンさんの指先に、ロウソク程度の炎が灯った。


詠唱も違う。


「火魔法って、みんなそんな感じなんですか?」


「当り前じゃないですか、まあ、私はあまり魔力が無い方なんでこの程度の炎ですが」


ん~・・・。


これは、どういうことだろう?


俺のスキルが特殊だからだろうか?


・・・たぶんそうだろな。


「どうしました?」


「いえ、なんでもありません。とりあえず、私のスキルと魔法でお湯を沸かすのは大丈夫ですので」


「そうですか、ありがとうございます。では、お願いします」


「わかりました」


「それであの~、費用の方なんですが・・」


費用?


ただで、やろうと思ってた。


村長のところからも、貰っていないし。


「費用ですか・・・」


「それ相応にかかるのは覚悟していますので、遠慮なくおっしゃってください」


いや、ただなんだけどなあ・・・。


どうしようかな・・面倒だし、回復魔法と一緒にするか。


「1回につき3000セムでいいですよ。ただし、お湯をためるタライみたいなものは、自前で用意してくださいね」


「そんなもので、いいんですか?わかりました!よろしくお願いします!!」


あれ?


安すぎた??


また村長に怒られるかな?


・・・まあいいか。



かなりうれしそうなドリンさんと握手をし、さっそくということで、もう一軒のお店であるチーズ工房へ向かった。


なんでも、風呂に丁度いいものがあるらしい。



チーズ工房は、肉屋の裏手の小路を挟んですぐのところにあった。


工房兼店舗で、二階が住居になっている。


俺は、ドリンさんに案内されて表の店舗を抜け、さらに奥の工房も抜けると、広い裏庭に出た。


「これなんかどうでしょうか?」


裏庭に積み上げられた大きな樽を指して、ドリンさんが言った。


その樽は、昔にテレビで見たウイスキーを貯蔵する大きな樽にそっくりだった。


「いいですね!」


なんでもこれは、チーズに使う原料の乳を運ぶのに使う樽らしい。


そういえば、どっかのスーパー銭湯にも、同じような樽を使った樽風呂があったなあ。


「この樽って、幾らぐらいするんですか?」


俺も是非欲しいなと思い、聞いてみた。


「そうですねえ、60000セムですかね。中古なら45000セムくらいでしょうか」


買えない額じゃないな。


そうか!


「中古でもいいんで、半月分のお代の代りに1樽譲ってもらえませんか?」


「中古でいいんですか?」


「え?」


「私は慣れているからいいですけど、結構、乳の匂いがしますよ?」


そうなんだ。


「じゃあ、新品の方がいいのかなあ・・」


「ハハハ、お代は変わらずで、新品をお譲りしますよ」


「いいんですか?」


「ええもちろん!お近づきのしるしに、融通させてください。その代わり、これから色々とよろしくお願いしますね」


「ありがとうございます!」


さすが商人、なんか抜け目なさそうな言い方だ。




「じゃあドリンさん、風呂を作りたい場所に使う樽を移動してください」


「わかりました。おい、誰かいるか?!ヨハン!ヨハンはいるか?!」


俺の言葉に、ドリンさんが工房の中に向かって声をかけた。


「へい、ただいま!」


すると、16才くらいの若者が返事をしながら、工房から出てきた。


「ヨハン、この樽をあそこのに運んでくれ」


「へい、わかりました」


ドリンさんは、庭の片隅にある#東屋__あずまや__#を指して、ヨハンくんに指示した。


大丈夫なのかな、一人で?


俺がそう思っていると、ヨハンくんは軽々と大きな樽を抱えて、東屋へと運んでいく。


「すげえ」


「あいつは、毎日ミルクの大鍋をかき混ぜていますからね、あれくらい大したことないですよ」


俺には無理そうだ。


身長は高くても、筋力は無いからな・・。


「できました!旦那様」


ヨハンくんが戻ってくる。


「ご苦労様」


「お疲れ様」


ドリンさんと俺が労いの言葉をかけると、ヨハンくんは目礼をして工房へ戻っていった。




「じゃあ、お湯を入れますね」


それから俺は水魔法と火魔法を使って、いつものように樽にお湯を張っていく。


「こ、これは!」


その様子に、ドリンさんが驚きの声を上げている。


実は最近、水魔法と火魔法そして解析魔法の3つの魔法を同時発動で、直接適温のお湯を生成することができるようになっていたのだ。



「さ、できましたよ」


唖然としているドリンさんをしり目に、お湯張りを終えた俺は声をかけた。


「え?あ、ありがとうございます!」


我に返ったドリンさんが、お礼を言ってくる。


「それで、どうすればいいんですか?」


あーそうか、入り方からわからないのか。


「基本的に行水と同じですよ。ただ、最初は熱さに慣れないと思いますので、ゆっくりと入ってくださいね」


「なるほど、わかりました」



・・・1時間後。


「いやーー気持ちいい!天にも昇る気持ちとはこのことだ!!」


ここに、風呂の魅力の#虜__とりこ__#になった異世界人が、また一人誕生した。




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