第20話 依頼

「実はですね・・」


ハーブティーに、砂糖を何杯も入れて飲んでいたドリンさんが、カップをテーブルに置いて話し始めた。


「実はですね、見ての通り私の体型がこうじゃないですか」


そう言って、右の手のひらで自分の体を指し示す。


「はあ・・?」


「ですから最近、膝が痛くてですね、たまらんのですよ」


膝をさすりながら、顔をしかめる。


「そうなんですか?」


「ええ、おまけにエールを飲むのが三度の飯より好きときている」


「はあ・・?」


「で、このお腹ですよ」


今度は前に突き出たお腹をさすっている。


ん~・・それって、痛風じゃね?


「たぶん、余計に膝に負担がかかっていると思うんですよ」


分かってるんなら、節制すれば・・・。


「それで、聞くところによると、『ふろ』というのが関節の痛みにとても利くと言うじゃありませんか?」


出どころは村長か?


味方だと思っていたのに・・。


それとも、意外と抜けている(ボケているとは言ってません)ところがあるから、うっかり口を滑らせたのかも。


「その『ふろ』を作ったのが、回復魔法の達人のマモルさんだというのを聞いてですね」


やっぱり、そういうことですか。


「風呂にに入りたいと?」


「ええ!というか、是非とも我が家にも『ふろ』を作って頂けないかと」


「なるほど」


なんか面倒なことになってきたぞ。


「風呂を作ると言っても、難しいことは何も無いんです。お湯が溜められて、人がその中に入れさえすれば」


「そんなものでいいんですか?」


「ええ、でも大量のお湯が必要になるんですけど、それを毎回用意することはできますか?」


「大量のお湯・・・お湯はカマドで沸かせばできますが、大量のとなりますと一々井戸から汲むにしても簡単には・・」


「ですよね・・」


この世界に水道は無い。


毎朝、井戸から汲んできて水がめに溜めて、飲料水や料理、生活用水に使っている。


水汲みはやっぱり重労働で、水は貴重なのだ。


それに、井戸は共同だから、勝手に大量に使うことも良くない。


もしも井戸が枯れてしまったら、死活問題だ。


やっぱりこういう流れになるんだよな・・しかたない。


「じゃあ、わかりました。お湯は私が溜めてあげます」


「よろしいので?」


「ええ、水魔法でなんとかなりますから」


「水魔法で?でもそんなに大量の水を、大丈夫なんですか?普通せいぜい手桶に一杯くらいですよね?」


「え?」


そうなの?


水魔法って、そんなにショボいものなの?


「では、その水を沸かせばいいのですね。でも時間が・・」



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