第27変 マジ?あーし?

 机には大量のお菓子や飲み物。応援団の練習だったはずが、何故か歓迎会のようになっていた。

 小倉さんの周りには女子が集まっており、楽しく会話している。


「わー、本物の志乃ちゃんだ! あ、今はスイートホワイトだね。私はヨーグリーン。よろしくね」

「よろしくお願いします。先輩に名前を知っててもらえるなんて光栄です」

「もちろんだよ! よく名前聞くからね」

「ふっふっふ、闇夜の鼓動から浮き渡る一筋の光。皆から天使エンジェルと呼ばれ……呼ばれ?」

「私も、君は有名だから知ってるって」

「ちょっと、ゆんちゃん! あ、グレー! 先に言わないでよー! え、えっと、ホワイト、其方に宿る……」


 ハンバーグレーによって、必死に考えているマシュマロピンクの口にお菓子が詰められる。すると、彼女は満足そうな顔でお菓子を食べ始めた。

 きっとこの二人は仲がいいんだろうな。


「女子達はもう仲良くなってるようだね」

「あ、そうですね」


 突然、おでんイエローに話しかけられる。

 先輩相手に何を話せばいいんだ? 緊張する。


「俺はおでんイエローだ。よろしくな」

「は、はい」


 俺はおでんイエローと握手を交わす。

 その瞬間、急にラーメンゴールドが声を上げる。


「おいおいおい、俺はみんなと仲良しこよしなんてごめんだぜ。なんだって、俺は一人で頂点を取る、田中智ことラーメンゴールド様だからな」

「あら〜、きみ、おもろいこと言うてるなぁ。頂点を取るってどないな意味なん?」

「あ? ここまで言って分からないとか馬鹿かよ。頂点を取るっていうのは、頂点を取るっていう意味しかないだろ」

「その具体的な意味を聞いているんやけどな〜」

「まだ、分からないのかよ。ふっ」


 ラーメンゴールドは鼻で笑う。

 あまざけバイオレットはその様子を見て微笑む。彼女のそばにいる、のりブラウンは何故かおろおろしている。


「ごめんな〜、うち馬鹿で。きみが言うてること全然理解できひんわ」

「そうだろ。この程度も理解できないお前は馬鹿だ」

「……そんな馬鹿に教えてや。きみ、いや、あんたはどないして頂点を取るん?」

「え、そんなの簡単だ。まずこの学校で頂点をとって……」

「頂点を取るにはに何をするんか? って聞いてんねん」

「それは……まず、舎弟を作って、それで、みんなで協力して……」


 あまざけバイオレットは、にやりと笑う。


「あら〜? あんた、仲良しこよしは堪忍やったんちゃうん? 一人で頂点とらへんの?」

「うっ、それは……」

「まあ、ええわ。それで舎弟を作って、みんなで協力してどないすんの? そないしたら何になるん? そもそも、頂点をとってどうすの? で、どないして頂点を取るん? なあ、馬鹿なうちに教えてや」

「も、もう、いいだろ」


 ラーメンゴールドは顔をうつむける。そんな様子を見て、あまざけバイオレットはにやにやしていた。

 この人は、多分怒らせてはいけない。


「あの、こいつのこと許してやってくれないっすか?」


 あんぱんシルバーが両手を合わせながら、申し訳なさそうに言う。


「許したげたいけどな。そやけど、まだ何一つも理解できひんの。うち、馬鹿やさかいね」

「いやいや、馬鹿じゃないっすよ。俺も理解できないことが多いので、分からなくて当然っす」

「おい!」

「とにかく、今回は兄を許して欲しいっす。俺が何とか制御するんで」

「あら、あんた達、兄弟なん? ふーん」

「何だよ!」

「あんた達、全然似てへんな。まるで月とスッポンやわ。優秀な弟がおって良かったなぁ、田中智くん」

「はあ!? それって俺がスッ」


 あんぱんシルバーによって、ラーメンゴールドの口が塞がれる。ラーメンゴールドは暴れている。


「ほんと、すいませんっす。ほら、兄ちゃん、お菓子あるっすよ」

「お菓子!?」


 ラーメンゴールドはお菓子に向かって走って行った。

 本当に変わった人だな……。


「ははは、みんな仲良くなっているようだな。それじゃあ、そろそろ応援団のことについて話そうか」


 ミートレッドはそう言うと、黒板にでかでかと『団長』『副団長×2』と書く。


「まずは団長と副団長を決めようか。誰か、団長をしたい人はいるか?」

「おれおれ! 俺に任せろ! なんだって、俺が頂点を……」


 お菓子を食べながら話す、ラーメンゴールドをあまざけバイオレットが睨む。


「こ、今回は他のやつに譲ってやってもいいぞ」

「……ていうか……大橋ミートレッドがやれば……」


 今までスマホを見ていたジュースオレンジが、ぼそぼそと話しだした。


「ははは、俺は嫌だね!」

「……え?」


 さっきまで笑顔だった、ミートレッドが急に真顔になる。そして、近くにある椅子に座り、頭を抱え込んだ。


「ちょっと、聞いてくれないか? 実は、俺は人前に出るのが大嫌いなんだ。本当は応援団もしたくなかったんだけど、くじ引きで当たりを引いちゃって……。それに、僕なんかが応援団長になっても誰も喜ばないよ」


 だんだん弱気になっていくと共に、話し方が幼くなっている。

 話を聞く限り、かなり自分に自信がないんだろうな。


「それに……」


 ミートレットは聞こえないくらいの声の大きさで、ぶつぶつと独り言を呟いている。


「あーあ、大橋ミートレッドのウジウジモードが始まったし。てか、あーしもパス。こんなかでやりたい人いんの?」


 それぞれ誰とも目を合わせない。


「そ、その、ぼ、僕達もくじ引きで……き、決まったので」

「俺達もそうっす。そうじゃないと、そもそも兄ちゃんが応援団に入れないっすよ」

「おい! 馬鹿にしてるよな」

「えっと、私たちもくじ引きでした」

「私たちも……」

「俺達も……」


 どうやら、全員くじ引きで当たりを引いて、応援団に入ったようだ。……何で全員くじ引きなんだ。


「みんなくじ引きで決まってんの? ウケるんだけど。てーか、マジどーする?」


 タピオカシアンはそう言うと、何か思いついたような顔をする。そして、近くにあった紙に何か書き始めた。


「じゃあさ、ここまできたらさ、あみだで決めよーよ」


 あみだ……『あみだくじ』か。

 応援団長をあみだくじで選んでもいいのか……。いや、くじ引きで選ばれた俺達にはいいのかもしれないな。


「恨みっこはなしね。じゃあ、そこのハムスターみたいな、ピンクちゃんから。好きなとこ選んでー」

「ふっふっふ、我が手に封印された漆黒の獅子が……えーと、我はその……。ここにする!」

「ここね。次は……」


 みんな選び終わると、タピオカシアンは早速、あみだくじを始める。


「あ、○が応援団長で、△が副団長だからね。えーと、ブラウンは×、シルバーは×、イエローも×……」


 グリーン、ピンク、オレンジ、ゴールド、グレー、バイオレット、ブラックも×だった。

 のこりは『レッド』『シアン』『ホワイト』『ブルー』だ。つまり、この中の三人が○か△ということになる。

 ……普通に嫌な予感がする。


「俺はやりたくない、やりたくない、やりたくない、やりたくない、やりたくない、やりたくない、やりたくない、やりたくない、やりたくない、やりたくない」


 ミートレッドは物凄い剣幕で神様に祈っている。本当にやりたくないんだろうな。


「あーしはくじ運いいから、きっと大橋ミートレッドっしょ。はは、頑張ってね」


 ミートレッドに追い打ちをかけるように、タピオカシアンが言う。その言葉を聞き、ミートレッドは椅子から崩れ落ちた。


「それじゃ、大橋ミートレッドのとこやろっかな」


 そう言いながら、線に沿ってマーカーを動かす。その先には『×』と書かれていた。


「ウソ!?」


 タピオカシアンは驚いた顔で叫ぶ。その瞬間、ミートレッドが立ち上がり、近くにいたジュースオレンジに抱きつく。どうやら、あまりの嬉しさに泣いているようだ。

 というか、これで俺と小倉さんは団長か副団長のどっちかが確定ということになる。せめて、副団長がいい。


「信じられないんだけどー。てか、団長だけはマジ勘弁。……あ」


 結果、タピオカシアンが○だった。俺と小倉さんは△で副団長だ。


「マジ? あーし? ふーん……そっか」


 タピオカシアンは嫌そうな顔から一転し、ニヤッと笑った。

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