第19変 お泊まり、キャンプファイヤー、ボランティア!①

「最後に、夏休みに二泊三日のボランティアがあるんだが、参加してくれる人を募集している。詳しいことは後ろに貼っているプリントに書かれているから、興味がある人は各自見るように」


 ホームルームの最後に先生が思い出したように言う。先生が言い終わると、授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。


「ボランティア。何て良い響きなんだろうか」


 そう言いながら、晴翔が近づいてきた。この後にどういう展開になるのか分かるような気がする。


「二泊三日の宿泊、自然豊かな場所、みんなで夕食作り、キャンプファイヤー。ああ、僕には分かるよ。それらが僕らを呼んでいる」

「言っとくが、だからな」

「大丈夫さ。ちゃんと分かっているよ。だから、僕たちで参加しよう!」


 やっぱりこう言い出すのか。久保も同じことを思っていたようで、


「あなたはいつもいつも、思いつきで行動して! 振り回されるこっちの身にもなってください」


 と呆れながら言う。


「ただ僕は二人と夏休みを楽しみたいだけなんだ。……駄目かい?」


 そんなことを言われたら断りづらい。

 俺は晴翔から目線をそらす。


「そ、そんなこと言っても駄目です」

「それにこの先、進路の面でもボランティアは大切になってくるだろう?」

「……津久井の口から進路の文字が出てくるなんて」

「中学の時受験前にも関わらず、進路のしの文字さえ知らなかったあの晴翔が……」

「あの時は本当に迷惑をかけたよ。それより、僕は二人と参加したいんだ」

「……分かりました、参加します」


 久保がこんなにあっさり言うとは思っていなかったので驚く。晴翔も驚いたようで、目をパチパチしている。


「何で二人とも黙るのですか」

「いや、久保が参加するって言うとは思ってなかったからな……」

「進路の役に立つのは本当ですし、それにその、少し楽しみだなって思いまして……」


 久保はそう言うと、恥ずかしそうに頬を掻く。そんな久保を見て、晴翔はにっこりと笑う。


「少しじゃなくて、絶対楽しくしてみせるさ! この僕が絶対楽しい夏にしてみせるよ!」

「もう一度言うけど、ボランティアだからな……」


 とにかく、みんなでボランティアに参加することになった。



 そして、ボランティア当日となった。俺たちはバスに乗って、山奥の青少年の家へと移動した。部屋に荷物を置き、集合場所へと移動する。


「えーと、今回参加してくれた、久保花織さん、洲本裕さん、津久井晴翔さんだね?」

「はい。よろしくお願いします」


 そう言い、頭を下げる。他の二人もそれぞれ頭を下げる。


「うん、よろしくね。あ、あと本当はもう一人いるんだけど、その子は遅れてくるらしいから、一応知っておいて」

「あ、はい。分かりました」


 俺達以外にもいるんだな。全く知らなかった。


「それじゃあ、まずはボランティアの内容を再度確認してもらっていい?」


 机に置かれた紙を見る。その紙には日程や注意事項など様々なことが書かれていた。


「日程はそこに書いてある通りで、詳しいことは順次説明していくからね。あと、楽しんでもいいけど、あくまでもこれは子供達の為の合宿だから、ボランティアの君達が羽目を外し過ぎないようにすること」

「は、はい」

「それじゃあ、早速始めるからついてきて」


 そう言われると、場所を移動する。つれて行かれた場所は炊事場だった。


「この後にカレー作りをする予定だから、ここにある材料や調理器具を人数分ごとに分けておいてくれないかな? どれくらいいるのかはここに書いてあるから」


 紙を受け取る。


「私は子供達の所に行ってくるから、よろしくね。終わったら声をかけて」

「分かりました」


 そう言うと、女の人は去っていった。


「……ふふ、ついに始まったよ! このひとときの時間しか味わうことができない最高の時間が!」

「言っときますけど、私達はボランティアでここに来たのですからね。さっきのお方も言っていたみたいに羽目を外さないように気をつけてくださいね」

「もちろんさ! そんな花織こそ、楽しみで昨日は眠れなかったようだね」


 晴翔がそう言うと、久保は恥ずかしそうに声を上げる。


「そんなこと誰から聞いたのですか!?」

「花織のお母さんからさ」

「もう、お母様ったら……。と、とにかく早く始めましょう!」

「そうだな。材料を分けるのは久保に任せていいか?」

「分かりました」

「それじゃあ、早速始めるか」


 それぞれ作業を始める。調理器具は主に鍋、包丁、まな板、ボールなどで、その他にも紙皿や割り箸なども用意しなければならない。分けている途中で紙皿が不足していることに気づく。


「紙皿が足りないな。取ってくるからしばらく任せていいか?」

「もちろんさ。任せてくれ」


 晴翔の返事を聞き、さっきの人がいる所に移動する。その人から紙皿を受け取り、元の道を戻る。


「すみませーん!」


 戻っている途中で後ろの方から声が聞こえてきた。後ろを振り向くと、そこには見覚えがある人がいた。


「お、小倉さん!?」

「嘘っ、何であんたがいるのよ!?」


 小倉さんも驚いているようだ。


「俺達はボランティアで来てて……」

「あんたもなの? 私もだけど」


 そういえば、一人遅れてくるって言ってたような。どうやらその人が小倉さんらしい。


「私以外にも三人いるって聞いてたけど、まさかあんたと一緒になるなんて。まあ、いいわ。それより、あんた達の所に連れて行ってくれない?」

「わ、分かりました」


 小倉さんと一緒に移動する。道中はずっと無言で気まずい空気が続く。


「あ、あの」

「何」

「えっと……。何でもないです」

「そう」


 コミュ力が欲しいと思う瞬間だった。また気まずい空気が続く。


「ねえ」


 そんな時、小倉さんが話しかけてきた。


「は、はい」

「あのこと誰にも言ってないでしょうね」

「あのこと?」


 何のことか分からずに少し悩む。すると、一つ心当たりがあることを思い出す。


「……あの日のことですか?」

「そのことしかないじゃない。もちろん、言ってないわよね?」


 小倉さんは歩くのをやめ、俺の方を向く。表情は分からないが、きっと良くはないだろう。俺は必死に頷いた。


「そう。それならいいわ」


 小倉さんはそう言うと、再び歩き始める。しばらくすると、元の場所に戻ってきた。


「お待たせ」


 そう声をかけると久保と晴翔が近寄ってくる。久保はなんだか疲れているようだ。


「おかえり、裕。随分遅かったじゃないか。もう全部終わったよ」

「ほぼ私がやりましたけどね。あなたは二度と包丁を握らないでください」


 相当、大変なことがあったんだな。


「ん、そこにいるのは志乃じゃないかい? どうしてこんな所に子猫ちゃんが? もしかして、僕の魅力で子猫ちゃんを惹きつけた……。それなら、僕は何て罪な男なんだろう」

「それで、どうしてここに小倉さんが?」


 久保は晴翔の話を受け流し、話を続ける。


「私もボランティアに参加したの。他にも参加する人がいるって聞いてたけど、まさか三人だったなんて……! びっくりしたよ!」


 小倉さんのこの変わりようは、本当に凄いと思う。


「あとの一人は小倉さんだったのですね。知っているお方で安心しました。二泊三日の間ですが、よろしくお願いします」


 久保はそう言い、会釈する。


「子猫ちゃんを楽しい晴翔ワールドへ導いてみせるよ」

「えっと……」


 小倉さんは困惑しているようだ。


「つまり、楽しい活動にしてみせるってことか?」

「そういうことさ」


 俺は何でこいつの言葉が分かるのだろうか。


「ははは……。とりあえず、三人共よろしくね!」


 こうして、二泊三日のボランティアが始まった。

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