2を選んだ方に太宰治のファンがいたらごめんなさい。

「よし、メロスを呼ぼう!」


 私は次元を超えて、日本文学の名作の主人公メロスを呼んだ。

 正義のため友情のため名誉のため走った彼だったら、公共の場を邪魔するサンダルをきっと捕まえてくれるはずッ……!


 夕空に、ガラスが割れたような空間の裂け目が現れ、途端に稲妻のような光が道路に落ちる!

 眩しさに思わず目を閉じ、再び目を開けるとーー。



 全裸の男が、寝ていた。



「なんで全裸ァ!?」

「え、お姉さん知らないの?」


 さっと目を隠す私に、男の子がこう言った。


「走れメロス、最後のオチは全裸オチなんだよ」

「嘘でしょ!?」


 そんな今流行のお笑い芸人みたいなオチだったの!?

 前読んだの小学生ぐらいだったし、漢字難しすぎて途中をすっ飛ばして王様と和解したシーンだけ見たから覚えていなかった。


「……っていうか、なんで呼び出しちゃったの。メロス、原作全然走ってないよ」

「はいぃ!?」

「ほら、青空文庫で読んでみてよ」


 男の子に言われて、私はスマートフォンで青空文庫の『走れメロス』を読んだ……。



『走れメロス』の「走らないメロス」

・王様と約束したあと、深夜人質になる友達に事情を話し、次の日の午前中(日は既に登っていた)まで十里(一里=3.9キロ。大体約40キロ)を行く。

 ちなみに、フルマラソンは42.195キロ。選手は2時間台で走っている。走れよメロス。


・妹に花嫁衣裳の衣をあげたあと、夜まで爆睡。花婿に結婚式を明日にしてくれと夜明けまで説得。

 次の日の昼に結婚式が挙げられる。このあと豪雨がやってくるが、夜まで宴会騒ぎ。

 メロス「あすの日没まで時間あるしちょっと寝よ」と言って眠る。→寝過ごした後、「悠々と身仕度をはじめた。(原文ママ)」。早くしろよメロス。


・雨も小ぶりになり、ようやく矢のように走るメロス。

 が、突然「のんびりでもだーいじょーぶ」と思い直すメロス。「好きな小歌をいい声で歌い出した。ぶらぶら歩いて二里(約8キロ)行き三里(約12キロ)行き、そろそろ全里程の半ば(約20キロ)に到達(原文ママ)」した途端、豪雨で川が大氾濫! ぼやっとしすぎだろメロス!!

 なんとか乗り越えつつも、今度は山賊に襲われる。

 とうとう力尽きてメロスは心の中で友に「裏切るつもりはなかった!」と叫ぶ。だから走れよメロス。

・なんとか間に合い、メロスは全裸のまま物語は終わる。



 ……私は、寝そべながら尻をボリボリかくメロスに向かって叫んだ。


「走れよメロスッッッ!!!」


参考文献

太宰治『走れメロス』青空文庫

https://www.aozora.gr.jp/cards/000035/files/1567_14913.html

(最終アクセス2020年7月13日)

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