第14話 虫になれよう こんちゅうの森

 ユイの宣言後、いつもの口に合わない飯を食べて、ヒールをかけてる。

 本当にこれでよかったのか?なんて野暮なことは聞かない。

 決めたのは彼女だ。

 


 翌日、また森に行く。今回もガンゼフがついている。

 俺のほうをめちゃくちゃにらんでくる。

 怖いな。

 やのつく職業の人に絡まれたみたいだ。

 森の中に入る。

 虫がいる。なんか、カブトムシみたいな甲殻類だ。日本で見る虫の二倍くらいででかい。

 これなら俺でも触れる。

 おお、かっこいい。飼いたいな。

 一匹取って、右手に乗っける。

 ユイはまず見ることから始める。

 かなり目を細めている。

 それからじょじょに目を開けていく。

 これを、数回繰り返している。

 カブトムシなので、慣れるのは早かった。

 ゲームでもよくあるしな。

 

「触ってみる」

 

 ユイは覚悟を決めたようだ。

 意外と早いな。

 正直、直視するだけでもに三日かかると思った。

 ユイは触ろうとする。

 急にカブトムシが動きがおかしくなる。

 びくびくして、止まる。

 次の瞬間、寄生虫があふれ出てきた。白くぶよぶよとしたものが何匹もはい出てくる。


「うわぁっぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁあっぁぁぁ」


 俺はすかさず手をのける。


「何っ!!」


 ガンゼフは焦った表情を浮かべる。

 ガンゼフはすぐさま、落としたカブトムシを踏む。

 グチャ

 

「ファイヤーボール」


 ガンゼフの手には手のひらサイズの赤い球が浮かぶ。それをカブトムシに放つ。燃えてなくなる。


「ちっ、まさかこんな小さな虫にまで寄生していたとは」


 ガンゼフは苦いものでも食べたような顔をする。


「ほかの生き物にもこんな虫が寄生しているのか」


「いや、寄生されているものは珍しい。比較的大きな生き物に寄生することが多いが」


 ガンゼフは答える。

 

 トラウマ決定だ。


 背筋のぞくぞくが止まらない。


「ウォーターボール」


 左手にバランスボールくらい水の塊を出現させる。それを思いっきり右手の平に当てる。

 かなり痛かったがこれだけ右手を洗わないなんてことはできない。

 ユイのほうを見てみる。

 完全に固まっていた。

 心が完全に折れたんじゃないのか。

 俺も心が折れたよ。

 森全部燃やしてやろうか。

 とりあえず、放心状態のユイの手を引っ張って森を出る。

 

「なんか、もう慣れた」


 ユイがぼっそっとつぶやく。

 やべぇ。

 なんか変なスイッチ入っちゃったよ。


「もう一回森に行く」


 ユイはそう言いだした。

 おい、マジかよ。

 俺が行きたくねえ。

 ユイはは森の中に入っていく。

 仕方ないので俺もついていく。

 少し歩くと、さっきのと似たカブトムシが木についている。

 もはや見るだけで、悪寒がする。

 あまり視界に入れないようにする。

 ユイは急に止まる。

 そして、カブトムシのほうへと歩き始めた。


 まさか、触るのか。


 ユイは手を振りかぶる。


 グチャ


 そして、カブトムシを殴り潰した。

 カブトムシが木っ端みじんになる。

 拳を引くと、ぺったんこになったカブトムシの死骸がボトリと落ちる。

 俺は目を背ける。

 グロい、あまりにもグロい。

 俺は吐き気を抑えるように口を押える。

 ユイは数歩下がる。

 

「気持ち悪いんだよ」


  ユイはどす黒い感情をむき出しにしたまま、魔法を唱える。


「ファイアーボール」


 火の玉が打たれた。着弾すると、火球は崩れて一気に燃え広がる。

 周りの木に引火している。

 もはや、火事だ。

 

「きゃははははぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 そんな光景を見て、ユイは爆笑していた。

 誰だ?

 俺はそんなことを思っていた。

 小さいころから見てきたが、こんな姿は一度だって見たことがない。

 もっと普通の性格だった。

 少し茶目っ気があって、人見知りで、そのくせ急に大胆なことをする。

 決して、虫を殺して笑うような性格ではない。

 どうしたんだろう。

 壊れちゃったのかな。

 心が。

 突っ立っていると、後から来たガンゼフが怒鳴る。


「何をしている!!火を消すんだ!!」


 その言葉に、ハっとする。

 火はさっきよりも燃え広がっていた。

 俺は魔法を唱える。


「ウォーターボール」


 いつもより少し多めに魔力を込める。

 すると、半径十メーターくらいの大きな水の球ができる。

 それを、火元に向かって投げる。

 水の球の進行路にある火は当たって消えていく。

 狙った場所に着くと、水の球が割れる。

 水がすごい勢い押し寄せてくる。まるで洪水のようだ。

 火が一気に消えていく。

 俺たちのほうにも、その水が向かってくる。

 膝よりも少ししたくらいまでの高さもあるので、足がすくわれてこける。

 痛って!!

 体全体が水浸しになる。

 体を起こして、周りを見てみる。

 火はすべて消えていた。

 ユイもガンゼフもみなこけていた。

 ユイが立って、こちらに近づいてくる。

 正直、怖いと思った。何をされるかわからないそんな怖さ。


「私、虫大丈夫になったよ」


 ユイは笑った。

 それは、悪意のない純粋な笑顔だ。

 

「よかったな」


 俺も笑え返した。

 

 

 

 


 

 


  

 


 

 

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