第10話 魔法よりも大事なものがある。

 翌日、今日もあのオッサンと剣の稽古だ。

 だが昨日と変わって、朝にやると言われた。

 今はユイと一緒にガンゼフの後ろをついていく。

 城の長い廊下を歩いていく。

 外に出るとそこには馬車が待ち構えていた。


「さあ、乗って」


 ガンゼフがせかす。


「「は?」」


 何言ってんだこいつ。

 ユイも同じように首をかしげている。


「今日は実戦だ」


「「いやいやいや、待て待て待て」」


 ユイと同時に返事をする。

 シンクロ率百パーセントだ。


「実戦はまだ早いでしょう。しかも心の準備もできていないし」


「そうですよ。私なんて一回も稽古つけてもらってないんですよ」


 本音は行きたくないだけだけど。だって死ぬかもしれないんだよ。剣で熊狩れって言われてるようなもんじゃん。無理だよ。無理。


「そういうと思ったから、準備しておいたんだ。無理やりでも乗せれるように」


「いや、でも・・・・・・」


 ガンゼフの顔が怖くなる。スキンヘッドのオッサンににらまれて体が硬直する。


「そんな悠長なことを言っていていいのか?魔物はすでに城内に潜り込んだようじゃないか。勇者様には早く強くなっていただかなければならない」


「でも魔物は・・・・・・」


 俺はユイの口をふさぐ。もごもごとした声で何してんのよ!!と言っている。

 俺は手をはなす。


「何してんのよ!!」


 ユイは小声で文句を言ってくる。


「お前、今、魔物はいないって言おうとしただろ」


「そうだけど」


 ユイは平然と返事をする。

 そんなことだろうと思った。


「ドアの件はどうするんだよ。魔物を追い払ったって言ったじゃないか」


「はあ!?原因はあんたでしょうが」


「そうだけど、お前もあの時訂正しなかったから嘘を言っているのと変わらない」


「うっ」


 ユイは顔をゆがめる。


「悪いことを下から罰が当たったんだ」


「お前が言うな!!お前が」


 ユイはかなりおこっているようだ。

 それはそうだろう。

 魔物はいないと言えばそれで論破できたのだから。

 でも、魔物がいる前提で論破するのは困難だ。

 

「はぁ~」


ユイは大きくため息をつく。


「覚悟は決まったか?」


 会話が終わったところでガンゼフは訪ねてきた。


「まあ、一応」


 ユイは返事をしない。


「よし、じゃあ乗ってくれ」


 ユイの返事を聞かずに俺たちをを馬車にのせる。

 甲高い鞭の音が鳴り響くと馬車は前進する。

 

 ガタン ガタン

 ガタン ガタン

 ガタン ガタン

 

 馬車は前後左右上下に大きくゆれる。座っている場所にはクッションなんてものは存在しない。なので、体が跳ねると固い木の板ににお尻で着地する。

 しかも、揺れ方が半端ない。

 山道の比じゃない。

 アスファルトなんてものはないので、未知は舗装されてない。

 それに、タイヤにゴムがない。

 サスペンションもない。

 ただ、車輪に棒をぶっさしているだけ。

 トミカでもサスペンションついてるぞ。

 馬車にもつけろよ!!

 数分後には俺とユイの顔は真っ青だった。

 気持ち悪い。

 そうだ。ヒールを使おう。


「ヒール」


 はあ、治った。

 お尻が痛いのも少しマシになった。


「ヒール」


 ユイも同じように魔法を唱える。


「どうしたんだ。魔法なんて使って。体調でも悪いのか」


「いえ、大丈夫です」


「はい、私もです」


 反射的に答える。

 って、あっ

 論破しなくても仮病をつかえばよかったんじゃねえの。

 俺、バカだ。

 怖いオッサンの前だからってここまで考えが回らないものかね。

 自分の馬鹿さ加減に泣きそうだ。


 数分後・・・・・・


「「ヒール」」


 数分後・・・・・・


「「ヒール」」


 数分後・・・・・・


「「ヒール」」


 これを繰り返していく。

 目的地に着くまでに数十回ヒールを唱えている。

 ガンゼフは魔力なくならないのかと心配している。

 そんなの知らねえよ。

 測ったことないもん。

 着いた時には体的には大丈夫でも精神的にはつらかった。

 気分が悪いと思い始めたらヒール。

 少しでも気を抜いて、忘れると吐き気が一気に襲ってくる。

 ユイも疲れた表情をしている。

 乗り心地って重要だね。

 サスペンション最高。

 ゴム最高。


 

 

 


 

 

 


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る