エルケーニヒ
白野 音
ディアボロ
轟音を上げてビル内部がどんどん崩れていく。爆発音がしていたため、きっと爆弾魔がいたのだろう、ということしか分からない。非常口を探さないと。いつ僕の上が崩れてもおかしくない。
いつも見ている景色なのに煙のせいでよくわからない。くそっ、こんなことあるのかよ。とにかく非常口があっただろう方向へ屈みながら急ぐ。煙越しに緑色の光が見える。出口だ、非常口があった。
距離はもうすぐそこだった。
しかし再びの爆発音。そのせいでビルの老化は急激に進み、立っていることすらままならない揺れが襲いかる。一歩足を出す。あと少し、あと少しだ。
その時、僕の上から瓦礫が落ちてきた。なんとか間一髪だ。と、思ったが僕の運動神経はそんなに良くないらしく、見事に片足が下敷きになってしまった。これじゃあさすがに逃げ出すのは無理だ。助けを待つしかない。
だたただ怖かった。早く逃げたいし、発狂してしまいそうになるくらい平静を保って居られなかった。だって今上から落ちてきたら潰されるしかない。ああ、なんだこれ! こんなことなら今日会社休むんだった。
カツカツと非常口と逆側から音が聞こえる。逃げ遅れた人か、それとも救助隊か。どちらにせよそれは僕を落ち着かせてくれた。その足音はどんどんと大きくなっていく。
仰向けで下敷きになっているため下半身しか見えないが、女性のようだった。
「なあ! すまない! 足元をみてほしい!」
「おお、ビックリしました。大丈夫ですか? 逃げないんですか?」
その声は少女だろうか。大人というには少し幼い声質だと思った。
「頼む! 今動けないからここの非常口使って救助隊に知らせてほしい!」
「本当に瓦礫どかせないんですか?」
「これは……僕の力じゃどうしようもない。」
「そうですか」そういうと少女は僕の右足の方へと歩いていった。
少女はポケットからライターを取り出し、僕の右足のスーツの裾を。
「おい! なにしてんだよ! くそっ、痛え、熱い!」
「なにって言われても焼いてるんですよ? それに、まだ貴方は気付いてないんですか? "まだ会社員になってない年の人が会社のビルにいる"んですよ?」彼女はケタケタと笑う。
「熱いんだよ! はやく消せよ! このアマが!!」
「怖いなぁー。でも、なんと言われようと消さないですよ~?」彼女は笑って続ける。
「だって貴方、動けないじゃないですか。人が慌てて恐怖してるとこが見たくて爆弾を設置したのに。」
こいつが。こいつが元凶かよ! 運が悪いなんてもんじゃなかった。そんな事を考えている間も僕は下半身から徐々に焼かれていった。ダメだ、もう助けがきても間に合わない。
「じゃ、私行きますね。だって上から瓦礫落ちてきたら嫌ですし! では、おやすみなさい!」
「おい、てめえ!! あああああああああ!! くそがっ!!!」
どうしようもない怒りが襲う。非常口の外でその女が笑っている。あいつは人間じゃない。そして余裕がある。例えるならば魔王。
興奮が冷めたからだろうか。アドレナリンが切れてきて激痛が襲う。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。誰か助けて。死にたくない。
また足音が聞こえる。それも非常口からだ! まだ、まだもしかしたら助かるかもしれない! たとえ全身を火傷し、下半身を骨折しているとしても。
「おい! 誰かいるか!」
「僕がいる! 足元だ!! 助けてくれ!!」
「わかった! 今火を消してやる! 待ってろ!」救助隊の人はそう言うと近くの消火器と砂が置いてあるところへ走る。
ようやく救われる。僕は生きれる!
そう思った時に、上から大きな瓦礫が僕の頭をめがけて落ちてきた。
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